戦は民草のためにならず-4

 1階に降りると今度は城からの使者がきていた。城からの使いということは弟君の手のものだろう。有名になってしまったのは仕方がないが、ここまで露骨だとうんざりしてくる。


 しかし城からの使者は意外にも、東西の街道を分断していた砂嵐の壁の解消した高名な冒険者2人を労うための夜会を開きたいとのことで、千桜に招待状を手渡して去って行った。


「招待状ですって!?」


「夜会ですよ!」


「どうする? ライトくん」


「……ボクは千桜さんのドレス姿が見たいというただそれだけの理由でパーティに参加したいと思います」


「嬉しい!」


「でもマズいですよね、行くの」


「露骨よね……」


 千桜は項垂れる。ここで招待されてしまうと弟君の陣営に組み込まれたと周囲に誤解されかねない。


「うーん。でも、ライトくんと夜会に出たくないといったら嘘になる……」


「でもボク、礼服を持っていませんから」


「それはわかって招待しているでしょうから問題はないでしょうけど。でも、ドレスを着て君に見せるくらいなら今すぐにでもできるよ」


「ほんとうですか?!」


 ライトの目が輝く。その目はずるい。もう後には引けなくなってしまった。


「本当に着るわけじゃないけどね」


 千桜は指で小さく魔方陣を宙に描き、漆黒で夜空のようなラメが入ったドレスにチェンジした。実際に魔法の小袋の中に入っているドレスだが、着替えるのがやや面倒なのだ。


「どう?」


「すっごく素敵です! ボクもダンスを覚えたら千桜さんと夜会で踊れるかなあ」


「その時は君以外とは踊らないよ。約束する」


 千桜は少し屈んでライトの頬にキスをした。


「ふふ、千桜さん、お姫さまみたいだ」


 ライトは頬を赤らめながら千桜を見上げる。


「ありがとう。そう言ってもらえるとお姉さん、魔法で見た目だけだけど着替えた甲斐があったわ」


「それにしても信じられないなあ。千桜さんほどの美女と7千キロも旅をしてきたなんて……」


 ライトは感慨に耽り、遠い目をする。


「でもまだあと3千キロもあるのよ」


「気を引き締めます」 


 ライトは両方の拳を固く握りしめた。


 夜会への出欠の返事を聞くためにもう一度宿に来た使者に千桜は丁重に遠慮する旨を伝え、2人は出立の準備を始める。やはり可能な限り早くこの街を去った方がよさげだ。どちらの陣営かわからないが、宿を監視している男も見つけた。当然だが、マークされているようだ。


 ここの港からは帝都への直行便が出ている。しかしこの大きな街であっても、ガストルニス3羽を載せても大丈夫な外洋航海船を今日の今日で見つけるのは至難だ。船便の確保は2人だけの乗船であれば当日でも難しくはない。しかし騎乗生物が3羽も一緒となると途端に難しくなる。外洋航海船は乗客を乗せるだけでなく、交易する物資を積む。その物資を運べなければ生産者が大損することもある。なので予め積む量を計算してシーズン契約するのが一般的だ。だから旅客を主に船荷とする船くらいしかい騎乗生物を載せる余裕がない。もちろん1週間もここで待てばガストルニス込みで乗れる旅客船を見つけることもできるだろう。


 結局、暗くなるまで港をうろついても、近日中に出発する船便を確保することはできなかった。


「ねえ、やっぱりあの子たちとはここでお別れしましょう」


 そもそも千桜はガストルニスとはここでお別れするべきだと考えていたのだが、2人で旅を始めて10ヵ月。彼と初めて意見が対立した。彼は3羽を連れていくことを頑なに望んだのである。ライトは首を横に振る。


「イヤだ。だってこの旅はボクがイニシアチブを持っているんでしょ? だったらアルゴたちを連れていく!」


 ガストルニスたちに完全に情が移っているライトとしては当然の選択だろう。


「でも、帝都まで連れて行く気ではないでしょう?」


 帝都での任務がどんなものであれ、ライト本人は自分が無事で済むとは考えていないらしい。だとしたら、彼はガストルニスたちを自分の事情に巻き込みたくないだろう。そう千桜は判断し、聞いた。


 ライトは頷いた。


「最後の寄港地でお別れする。それまでは一緒にいる」


 逆に帝都まで連れて行く、と行ってくれた方が千桜は気が楽になったのだけど……と表情を曇らせてしまった。


 その会話を気にしたのだろうか。宿屋に戻って就寝した後、ライトは部屋を出て行ってしまった。どこに向かったのかは千桜には見当がついたが、一応、少し時間を置いてから厩舎を見に行く。


 厩舎では3羽のガストルニスが身体を寄せ合って眠っており、その真ん中にライトの姿があった。やはり彼らと別れがたくて厩舎に来てしまったらしい。ライトが小さくすすり泣く声が微かに聞こえた。


 尋常ではない戦闘力を発揮する〝勇者〟だとしても、彼はまだ11歳の子どもだ。むしろ子どもらしいところを見られて、千桜はホッとした。


 今晩はそっとしておこうと、ガストルニスたちにまた嫉妬し、1人でいることの寂しさを改めて感じながら、千桜は部屋に戻る。そしてライトがいないことを逆手にとって、帝都の御所と連絡を取り、念のため近隣に停泊している帝国軍の艦隊の出動を大臣たちに指示した。

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