14 それぞれの始まり

「国王にならないと駄目⋯⋯?」

 

「何言ってるんですか。閣下」

 

「冗談だよ」

 

 

 

 ディルクルムの死から五日。

 通常なら国葬とすべきだが、短い在位とあまりに私的な死である為に、王族のみでひっそりと葬送は行われた。

 

 建国祭は予定通り開催され、民は王の死など知らず大いに呑み、踊り、日頃の鬱憤を晴らした。

 

「元老院の連中がね、遺言だからってせっつくんだよ」

 

 埋葬を終え、王家の霊園をハルトと肩を並べて歩く。

 

「それはそうでしょう。他の誰が国王になるんですか」

 

 ハルトは以前の険がとれてつねに寄せていた眉間の皺が無くなった。

 

 実際の年齢は私より遥かに年上だが、「起きてた日数は貴方の方が長い」と言って言葉を崩さない。

 

「そうなんだが、ね。まあ、やるなら徹底的にやるが。私は今の体制はこの星の発展の邪魔になると思ってるんだよ。勿論今すぐという訳には行かないから、次世代に持ち越しになるだろうね」

 

「そうですか。ならば星船のデータベースを解放しましょう。良い文官を派遣していただければ使い方を教えましょう」

 

「いいのかい?」

 

「そういうのは【聖女の人形】がやっていましたが、もういませんし。元々解放しようと思っていたので」

 

「有り難いね。それと本星の技術を買い入れようと思っているんだ。大きな産業はないが、織物が案外売れているんだって?」

 

「ええ、あちらは化学繊維ばかりなので、ここの蜘蛛の糸の織物は好事家に人気があるんですよ。実は、こっそり売ってたんですが面白い鉱物もあるんですよ」

 

 そっと声をひそめて話す彼が少しばかり可愛らしく見えた。

 

「僕とソフィアはもうしばらく残りますが、ジョイルとパティはフローレスに帰します。彼等はとてもお互いを大事にしていて微笑ましいです。兄妹として育ちましたが、血は繋がっていませんしね」

 

「子は望めないのではないのか?」

 

「パティは気にしましたが、ジョイルは『叔父夫婦に息子がいるから大丈夫』と」

 

「そうか。彼女が幸せならそれでいい」

 

「ええ、あの子は僕達のせいで辛い思いをさせてしまったから??」

 

 

 霊園の門まで来た所でハルトに右手を差し出す。

 

「⋯⋯?」

 

「これからも宜しく」

 

 ああ、と言って握り返してきたハルトの手は思いの外温かかった。

 手を離しそれぞれの方角へ踏み出す。

 

 ふいに立ち止まりハルトが問うた。

 

「シャハルの遺体はどうなったんです?」

 

「ドーン商会で持ち帰ったよ。宇宙葬にする予定だそうだ。それと、刑事告訴はしないつもりだとか」

 

「藪蛇でしょうからね」

 

「あらゆる人間が少なからず迷惑を被っている。掘り起こせばきりがない。まあ、ドーン商会には色々勉強してもらおうと思ってるよ。ふふ」

 

 とはいえ、外との貿易など経験がないからこちらが勉強させてもらうのだけれど。

 

「ふ。いい笑顔ですよ、国王陛下」

 

 揃って右手を上げて別れを告げた。

 

 

 

 降って湧いた即位だがやるしかあるまい。

 

 手を取り合って清貧を貫くのはいいが、それだけではこの星はいつまで経っても変わらない。

 加減は難しいが、少しずつ変わっていけばいい。

 

 公爵夫人だった妻が突然王妃になるのは申し訳ないが、一緒に頑張ってもらおう。

 夫と息子を相次いで亡くしたセーレナは気鬱で内に籠もりがちだが、王妃の執務を妻に教える忙しさで気が紛れる事を期待しよう。

 

 やる事は多い。

 

 

 シャハルの影が消えるまで、マグノリアの白で埋めてしまおう。

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