第36話「生ける伝説パーティ」

 レベル70を超えた冒険者は、神の加護を受けてジョブの転職ができる。

 この世界の大きなルールの1つだ。


 ​戦士なら、剣神の加護で【剣聖】に。

 守護神の加護を受ければ【聖騎士】になれるといった具合だ。


 ​神さまは富士山の頂上にある【神の国】に住んでいるが、たまに下界で暮らしている神さまもいる。


 代表的なのが東京の魔導師協会本部に祀られる魔法神と、中央聖教会の慈愛神だ。


 ​魔法使い絵舞エマは魔法神に【賢者】にしてもらうため、聖女の遥歌ハルカは慈愛神に【大聖女】にしてもらうために、二人で東京へと向かっていった。


 残るは俺と勇者の燈真トウマ、盗賊の丈志ジョージ

 男三人旅の俺たちは富士山のふもとに立って、【神の国】がある頂上を見上げていた。


​「いやぁ……デカいな、富士山」

「さすが日本一だぜ。頂上の【神の国】が見えねぇや」

「この上には、八百万の神々が住んでいると言われているからね。……いよいよだ」


 ​トウマが感慨深げに呟いた。

 神の国に入る。ダンジョン全国大会に出場する。それはどちらも、冒険者にとっての大きな夢の一つだ。


 横でトウマとジョージが話している。


​「神ってどんな感じなんだろうな? やっぱ威厳たっぷりなのかねぇ?」

「どうだろう。色んな神がいるけど、意外と人間臭いのが多いって聞くよ」

「俺を転職させてくれる神もいるのかね?」

「絶対いるさ。良い神に出会えると良いね」


 二人の言う通り、ここには色んな神が住んでいる。

 約一週間の間に、ジョージを転職させてくれる良い神に巡り合うのが当面の目標だ。


​「ま、そこは成り行きに任せるとして。可愛い女神さまと混浴とかしてみてぇよなぁ!」

「お、いいねぇジョージ。せっかくの男旅だもんな!」

「二人とも……バチが当たるよ?」

 ​呆れるトウマをよそに、俺とジョージはニヤリと笑い合った。


 さて、気合を入れて山を登っていくか──と思った矢先、遠くに人だかりが見えた。


​「なんだろう?」

「有名人か? 行ってみようぜ」


 ​近くまで行って、俺たちは息を呑んだ。

 人だかりの中心にいたのはなんと、20年以上日本No.1に君臨し続けている、生ける伝説パーティ──【蒼穹そうきゅうの翼】だった。


​「うおっ……! 本物だ!」

 俺はつい声を漏らしてしまう。


 ​中心にいるのは、緑色の髪をした伝説の勇者フーマ。43歳という年齢を感じさせない、精悍で若々しいイケメンだ。


 ​その横には【大賢者】マーリン。

 艶やかな黒髪に抜群のプロポーション。

 20代のお姉さんにしか見えないけど……何十年も前からの有名人。年齢不詳。


 隣には【不死のカメラマン】ヒデオ。

 不死者というレアジョブを持ち、戦闘能力はないが「絶対死なずに撮影を続ける男」。

 顔色のすこぶる悪い、愛想のない兄ちゃんだ。こちらも年齢不詳。


 ​最後に【大僧侶】サンゾウ。53歳。

 白髪交じりの短髪。この人だけ年齢相応の見た目をしている……普通のおっさんだ。


​「すげぇ、伝説のフルメンバーだぜ! なぁヒロ、サインもらえるかな!?」

「サイン欲しい! 行ってみよう!」


 ​俺とジョージが大興奮していると、おっさん大僧侶サンゾウがこちらに気がつく。

 そして、ニコヤカに手を振ってきた。


​「おーい、トウマじゃないか。大きくなったなあ」

「……久しぶり。サンゾウおじさん」

「えっ? ……知り合い?」


 ​俺とジョージが固まる中、サンゾウが後ろを振り返って「おーい、トウマだぞー」と呼びかける。


 すると、緑髪の勇者フーマがゆっくりと歩いてきた。


​「トウマか……」

「……うん。久しぶりだね──父さん」


​(──えっ!?)


 ​今、なんて言った? ……父さん?


 ​えっ? フーマってトウマの父さんなの?


 ……あの伝説的勇者のフーマが?


 言われてみれば、顔立ちは王子さま系統で似てるけど……いやいや、一度もそんなこと聞いたことなかったぞっ!?


 ジョージもサイン色紙を取り出したまま、カチーンと石像のように固まっている。


​「父さん……僕は北海道で1位になったよ」

「ああ……知ってる」


 ​沈黙。


(親子の再会にしては、空気が重い……?)


 ​するとフーマは息子を見つめ、真剣な顔のまま告げた。


​「……昔から言っていただろう? ダンジョン探索はゲームじゃない。見栄えに気を取られた今のお前を……認めることはできない」


「そう言うと思ってた。……見栄えだけかどうかは、大会で示してみせるさ。『冒険者に言葉は要らない』……だろ?」


 ​フーマはフッと息を吐くと、それ以上何も言わずに背を向けて去っていった。

 不死のカメラマンヒデオも、無言でその後を追う。大賢者マーリンはトウマに艷っぽいウィンクを飛ばすと、優雅に去っていった。


 ​残ったのは大僧侶サンゾウだけ。


​「まったく……どいつもこいつも言葉足らずでごめんな?」

「大丈夫だよサンゾウおじさん。……僕たちは必ず、【蒼穹そうきゅうの翼】を越えてみせる」

「そうか……うん。楽しみにしてるよ」


 ​そういうとサンゾウは優しく微笑み、ジョージの色紙にサラサラとサインを書いて去っていった。


​「トウマ……」

「ヒロ……今まで黙っていてごめん。フーマの息子っていうことは隠したまま、自分の力だけで上り詰めたかったんだ」


 ​そういえばトウマは結成当初からずっと、蒼穹そうきゅうの翼を意識した堅実で飾らない立ち回りを追い求めていた。


 スタイルを真似る冒険者は多いから気にしてなかったけど、実の親子だったとは……。


​「……ま、とりあえず行こうか?」

「おう……すげぇもん見ちまったな……」

 ​驚きが抜けないまま、俺たち三人は再び富士山を登り始めた。



​◇


 ​数時間後。

 雲を抜けて、ようやく見えてきた頂上。

 そこには異様な光景が広がっていた。


 山頂に瓦屋根の和風建築が立ち並び、提灯が揺れる──まるで江戸時代の城下町のような景色だ。


 和服を着た人々が行き交い、子供たちがキャッキャと通りを走り回っている。


​(あれも皆、神さまなのかな……?)


 ​入口には鳥居があるだけで、特に見張りはいない。

 俺たちは顔を見合わせると、三人揃って【神の国】へと足を踏み入れた──。




​「──えっ?」




 今俺は​、鳥居をくぐって神の国に入った。




 はずなのに──。




 いつの間にか俺は、真っ白な空間に立っていた。横にトウマとジョージはいない。


 ​そして周囲には、大小さまざま、異形のものから人型のものまで──数えきれないほどの神々が俺を取り囲み、見下ろしていた。


 ​その中心で一際巨大な──燃え盛る青い炎の纏ったお爺さんが、重々しく口を開いた。


​「神の国のへようこそ……【超優越的追放者オーバーリジェクター】の後継者よ──」

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