トップ魔道士は転生オジサンのパーティーに加わりました

月夜

1 トップ魔道士は転生オジサンのパーティーに加わりました

 旅は道連れなんて言葉がありますが、引きづられるのはありなんでしょうか。

 答えはノーです。


 この世界では、たまに前世の記憶持ちが転生することがあるんですが、今私を引きずってる男がまさにそれなんです。

 そして何故私が引きづられているのかですが、突然私の目の前に現れたこのオジサンは「お前がこの世界で一番強い魔道士だな」と言って、自分が転生者であることをこの年になってから思い出したということを私に話した。


 正直私には関係ない話なんですが、このオジサン、前世は別世界の人間で、高校生の頃事故で亡くなったらしいんです。

 多分記憶が今までなかったのは前世での事故が原因でしょうね。

 たまにいるんですよ、年月が経ってから思い出す人。

 まあ、ここまで年をとってからは見たことないですけど。


 それで厄介なのが、前世のこのオジサンがゲーム好きだったということ。

 ゲームとか別世界のことはわかりませんが、話を聞く感じだとまさに今いるこの世界がそうみたいで、前世で好きだった冒険を今から始めるとか言い出して、先ず仲間集めで選ばれたのが私というわけです。




「オジサン、どこまで私を引きずるつもりですか」


「離したら逃げるだろうが」




 そりゃ逃げますとも。

 ですが、いくら何でもこの扱いは酷くないですか。

 一応私はこの国一の魔道士。

 それがこんな扱いとは解せません。




「これが仲間に入って欲しい人の対応ですか!!」


「うるせーな。じゃーどうすりゃいい」


「土下座して頼みなさい」




 再び引きずられる私。

 流石に頭にきて魔法を使うことにします。

 まるこげにしてやろうと思ったのですが、オジサンは片手だけで私の魔法を防ぎました。


 いくら加減したとはいえ、こんなオジサンに防げる魔法ではありません。

 私はこのオジサンのレベルを知るため引きずられながら魔法を使うと、レベルがクエスチョンマークで表示。

 魔法道具じゃあるまいし故障などはありません。

 ですが、レベルがクエスチョンマークなんて見た事がありませんし。

 つまりこの男のレベルは測定できないほどのザコか、もしくは化物かです。


 考えたくはありませんが、私の魔法を片手で防いだことを考えると後者の可能性が高いようですね。




「あの、オジサンは勇者ですか? それとも魔道士ですか?」


「村人だ」




 聞き間違いだろうか。

 私は再度尋ねますが、返ってきた答えは同じ。




「ただの村人が化物なんて、フザケ過ぎてますね」


「引きずるのも面倒だ。自分で歩け」


「アナタ、人を引きずり回しておいてその言いぐさはなんですか!!」




 まあ、何はともあれこんな未知数の方を野放しにはできませんから、私は渋々仲間になることを認め、ようやく引きずりから解放されました。


 ですが解放されたことに喜ぶ暇もなく、私の服が引きずられたせいでボロボロになっていることに気づきギャンギャン騒いでいると、オジサンの拳が頭上から落とされました。




「いったー!! 何するんですか!?」


「ギャンギャンうるせーからだ」




 私は自身に魔法をかけているので大抵のダメージは受けないというのに、たかが拳一つで痛みを感じさせるなんて、やはりこのオジサン要注意かもしれません。




「ところでオジサンは何処へ行くおつもりなんですか?」


「そこの森だ。スライムが沢山いるからな」




 このオジサンまさかとは思いますが、自分の強さを理解していないんじゃないでしょうか。

 本気なんか出されたらスライムどころか森ごと消し飛ぶかもしれないというのに。

 かといって止められるとも思えませんし。


 そうこうしているうちに森につき、運悪くスライムが出て来てしまいました。

 こうなったら、私が魔法で何とかするしかない。

 オジサンがスライムに攻撃したと同時に私も修正魔法を発動させます。

 この魔法を森全体にかけたので何とかなりましたが、修正魔法のせいでスライムまで生き返ってしまうとは。


 これでは繰り返しになると思い、転移魔法を瞬時に発動させてスライムを移動させました。

 これでオジサンには倒したように見えるでしょうけど、スライムを移動させるために転移魔法を使うことになるなんて、私は一体何をしているのか。




「スライムはやっぱり弱いな。て、何でお前はヘバッてんだ」




 森全体に修正魔法をかけるだけでもかなりの魔力を消耗するというのに、スライムを転移までさせたのですから疲れて当然です。

 文句の一つでも言ってやりたいところですが、久しぶりにこれだけの魔力を一気に消耗したことでそんな元気は残っていません。


 スライムを倒して今度は何をするかと思えば、隣の国に行って仲間を新たに一人加えるなんていい出しました。

 誰がオジサンなんかのパーティーに入りたがるのかなんて思っていたら、国について直ぐに仲間が加わりました。

 何故でしょう。




「あの、レフリ様ですよね。ご一緒できるなんて光栄です!」


「はは、原因は私でしたか」




 この世界には国が三つあり、その国一つ一つに優秀な魔道士のトップが存在する。

 その一つの国の魔道士が私であり、この国にも優秀な魔道士がいる。

 それが、今仲間に入ったこの女性、テレマ。

 テレマは三国の魔道士の中でも一番下の魔道士、そんなテレマが私を慕うのは当然のこと。


 なんといっても私は、この三国の魔道士の中のトップですから。

 それがこんなオジサンとパーティーを組む事になった挙句、同じ魔道士が仲間に加わるなど悪夢でしかない。




「次は最後の国の魔道士だな」


「だな。じゃないですわ! オジサンは三国の魔道士をパーティーに加えるつもりですか!!」


「そうだなー。それもいいかもな」




 このオジサン、いっそのこと始末した方が安全なんじゃないかと思えてきますね。


 私達三国の魔道士は、国の平穏が脅かされそうになったときにその力をふるうのです。

 それが、オジサンの後処理で修正魔法なんかに使ってしまうなんて。


 このオジサンが危険だと判断したら対処するつもりでしたが、今のところ国へ害を及ぼそうとしているようには見えません。

 それに、テレマが加わった今、最後の一人リーレもいてくれれば心強い。

 三人のトップがいれば、何かあっても直ぐに対処できるというもの。




「では、この国で今日は休んで明日出立するとしましょうか」


「なんだ、さっきまでと違って随分乗り気だな」


「私はレフリ様が行かれるところならどこまででもお供致します」




 テレマとはあまり話す機会がありませんでしたが、何だか私を見る目が輝いているというよりハートなのは気のせいでしょうか。

 いや、気のせいでなくては困りますね。

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