第28話「バトル開幕」
桑園ダンジョンのゲートをくぐった先にある広間。そこには十個のイス型の魔石──【魔力アバター生成魔石】が円形に並んでいる。
今回のダンジョンバトルは、生身の肉体で戦うわけではない。
この魔石に座って自身の魔力を同調させ、ダンジョン内に生成された魔力アバターで戦う「アバター戦」だ。
これならどんなに激しくやり合っても命の危険はない。
つまり、お互いが後腐れなく全力を出し切れるというわけだ。
「……行こう」
トウマの静かな号令で、メンバーたちがそれぞれの魔石に腰を下ろす。
向かい側では、アーサーたち
俺はアパートの自室から万能カメラを操作して、一足先にダンジョン1階層へと移動していく──。
◇
桑園ダンジョン1階層
──通称【曇天の荒野】。
ゴツゴツとした赤茶色の岩があちらこちらに転がり、乾いた風が吹き抜ける荒野だ。
常に曇り空に覆われるここは、珍しく魔物が出現しないフロアであるため、冒険者同士のダンジョンバトルにピッタリの場所として知られている。
万能カメラが1階層についてすぐ──空間に青白い光の粒子が集まり、各々の魔力アバターが生成されていく。
"おっ、来たぞ"
"はじまるね"
"やっちゃえアーサー!"
"泥棒パーティに正義の鉄槌を"
視界の端に流れるコメント欄は、滝のような勢いで加速している。
同接数はなんと10万人超で、その注目度が非常に高い。
俺はその熱気を肌で感じながら、慎重にカメラのアングルを調整していく。
そして、荒野の中央。
左手には、金ピカの装備で威圧感を放つ
右手には、それに対峙するように横一列に並んだ
ヒリつくような緊張感の中、口火を切ったのはアーサーだった。
彼はカメラのアングルを意識し、配信用の爽やかな勇者の顔を作って語り始めた。
「……こうして戦うことになってしまったのは残念だが、亡くなった【白の盾】の無念を晴らすためにも、俺たちは手加減しない」
よく回る舌だ。
悲劇のヒーローぶるアーサーは、ビシッとトウマたちを指差した。
「条件を確認しよう。もし俺たちが勝ったら、
「…………」
トウマたちは沈黙を守っている。
「君たちが横領したポーションで手に入れた汚い金──それで買ったその装備も、全て売り払って返済に充てるんだ。……いいな?」
あくまでも「正義は我にあり」というスタンスだ。チャット欄には『アーサー優しい』『当然だ』という言葉が流れている。
それを受けたトウマが一歩前に出て、毅然とした表情で言い返す。
「……こちらも改めて主張させてもらう。反論動画で説明した通り、ハルカに一切の非はない。ポーションを横領し今回の悲劇を招いたのはそちらだ」
「ハッ、往生際が悪いぜ?」
アーサーが鼻で笑うが、トウマは無視して続けた。
「僕たちが勝った場合の条件も提示する。そちらも同じように引退、そして全財産を被害者への償いに充ててもらう」
「ああ、構わないぜ? 負けないからな」
「それと、もう一つ」
トウマの声が、一段低くなった。
「引退するのであれば、当然その権利も不要になるはずだ。……来年開催される『ダンジョン全国大会』。各都道府県の1位に与えられる出場切符──それを譲ってもらう」
その言葉にアーサーの眉がピクリと動く。
「ハハッ、大きく出たな……! いいだろう。俺たちに勝てば切符はくれてやる。……そんな未来はありえないがな」
「
トウマが静かに剣を抜き、切っ先を向けて構えた。
それに呼応して、アーサーも腰に差した煌びやかな装飾の聖剣を抜く。
「冥土の土産だ……。精霊に選ばれし真の勇者の実力を見せてやるよ」
「……行くぞみんな。
両者の殺気がぶつかり合い、荒野の空気がビリビリと張り詰める。
コメント欄の熱狂が最高潮に達した瞬間。お互いの冒険者生命を賭けたバトルが幕を開けた──。
──まず動いたのはアーサー。
「出番だぜェ──
その直後。
アーサーが両手を広げると、その足元にある影がまるでインク壺をひっくり返したかのように爆発的に広がり始めた──。
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