天使なんかじゃない
長尾くみこ
プロローグ
「天使のラブレター? 何それ?」
三人組の右端の女の子が言った。
「図書室にね「天使が落した本」って言われている本があってね、その本に願い事をすると願いが叶うんだって!」
窓のサッシに体重を預けた中央の女の子の言葉に、二人の熱は一気に上がった。
「ウソ~」
「信じられないよね~」
などと否定的な言葉とは裏腹に、その目は興味で爛々と輝いていた。
「本当だって。その本のお陰で彼氏できた子がいるんだって」
「誰?」
と左端の女の子が眉毛を跳ね上げて言った。
「ね、誰? 何組の子?」
「この二年じゃないみたいだけど、詳しくはしらない……。けど、その噂は本当だって!」
「私のもお願いしてみようかなぁ~」
「あはは、あんたは無理。もう、彼氏いるじゃん」
右端の女の子の言葉に、すかさず左側から突込みが入った。
「いいじゃん、何人いたって」
「バカ」
「もう、ふざけないでよ。真剣に話してるんだから」
楽しそうにキャイキャイと声を上げながら盛り上がっている光景を
私は複雑な心境で眺めていた。
私がこの学校に転入して来て三ヶ月が経った頃だった。
初めは知る人ぞ知るという噂話があれよあれよという間に学校中に広がっていった。
もっともこの話に興味を示したのは、女子だけで男子は我関せずといった具合だった。
二年三組の私のクラスでも、同じような現象が起きていた。
こんなことに興味がないと思っていたフジコちゃんも、篠目さんに
「私もお願いしてみようかな……」
と漏らしていたのも聞こえた。
そんなクラスの光景を眺めながら、
私の席の隣で要四郎が
「くだらないことが流行ってるねぇ~」
と机に腰掛けている三崎くんに、興味なさそうに鼻をかみながら言っていた。
セミの鳴き声がまだ穏やかな七月上旬、
夏の訪れとともに、変な流行が浜ヶ崎高校を席巻していた。
話せば長くなるが、その始まりは、私がこの学校に転入して来た日からだ。
私があのとても奇妙で不思議なものと出会ったからである。
少し長くなるかもしれないけれど、
私がどうやってそれと出会ったのかをお話したいと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます