もし、会えたなら

猫様のしもべ

もし、会えたなら

私のパパは嘘つきだ。


あの日、出張に行くって言って、家を出たパパ。

次の日も、その次の日も、ただ待っていた。

でも、帰ることはなかった。


命を落としたわけじゃない。

自分の意思で、二度と帰らなかった。


ママに言われたんだ。


「パパは家を出て行った」


その言葉を聞いて、私は1番に思った。

“裏切られた”って。

ただそう、思ったんだよ。


家を出る前に、家族で話したんだ。

外国旅行に行こうねって。

パンフレットをみんなで見て、このホテルいいねなんて話して、楽しみにしてた。

2冊のパンフレットを見比べて、考えていたんだ。


漫画みたいだけど、現実だったんだ。

幸せな未来に、希望を抱いていた。


でも、叶わなかった。

1人欠けた家族で、そこに行ったんだよ。


パパは言ったよね。

パンフレットを見ている時。


「もし、パパがいなくなったらどう思う?」


私は、あり得ないと思ったんだ。

だから適当に返した。


「お菓子入れてくれる人がいなくなる!」


もしそこで、泣いたり、喚いたり、説得したりしていたら、変わったのかな。

今こうして、寂しく思うこともなかったかな。


でももうやり直せないんだよね。


ママがね、パパのことをこう言ってた。


「最低な人だった」


それを聞いて、悲しくなったんだ。

でもね、パパもママのことを話していた。


「ママは精神病なんだ」


2人とも、私にだけ、言ったんだ。

互いに、互いの悪口を。


私は2人とも、信頼していた。

だって、親だから。

でも、そんなことを言われたら、私はどっちを信じればいいの?


結局私は、どっちも信じられなくなった。


パパは家を出ていったけど、一度だけ会ったんだ。

夏休みだった。

友達と電車で遊びに行こうとしてたんだ。


でもお金がなくて、定期にお金を入れてた。

そしたら、パパが来たんだ。


私は嬉しかったよ。

ほんの少しの会話だったけど、喜んだ。


それで、ママに言ったんだ。


「パパに会えたよ!」


私は本当に喜んでいて、その気持ちを伝えただけ。

でもママにとって、パパはやっぱり“最低”だった。

返ってきた言葉は、一言。


「大丈夫だった?」


なんで、そんなことを言うの?

なんで自分の父親に会って、心配されなければいけないの?


でも、子供ながらに悟ったよ。

だから、返したんだ。


「うん」


一言だけね。

その後は、友達と遊んだんだ。

もしかしたら、友達には、居た堪れない思いをさせたかもしれない。

そうだったら、ごめんね。


何かわからない気持ちが、ぐるぐる回ってたんだ。


思えば、パパが出て行く少し前から、思うように笑えていなかった。

それは学校のせいかもしれないし、子供ながらに、何かを感じ取っていたからかもしれない。


でもね、「ずっと一緒にいる」って約束を、裏切られたんだ。


会えないし、会いたいとは思わないよ。

もし会って、また期待を裏切られるなら。

そうなるくらいなら、会いたくない。


それでももし会えたなら、私はきっと、喜ぶよ。

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