第2話 孤児院の日常と、ささやかな甘い願い

冷たい朝の空気に、かすかに甘い匂いが混ざった。

目覚めたリクは周囲を見回し、ここが本当に“異世界の孤児院”なのだと実感する。


薄い布団、軋む床、古い窓。

でも──


「おはよ、リク。今日は少しだけ、いいものがあるんだよ」


ミレイアが笑顔で持ってきた木皿には、

硬いパンと野菜スープ……そこに、小指ほどの“甘い欠片”が乗っていた。


「これ……?」


「砂糖煮した木の実。村では貴重なんだ。でも今日はね、ちょっとだけ特別」


リクはそっと口に入れた。

ほんのり甘くて、口の中でやわらかく溶けて──

前世の、コンビニスイーツの味が思い出に浮かんだ。


(……甘いもの、もっと食べさせてあげたいな)


孤児院の子たちは大きな鍋の周りに集まって楽しそうだ。

食べる量は少なくても、笑顔はほんのり温かい。


だがリクは思う。


(前の世界では、ケーキもプリンも、アイスもあった。

 それを……この子たちは一度も食べたことがないんだな)


その瞬間、胸の奥でEX統合スキルが微弱に震えた。

まるで「願いを実現する準備はできている」と言われたように。


◆甘い風景を作るための、小さな決意


朝食を終えたあと、子どもたちは外へ遊びに飛び出した。


リクはその様子を眺めていて気づいた。

走り回る先にあるのは──


・石ころまみれの地面

・腐りかけの木製すべり台

・角のとがった木箱

・重量のある丸太を遊びに使う子もいる


「危なっ……」


転びそうになった小さな子を咄嗟に支える。


ミレイアは笑って言う。

「昔からここはこんな感じだよ。でも、みんな慣れてるから平気だよ?」


平気なわけがない。

リクの心はざわついた。


(ケガをしない遊具……

 柔らかい積み木、軽いブロック、倒れても安全なジェンガ、

 そして……大人も子どもも楽しめるボードゲームがあれば……)


想像するだけで、胸が温かくなった。


その瞬間、リクの視界に“淡い魔法の光”がきらめく。


《玩具創造スキルを獲得しました》


……出た。

まただ。

すべては「こうなったらいいのに」という願いから生まれる。


(だったら……つくろう)


◆孤児院初のおもちゃ──やわらか積み木


外の裏庭で、リクは木片や古い布を集め、そっと手をかざす。


「……やわらかく、軽く、角が丸い積み木を……」


淡い光が走り、ざらついた木片はたちまち弾力のある柔らかいブロックへ変化した。


「わぁっ!?」「リク、何したの!?」


近くにいた子どもたちが駆け寄ってくる。


「触ってみて。ケガしないから」


幼い子が思いきり投げても痛くない。

積むと“ぷにっ”と音がして、形は崩れずしっかり乗る。


「すごい!」「面白い!」「お城作るー!」


たちまち小さな庭が“積み木の王国”に変わった。


ミレイアは目を丸くして、

「これ……全部リクが作ったの?」

と微笑む。


「……ちょっとだけ、ね」


◆ジェンガとボードゲーム──大人もハマる異世界遊戯


リクの頭はさらに回り始める。


(硬い木材じゃなくて……軽い魔木素材を“密度調整”して……)


作ったのは──

魔素ジェンガ。


軽いのに倒れると“ぱふっ”と柔らかい音がする。

子どもたちはもちろん、大人たちまで夢中になる。


「次はミレイアの番だよ」


「こ、これ倒しちゃいそう……緊張する!」


さらに、前世の知識を思い出しながら、

簡易すごろくとカード型ボードゲームを作る。


・食べ物カード

・動物カード

・魔物カード(かわいいデフォルメ)

・特殊魔法カード(効果付き)


子どもたちは大喜びだ。


「リク、これ……天才だよ!」

「もう毎日やる!」

「わたし、このカード集めたい!」


ミレイアも優しく笑い、

「リクの作るものって、不思議なくらい楽しくて……優しいね」

と言って頭を撫でてくれる。


リクの胸がじんわり温まった。


◆甘味革命のはじまり──プリン、ケーキ、駄菓子


午後。

工房に戻ったリクは、甘い匂いのする木の実を見て、

またひとつ思い出す。


(プリン……ケーキ……駄菓子……

 みんな、どれも喜ぶだろうな)


指を動かしながら、魔法で

・牛乳に似た魔兎ミルク

・卵(魔素鳥)

・甘味植物の汁

を滑らかに混ぜて加熱する。


魔法による温度管理で、ぷるん、と揺れる黄金色のプリンが生まれた。


「……出来た」


すぐに子どもたちを呼ぶ。

プリンを一口食べた幼い子が、目を丸くして固まる。


「……あまい……やわらかい……!」

「とろける……!」


その反応にリクは思わず笑う。


さらに

・ふわふわパンケーキ

・焼きりんご風ケーキ

・かりんとう系駄菓子

も魔法と工夫で次々に創り出す。


孤児院は甘い香りでいっぱいになり、

みんなが幸せそうに笑っている。


リクはその光景を見て、

(ああ……これがスローライフなんだな)

と胸が温かくなる。


そして、ふと思う。


(もっといっぱい作ろう。

 みんなが笑顔になれるものを、どんどん……)


その願いは、後の“スイーツ工房”誕生へと繋がっていく。

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