第12話 みんなにプレゼントを買おう!前編



「お金も手に入ったし、クロロやライラック、お婆さんになにか買って帰ろうかな。初めて手に入れたお金だものね。記念になるものがいいかなぁ。」


 犯罪者を役所につきだしたことで、私は僅かばかりながらのお金を手に入れた。……魔族らしくお金を奪うつもりだったんだけどね。

 これじゃあ、魔族として失敗だよね、と思いながらもこちらの世界に転生して初めて得たお金だ。大切に使わなければならない。

 大切に使うと言ったらやっぱり家族にプレゼントだろう。

 クロロやライラック、お婆さんは一緒に住んでるからもう家族も同然だ。


 私はにまにまと笑いながらみんなに何をプレゼントしようかと悩みながら、露天商を一軒一軒見て回る。


「あ、これクロロにいいかもっ。」


 赤いリボンを見つけた私はクロロに似合うのではないかと思った。真っ黒なクロロに赤いリボンはとても映えることだろう。


「そりゃあ100ゴルだよ。」


 手にとって見ていた私に露天商の主人はぶっきらぼうに言った。


「100ゴル?」


 そういえば、私この世界のお金の価値がどれくらいか知らないことに気づいた。さっきもらったお金も多いのか少ないのか私には判断がつかない。


「ああ、100ゴルだよ。高いと思うなら他にいきな。」


 この露天商、商売っ気がないみたいだわ。随分高圧的……。

 ムッとしながらも、私は手に持ったリボンがとっても気にいってしまった。これ以上にクロロにプレゼントしたいと思うような商品はでてこないような気がした。

 おそろいでライラックに紫色のリボンをプレゼントをするのもいいかもしれないと思ってしまう。となりに紫色のリボンも置いてあるし。


「こちらの紫色のリボンはいくらですか?」


「100ゴルだ。」


「そうですか。では、これとこれをもらいます。」


「あいよ。200ゴルだよ。」


「……200ゴル。これで、足りますか?」


 私は先ほどもらったお札を一枚露天商に見せる。

 正直このお札の価値が私にはわからない。


「なんだ、あんた金の数え方も知らんのか。」


 露天商は目を丸くして私のことを見た。どうやら驚いているようだ。


「……悪いかしら。」


「いいや、いつもは使用人にでも払ってもらってるんかねと思ってな。あんたの持っているその札は1000ゴルだ。おつりをあげよう。」


 露天商はそう言って私から札を受け取ると、硬貨を8枚私の手に握らせた。


「この硬貨が1枚100ゴル。2枚で200ゴルだ。」


「あら。ありがとう。」


 どうやら露天商がぶっきらぼうだったのは私がこの店で品物を買う気がないと思っていたからのようだ。侍女という発言からも私はどこぞのご令嬢のように露天商には思えたのだろう。

 ご令嬢が露天商で商品を購入するだなんて普通は思わないものね。冷やかしとでも思ったのだろう。

 意外にも親切な露天商に私はお礼を言う。


「いいや。すまないな。冷やかしだと思ったからよ。あんたのような貴族の令嬢がオレのような安物しか扱わない店の商品を買うとは思わなくて名。」


「気にしなくていいんです。こちらの商品は安いのかもしれませんが、私はこの二つのリボンをとても気に入りました。ありがとうございます。」


「はは。買ってくれたお客に礼を言われるとはな。ここの露天商にはぼったくるヤツもいるから気をつけろよ。ああ、気になる商品があったらオレのところに一言声をかけてくれ。そうすれば値段が適切か教えてやるよ。」


「まあ、ご親切にありがとうございます。」


 そう言って露天商からリボンを受け取るとお礼を言ってその場を後にした。


「はっ……。普通に買っちゃったじゃない。魔族としてどうなのかしら……。もっとこう魔族らしい買い方とかあるわよね……。」


 そして、満足気にしばらく歩いた後、私は自分の失態に気がついた。

 普通にお買い物を楽しんでしまったのだ。

 ここは魔族らしく買い物をするはずだったのに。

 悔やんでも今からやり直すことはできない。でも、幸いなことにまだお婆さんへのプレゼントは購入していない。

 なら、お婆さんのプレゼントはせめて魔族らしく購入しようではないか。

 そう思って、お婆さんへのプレゼントを見て回る。

 数多くの露天商が店を出しており、出されている商品は各露天商によって異なる。お手頃価格なものを売っているお店もあれば、露天で売るにはとても高価だと思うような品物を扱っているお店もある。

 先ほどの露天商に教えてもらったところ、私は10万ゴルを持っていたようだ。

 大体にして、日本でいう100円と100ゴルが同じくらいの価値になるようだ。つまり10万ゴルは10万円ということになる。

 犯罪者を掴まえて役所に突き出しただけで10万円とは結構いい報酬である。


「あ、これいいかも……。」


 そこに並んでいたのはエメラルドグリーンの石をはめ込んだネックレスだった。どこか上品な佇まいをしているお婆さんに似合うような気がした。

 けれど、値札がどこにも無い。


「お嬢さん、お目が高いね。それはエメラルドっていう宝石で作られたネックレスだよ。チェーンにはプラチナっていう貴重な鉱石を使っているんだ。オレの店でも1年に1つ扱うか否かっていう高級品だよ。」


「まあ、そうなんですね。おいくらですか?」


 エメラルドもプラチナも聞いたことがある。というか、日本に住んでいれば誰もが聞いたことのあるものだろう。親近感がわいた。


「普通だったら200万ゴルだが、あんた美人だからな、100万ゴルに負けてやるよ。」


「まあ、半額に負けてくださるんですね!」


「ああ。あんただけ特別な。だが、次に来たときには定価にさせてもらう。今だけのお買い得価格だ。」


「それはお得ですね!」


 200万ゴルが100万ゴルになるなんて、100万円も値引きしてくれるだなんてすっごく太っ腹な人だなぁと思った。そんなにまけてしまって利益なんてあるのだろうか。

 でも、こんなに安くなるなら買わない手は無い。

 けれど今の手持ちは約10万ゴル。とてもではないが、購入することは不可能だ。

 残念だけどお断りしようとして、私は自分が魔族であることを思い出した。


 そっか。そうだった。私は魔族だった。

 なにも正攻法で購入する必要はないのだ。

 私は眉間に皺を寄せてネックレスを見るふりをする。


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