第43話 地下八階の試練と悪魔のガチャ


 翌日、再びノクスとクオンを連れてダンジョンへ向かった。

 隣を歩くノクスの顔は、昨日のクオンの連続コンボによってアンパンのようにボコボコに腫れ上がっていたが、ポーションを振りかけると、不満げな顔をしながらも元通りに治った。


 地下七階で数時間、コボルトを相手に漆黒の太刀を馴染ませ、「そろそろ帰ろうか」と切り出した時だった。


「主。一度、地下八階で『エリート・コボルト』と戦ってみたらどうかしら?」


「えっ? 無理無理、あんな怪物!」


 即座に首を振った。昨日の偵察で見た、あの巨体と速度。まともにやり合えば肉片にされる自信がある。


 クオンの不敵な笑みに押し切られる形で覚悟を決めて階段を下りた。

「安心なさいな。一対一で戦えるように調整してあげるわ」


 地下八階。足を踏み出すなり、三体のエリート・コボルトが牙を剥いて現れた。

「ノクス、貴方はそっちの二体を片付けてちょうだい」

 クオンが指示を飛ばすと、ノクスはあからさまに頬を膨らませ、不機嫌そうに鼻を鳴らした。

『……ふんっ。勝手なことばかり抜かしおって。まあよい、さっさと終わらせてゲームの続きをするぞ』


 ノクスは投げやりな手つきで指を振ると、魔力の一撃で二体を瞬殺した。その横で、クオンが呪文を唱える。


「主に防御強化のバフをかけるわ。これで直撃しても死ぬことはないはずよ」


「……よし、行くぞ!」

 目の前のエリートが地面を蹴った。速い。だが、漆黒の太刀を構えて集中力も研ぎ澄まされていた。

 ドゴォッ!

 エリートが振り下ろした金棒を紙一重で回避する。直後、地面には衝撃でクレーターができていた。

「……怖っ!」


『おい蒼真! もたもたするな、早く帰るぞ!』

 背後からノクスが野次を飛ばすが、今の僕の耳には届かない。心臓の鼓動が耳元で鳴り、エリートの動きだけがスローモーションのように視界に焼き付く。極限の集中状態のままで、鋭い踏み込みで反撃に出た。


 太刀と金棒が激しくぶつかり合い、火花が散る。その凄まじい怪力に吹き飛ばされそうになるが、踏みとどまって火の魔力を刀に付与する。


「これならどうだ!」

 赤く脈動する漆黒の刃。エリートはそれを自慢の金棒で迎え撃ってぶつかり合うが先程まできていた手応えが全くなく、火を纏った太刀は、鉄の金棒を熱したバターのように断ち切り、そのままエリートの巨体を一刀両断にしたのだ。


「……え?」

 あまりの切れ味に、一瞬思考が止まった。あんなに頑丈そうだった獲物を、抵抗もなく切り裂くなんて想像もしていなかった。驚きが全身を駆け巡り、遅れて、確かな勝利の実感がこみ上げてくる。

「倒した……倒したぞ! 勝ったんだ!」

 驚きと歓喜が混ざり、思わず拳を握りしめてガッツポーズを決めた。


 ギルドで魔石を換金すると、今日の分だけで十二万円になった。ホクホク顔で帰ろうとしたその時、またしてもアイツが立ち塞がった。近藤だ。

「おいおい、Fランクの雑魚がエリートを倒したって? どこの三流ジョークだ」

 近藤は仲間たちと鼻で笑いながら煽ってくる。

「俺たちですらパーティーを組んでようやく倒してるんだ。ソロのお前にできるわけがない」


 ため息をつき、無視して出口へ向かおうとした。すると、背後から近藤の怒鳴り声が飛んできた。

「おい! 無視かよ。卑怯者は逃げるのか!?」

 それでも足を止めない。完全な無視を貫く僕の背中に、近藤は「チッ」と大きく舌打ちをして吐き捨てた。

「大体、そんな小汚い猫をギルドに連れてくるなよ。不潔なんだよ!」


 ……あ。

 恐る恐る、肩のノクスを見た。今まで同じように無視していたノクスが、カチリ、と「音」がするほどの冷徹さで目を見開いていた。

 ドォォォォンッ!

 瞬間、周囲の空気が一気に凍りついた。ノクスが放った、格の違う大悪魔としての「威圧」。ギルド内の探索者たちが恐怖に震え、悲鳴を上げる暇もなく、近藤はその場に白目を向いて崩れ落ちた。泡を吹いて完全に気絶している。


『……フン。不快だ。蒼真、さっさと帰ってゲームだ』

 ノクスが魔力を収めると、クオンがくすくすと笑った。

「ノクスをバカにするなんて相手を間違えたわね。さあ、帰りましょうか」


 家に帰り、ノクスが再びゲームの世界へ没入していると、部屋に優香姉がやってきた。

「ねえ、ノクスのキャラ、今どんな感じ……ぶっ! あははは! 何これ、弱すぎ! 装備もステータスもチグハグじゃない!」

 優香姉はノクスの画面を指差して、情け容赦なく煽り始めた。大悪魔のプライドを粉砕するその勢いに、僕は「……姉さん、スゲーな」と感心するしかない。


 すっかり意気消沈したノクスが、珍しく素直に聞いてきた。

『……おい蒼真。どうすれば、手っ取り早く強くなれるのだ』

「それなら……『ガチャ』っていうのがあるけど」

 ゲーム内通貨(ポイント)を消費して引くガチャを教えた。

『なるほど……これさえ引けば、我は最強になれるのだな!』

 ノクスは全財産を突っ込んだ。画面に虹色の演出が出ることを期待して。


 ――結果。

 画面を埋め尽くしたのは、最低レアのゴミ装備ばかりだった。

「…………」

 ノクスの手が止まり、その身体から色が消えていく。

『我が……我の血と汗と涙のポイントが……。スカスカではないか……』


 真っ白になって灰化するノクス。それを見て「爆死乙(ばくしおつ)!」と追い打ちをかけて笑い飛ばす優香姉。今日も我が家は、ダンジョンよりも過酷で賑やかだった。



 リザルト


• 今回の収益: +120,000円

• 今回の支出: なし

• スキル累計支出(トータル): 2,680,000円

• 現在の持ち金: 250,000円

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