第2話 友達以上だから、このくらいのスキンシップは当たり前!?

 翌日、予定通り地元の駅前で待ち合わせ、一緒に登校する。


「おっはよー、ひじり! 今日もお清楚で可愛いねっ!」


 教室に入ると金髪の女子が明るく元気に、白銀しろがねさんの名前を呼んで挨拶をした。


耀子ようこちゃん、おはようございます」


 彼女こそ金星かねぼし耀子。

 普段ならこの後、青山あおやまさんも加わるのが日常風景だけど。


「おはよう。金星さん」


 俺も白銀さんの隣で爽やかに挨拶をする。


「え? おは、よう、ごーぜます?」


 金星さんが驚きのあまり変な挨拶をした。


 俺も挨拶されたら普通に返す。

 非常事態でもない限り、俺からは声をかけないだけ。

 この一ヶ月ほど教室で挨拶をした覚えがないだけである。


「昨日は黙っていたけど、を借りて悪かったね。どうしてもにだけ相談したい用事があって。、として、ね」


 白銀さんの名前と友達を強調し、彼女を見つめて微笑む。


「え、えーっと。聖、そうだったの?」


 呆けた声で確認する金星さんに、白銀さんは頷いた。


「は、はい。黒月くろつきちゃん、の相談にのっていました」

「ちゃ、ちゃん!? 黒月ちゃん!? ほ、ほんとーに黒月ちゃんから相談を受けてただけ!?」

「は、はい。本当に、黒月ちゃんから、えっと。秘密の相談を受けて、ました」


 白銀さんは嘘を吐くのが苦手と見える。


「金星さん、ごめんね。俺のプライベートな問題だから。いくら白銀さんの親友でも話せないんだ」


 俺がサポートしてあげないと。


「むっ、むぅー。そ、そう言われちゃ聞けないけどさー」

「聖に、黒月さん。おはようございます」


 金星さんに代わって別の女子が加わった。

 自信に満ちた表情で、本当にお嬢様らしい青山さん。

 あわあわとする金星さんが……だ、抱きついても平然としている。


「おはよう。聞いてたと思うけど、同じく親友の青山さんでも話せないよ?」


 負けじと自信に満ちた表情で返す。


「ええ、分かってるわ。プライベートな問題は繊細よね」

「ありがとう。俺の悩みは話せないけど。俺は白銀さんだけじゃなく、二人とも友達になりたいと常々……そう、入学式の頃から思っていたよ」

「ぬぅ!? 瑠璃るり、まずくない!?」

「お、落ち着きなさい、耀子! まだ探りの状況よ!」


 金星さんと青山さんが一歩引いて、慌てふためいている。

 それどころから他のクラスメイトまでざわついている。


「これからよろしくね。白銀さん、また休み時間にでも」

「はい。よろしくお願いします」


 理由はよく分からないけど、身を引くべきと判断し、クールに去った。


 ◆

 

 休み時間になったら白銀さんに声をかけ、二人きりで話しをする。

 昼休みになる頃につれ、ざわつきは収まっていった。


「俺もお昼ご飯一緒にいいかな?」


 自分の椅子を白銀さんの隣に置き、座る。

 いつもなら三人グループでのお昼ご飯。

 他者禁制の空気を恐れず乱入し、またざわつき始める。


「瑠璃ちゃん、耀子ちゃん。黒月ちゃんも一緒に食べてもいいですか?」


 白銀さんがこちら側の立場で進言してくれた。

 まだ警戒を緩めない二人だが、頷き合って俺を見た。


「聖の友達なら、断る理由はないしね。いいよ」

「そう、ね。聖の友達なら。一緒に食べて平気よ」

「ありがとう。では、お邪魔します」


 白銀さんの願いは、金星さんと青山さんの恋人時間を大切にしてあげたい。

 だけど、それで二人との関係がこじれるのは本末転倒だ。


 全てを二人きりで過ごすのではなく、時には三人側に俺が混じり、違和感をなくしていく。


「時間がもったいないし、食べようか」


 白銀さんの友達としててっし、静かにおにぎりを頬張る。


「一理あるじゃん。お昼ご飯は楽しく食べないとつまんないし――って、わけでいただきまーす!」


 金星さんが青山さんのお弁当箱からからあげを奪い取り。


「うまうま。瑠璃のおかー様のからあげは世界一。そして」


 さらに白銀さんのお弁当箱から玉子焼きを強奪した。


「聖のおかー様の玉子焼きも世界一で甲乙つけがたし」

「耀子、貴方ねえ。本当に手癖が悪いわよ」

「分かってるよー。はい、二人にお返しでーす。あたしの手作りだぜー」


 金星さんが自分の弁当箱から同じおかずをおすそ分けする。

 交際している青山さんだけなら微笑ましい光景だ。

 だけど、白銀さんまでだと話が変わってくる。


 つまり――。


「浮気では?」


 え!? と三人が仲良く驚き、おかずをお弁当箱に落とした。


「ま、ままま、マジで!? 今までずっとみんなに対してやってきたけど、これって浮気だったの!?」

「お、落ち着きなさい、耀子。こういう時こそ冷静になるよ。聖、親友第三者目線でどう思うかしら?」

「わ、私ですか!? えっと、その、私は普通だと思っていましたが。黒月ちゃん、今のを聞いてどう思いますか?」

「浮気では?」


 無限ループの抜け出せない迷宮入りしちゃったぞ。


「あーもう! こうなったらいくとこまでいくしかないじゃん! 黒月のウインナーを人質じゃー!」

「や、やめろ! 俺を共犯に巻き込むな!」


 結局、騒がしい昼休みになってしまった。


 ◆


「友達ライフがここまで過酷なミッションだとは思わなかった……」


 放課後、白銀さんとファミレスで反省会を行う。


「黒月ちゃん、大丈夫ですか? まずはお水を飲んでください」

「ありがとう、白銀さん」


 心身ともに疲弊ひへいし、昨日とは逆の立場になっていた。

 百合カップルの親友。

 これほどに過酷とは。


「白銀さん達は凄いね。高度な心理戦を毎日しているとは思わなかった」


 水を飲み干し、うなだれる。


「高度な心理戦。私も最初はそんな風に思っていました。二人に合わせようと無理をして、倒れたことがあるんです」

「え。大丈夫だった?」

「二人が助けてくれました。ですが、私はそれさえ申し訳なくて。泣きながら理由を吐露してまいました。それでも二人は幻滅せず、無理に合わせる必要はない、って抱きしめてくれたんです」

「本当に仲良しなわけだ。スキンシップも当たり前になるよね」

「スキンシップについては、一考の余地があるかもしれませんが」


 俺の数々の浮気発言事件を回想し、笑い合う。


「黒月さんは慣れてないだけだと思います。すぐに平気になりますよ」


 白銀さんが精一杯手を伸ばし、俺の頭を撫で、すぐに引っ込めてしまった。


「ご、ごめんなさい! 過度なスキンシップでしたよね!」

「謝らなくていいよ。心地よかったからね。再考の余地ありかもしれないから、もうちょっとお願いしてもいいかな?」

「分かりました。私の手でよければ」


 白銀さんに身を委ねる。

 銀髪のゆるふわなロングヘアと違って、俺の黒髪はストレートのショートヘア。

 撫で心地はいまいちで申し訳ないけど、不思議だ。

 小さくて暖かい手で撫でられると、身体だけじゃなくて心まで温かくなる。


「ありがとう、白銀さん。勇気にやる気も湧いてきたよ」

「どういたしまして」


 いつまでも落ち込んではいられない。


「まだプロローグ! こっからいくらでも成り上がれるということだからね!」

「はいっ。そんな感じです。頑張りましょう」


 決意を新たに白銀さんとの友達ライフを過ごし、金星さんと青山さんの百合カップルに振り回されながらも、日々を重ねていく。

 白銀さんと契約を結んだ日に思ったことは、確信に変わりつつあった。


 だから、GW最終日。

 俺は四人で遊園地に行くことを提案した。

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