第二部 地元修行編
第5話「育成開始!」
真竜アルビオンを屈服させた次の日の朝。俺たちは赤髪の勇者
「金策、うまくいったよ」
俺がそう言って、テーブルの上に一枚の紙──銀行の振込明細を無造作に置く。昨日大量に手に入れた素材の内の一部を売却したものだ。
その紙を覗き込んだ瞬間、トウマたちが息を呑んで固まった。
明細に印字された売却額──沢山のゼロが並ぶ見慣れない数字が、彼らの思考を完全に停止させたようだ。
「あっ、そうだ。とりあえず生活費もいるだろうし、皆で分けようか?」
と提案すると、リーダーのトウマがハッと我に返り、そのサラサラの赤髪が乱れるほど勢いよく首を振った。
「いやっ……! それはヒロが一人で稼いだ金だろ? 僕たちは自分たちの力で、正々堂々と稼げるようになってみせるさ」
その言葉に魔法使いの
そんな中で
「なぁ、ヒロ。すまねぇが俺は少しだけもらっておいても良いか……?」
「ジョージ、もちろん良いよ」
俺は快く了承する。この大金を稼げたのも元はと言えば、みんなの未来の力のおかげだしな。
俺は他の三人にも、いつでも言ってくれよと付け加えておいた。
◇
その日の少し後。
俺たちは、札幌市にある国営ダンジョン──【
ここは、国が管理する「貸切制」のダンジョンだ。
クリア済みのため【魔力アバター生成魔石】が出現しており、命の危険なく安全に訓練ができる。
さらに貸切なので、秘密の特訓やパーティの連携確認、ファンクラブ限定の非公開配信などにはもってこいだ。
ただしその利用料は、目玉が飛び出るほど高い。今までの俺たちでは、その門をくぐることすら夢のまた夢だった場所だ。
現在メンバーの皆は、ダンジョンの1階層にある広大な草原フィールドに立っている。
俺自身はアパートの一室から、その様子を眺めていた。
盗賊のジョージが、みんなの周りをフワフワと浮遊する二つの黒い球体を指差して、不思議そうに言う。
「……で、ヒロ……でいいのか? これは一体何なんだ?」
『ああ。これは遠隔撮影用の万能カメラだよ』
俺の声が、その黒い球体から響く。
──俺のスキルには「元パーティメンバーと同じダンジョンに一分間以上入っていると、全てのスキルとステータスを失ってしまう」という、致命的な制約がある。
そのため俺はジョージの【アイテムマスター】のスキルを活用して、この万能カメラを創り出したのだ。
魔力で自律浮遊し、俺の五感とリンクするこのカメラを通すことで、撮影も配信も、そして仲間たちとの会話も全てリアルタイムで可能というわけだ!
俺自身はダンジョンの外にいるので、スキル制約からもセーフなのである──。
『それじゃあ皆。さっそくペアに別れて修行を開始してくれ』
◇◆◇勇者トウマ、聖女ハルカのペア
貸切した【丘珠ダンジョン】1階層の広大な草原フィールド。空には青空が広がり、草の香りを含んだ爽やかな風が吹き抜けている。
俺は万能カメラを通して、最初の修行の指示を出していた。
まずはパーティのエースである勇者トウマと、彼を支える聖女ハルカのペアからだ。
◆伸びしろポイントその1◆
【勇者の戦い方が地味】
万能カメラの前でリーダーのトウマが、俺が事前に渡したメモ用紙を眺めながら苦笑いを浮かべた。
そこに書かれているのは、彼が最初に乗り越えるべき課題だ。
「……僕ってやっぱり、地味なのか」
少しだけ落ち込んだ声で、トウマが呟く。
『まあ、堅実で確実とも言い換えられるけどな。トウマは今まで、勇者の固有スキルはほとんど使ってなかっただろ?』
「うん……あれはMP消費が高いから、あまり使いたくないんだ。いざという時のために温存しておかないと……」
それは彼の優しさであり、リーダーとしての責任感の表れだった。
彼はパーティ全体のMP残量を常に気にかけ、堅実・確実にダンジョンをクリアするために、消費の激しい大技を封印して、純粋な剣技を中心に立ち回ってきた。
その戦い方は一部の玄人から「いぶし銀」と評価されるも、ほとんどの視聴者からは「見どころの少ない地味な勇者」と思われてしまっていた。
『それでさトウマ、俺も色んなスキルを手に入れてから分かったんだけど、スキルには“練度”っていう要素もあるらしい。沢山使うことで練度が上がって威力が上がったり、新しいスキルが解放されたりするんだ』
「へぇ、そんな法則があったのか……」
『ああ。だからこの修行では一旦MP消費のことは忘れて、勇者の固有スキルをド派手に、カッコよく撃ちまくってほしい』
「ド派手にカッコよく、ね……」
俺の言葉にトウマは右手を口元に置き、何かを考え始める。
しばらくして彼はフーッと大きく息を吐き出すと、少しだけ苦い顔でポツリと呟いた。
「派手さはなくとも実力で魅せるのが、理想だったんだけどね……。まずはその実力をつけないことには話にならない、か」
実力だけで魅せる──トウマの言いたいことは痛いほどよくわかる……
というか、多くの冒険者が一度は憧れるスタイルだろう。
なぜなら、日本で長年人気ナンバーワンに君臨しているパーティ、勇者フーマ率いる【
彼らはとんでもない奥の手を持ってはいるが、それは滅多に使わない。どんな難敵に対しても堅実な攻略を積み重ねる。
撮影方法にもこだわらない。配信は、国が定めた義務だからやっているだけ。
それでも数々の難ダンジョンを攻略して、人類の安全圏を広げていく姿は、まさに現代の英雄だ。
ただしそれは、圧倒的な実力と実績があるからこそ許されているスタイルである。
ほとんどのパーティはどこかで「理想」を諦め、視聴者を意識したエンターテイメント性も織り交ぜていくスタイルへと移行しているのが現状だった。
そして──トウマは口にこそ出さないが、昔からずっと明らかに【
『トウマの気持ちはよくわかる。だけどさ……』
俺が彼の気持ちを慮って言葉を続けようとした、その時だった。
「いや、大丈夫だよヒロ」
トウマは俺の言葉を遮るように、きっぱりと言い切った。
「本当は僕もこのままじゃダメだって思っていたんだ。……誰かの真似をするんじゃなくて、僕たちだけのスタイルを探していく。それも、大切なことだよな」
その言葉に、俺はモニターの前でホッと胸を撫で下ろした。だがトウマはすぐに、現実的な問題点を指摘する。
「でも……固有スキルを連発するとなると、すぐにMP切れになってしまうよ?」
『ああ、それは大丈夫だ。そこをクリアするために、ハルカにも今日から新しい修行をしてもらうからな』
俺の言葉に、トウマは隣に立つハルカの顔を見た。彼女はにこりと微笑んで、トウマに向かって力強く頷く。
「……わかった。やってみよう!」
決意を固めたトウマは見晴らしの良い草原を進み始める。少しすると、1階層のモンスター【グラスウルフ】の群れが現れた。
俊敏な動きを見せる緑色の狼の群れ。
以前の彼なら一体ずつ、堅実に斬り伏せていただろう。
だが、今日の彼は違う。
「希望を紡ぐ光の剣──【
トウマが叫ぶと、彼が握るごく普通の剣がまばゆい光を放ち、巨大な光の刃へと姿を変えた。
彼はその光の剣を、力強く横薙ぎに一閃する。
──シュバッッッ
放たれた光の斬撃はグラスウルフの群れをまるで紙のように両断し──後方にいた個体もまとめて消し炭にしていく。
赤髪をなびかせて真剣な瞳で聖剣を振るうトウマは、漫画から抜け出してきた王子様のような王道のイケメンだ。
彼にはこういう大胆で、華のある立ち回りの方がとてもよく似合う。
(うん、良い感じだ!)
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名前:トウマ(21歳)
ジョブ:【勇者】
レベル:32
HP:1,850 / 1,850
MP:550 / 550
【ステータス】
STR(筋力):160
VIT(耐久):210
AGI(敏捷):160
DEX(器用):140
【スキル】
剣術 B、シールドバッシュ C、挑発 D、
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