第31話「氷樹の森林」

 絵舞エマ芸術魔導マジックアーツによって、突如として現れたのは氷樹の森。


 ​俺の万能カメラが映し出すのは、リーダーのアーサーを見失って動揺する栄光騎士団ナイツ・オブ・グローリー下僕なかまたち──聖騎士クライヴ、魔法使いエルド、聖女ティナの姿だ。


​「エルドッ! あなたの魔法でこの森を消し飛ばしてちょうだい!」

「しかしアーサーさんが……」


 ​ティナのヒステリックな指示に、エルドが困惑している。魔法で森ごと吹き飛ばせば、先行して突っ込んだアーサーを巻き込んでしまうからだ。


 ​そんなやり取りの中、どこからか響くのはエマの声。

​『単なるキレイな森じゃありませんよ──』


​ 直後。

 氷の樹木から無数の氷のイバラが生き物のように伸び、三人に襲い掛かった。


​「ヒッ!? いやぁッ!」

「守りを固めろッ!」


 ​上下左右、あらゆる方向から殺到する氷のイバラ。アーサーへの飛び火を恐れて大技を使えない三人は、自分の身を守ることしかできない。


 ​そしていつの間にか、視界の悪い氷の樹海の中で、栄光騎士団ナイツ・オブ・グローリーはバラバラに分断されていく──。



​◇


​「もう、らちが明かないわ……っ!」


 ​自ら張った結界の中で、氷のイバラを凌いでいるのは栄光騎士団ナイツ・オブ・グローリーの聖女ティナだ。


 イバラによる物理的な攻撃は防げているものの、フロア中を支配する冷気を防ぐことはできず、体をガチガチと震わせながら悪態をついている。


​「はやく誰かなんとかしてよね……」

「おい……おいッ! ティナ!」

「アーサー? ……えっ!?」


 ​聞き覚えのある声にティナが振り向く。

 少し先の氷樹の陰にいたのは──体中から血液代わりの青白い魔力がドクドクと漏れ出している、手負いのアーサーだった。


​「油断した。早く回復させろ──ッ!」

「い、今行くわっ。キャッ!?」


 ​ティナは駆け寄ろうとするが、結界を解いた瞬間に襲ってくる氷のイバラが邪魔をして、アーサーに近寄れない。

 手負いのアーサーも、剣でイバラを弾くので精一杯の様子。


​「くっ、ティナァ! マジックポーチを投げろォ!!」

「! わかったわ!」


 ​ティナは咄嗟とっさに腰に下げたマジックポーチを取り外すと、勢いよく投げた。

 マジックポーチは氷のイバラの間を見事に掻い潜り、手負いのアーサーの手元へ吸い込まれるように飛んでいった。


​「よしっ! さあアーサー、早くポーションを使って!」

​「……ポーションじゃねえ。、な?」

「えっ? アーサーあなた何を言って──」


 ​その時、アーサーの絶叫が響いた。


​「しゃらくせええぇぇぇぇぇええ!!!!」


 ──​ドオォォォォォォンッッッ


 離れた場所で黒い魔力が爆ぜ、氷の森を吹き飛ばしていく──。




 ​爆風により舞い上がった土ぼこりが晴れ、巻き込まれたティナは必死に起き上がる。


​「いたぁい……えっ……どういうこと?」


 ​驚くティナの目線の先にいたのは、先ほどマジックポーチを渡した手負いのアーサーと──遥か前方で黒い魔力を滾らせているアーサーの姿だった。


​「アーサーが二人? ……どういうこと?」


 ​ティナの問いに答えたのは手負いのアーサーだった。


​「こういうことだよ──」

​ 言葉と同時に、アーサーの姿が陽炎のようにゆらりと歪む。

 金ピカ鎧の輪郭がぼやけ、ノイズが走ると──その下から現れたのは、黒いロングコートを羽織ってニヤリと笑うアゴヒゲ。


 希望の灯リバティファイア盗賊シーフ、ジョージだった。


​「前倒したミラージュ・リッチの素材から作った【ミラージュ・コート】だ。……だろ?」

​「なっ……、そんな効果の装備、聞いたことないわッ!」

「まあ……ウチにはがいてね」


 ​ところで……と、ジョージは手元の戦利品──ティナから受け取ったばかりの栄光騎士団ナイツ・オブ・グローリーのマジックポーチを掲げて見せた。


​「証拠のポーションの提供、ありがとな?」

「ッ!!」

 ​騙されたと気づいたティナが顔を歪める。

 その瞬間、遠くにいるアーサーの殺気が膨れ上がった。


​「死ねェッ!!」

 ​黒い影を纏うアーサーがジョージに向かって走りながら、巨大な影の手を伸ばす──だが、仕事ぬすみを終えた盗賊は素早い。


​「おっと!」

 ​ジョージはヒラリとその一撃を避けると、軽い身のこなしで希望の灯リバティファイアのもとへと戻っていった。


 それを見て、分断されていた聖騎士クライヴと魔法使いエルドも慌てて主人のもとへ駆け寄ってくる。

 こうして再び集まった栄光騎士団ナイツ・オブ・グローリー希望の灯リバティファイアが対峙する形となった。


 ​ティナが青い顔でアーサーに謝罪する。

「ごめんなさい、私──」

​「黙れッ! お前が渡したのはただのポーションだ! そんなのは証拠でもなんでもねぇだろッ!?」

​「ハッ! そうね、ただのポーションを渡してしまったわ!!」

「本当にそうかねぇ──?」


 ​会話を遠くから遮ったのは、マジックポーチから取り出した大量のポーションを地面にズラリと並べたジョージだ。


​「ショータイムだ……『MPポーション×25』を……

  【アイテム錬成──魔力霊薬マナ・エリクサー】!」


​ ジョージが唱えたのは以前ワイバーン戦で使用した、しないと成功しない条件の厳しいスキル。

 全く同じ素材をまとめて圧縮し、効力を何倍にも高めるスキルだ。


 ​カッ──! と、まばゆい光が溢れ出す。

 並べられたポーションが強く共鳴。白い光の粒子となって溶け合うと───やがて一つの小瓶へと収束した。


​「おやおや──? 市販のポーションじゃバラつきがあって作れないんだが、成功しちまったなぁ?」

 ​ジョージが完成した液体を揺らしながら、わざとらしく首を傾げる。


 それはつまり、全てのポーションが「同一人物」によって作られたものであるという、動かぬ証拠だった。


​「そんなの出まかせだッ! なんの証拠にもならんぞッ!!」

 ​ジョージの言葉を必死にかき消すように、アーサーが声を張り上げて否定する。

 その声には、誰の耳にも明らかな焦りが滲んでいた。


​「まあ落ち着けよ、真の勇者さま? これが誰製のポーションだったのか、それはすぐにわかるぜ」


 ​そういってジョージは、〈光奪こうだつかいな〉によって未だに光を奪われているハルカの背中を支えると、その手に魔力霊薬マナ・エリクサーを握らせた。


​「やめろぉぉぉぉッ!」

 ​アーサーが絶叫し、影の槍を放つが──。


​「させない!」

「ここは通しません!」

 ​トウマの剣とエマの魔法がそれを防ぐ。


​「──さぁハルカ。これはお前自身の魔力だ。遠慮なく飲みな」

「ジョージ、ありがとう……っ!」

 ​そしてハルカは、自身の魔力を何倍にも濃縮し引き上げた、100魔力霊薬マナ・エリクサーを一気に飲み干した。


 ​ドクンッ──!!


 ​飲んだ瞬間だ。

 ハルカの体の内側から爆発するように、圧倒的な魔力の洪水が溢れ始めた───。

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