偽りの始まりはどこからなのか

小日向 おる

00 終わりの始まり

「パティエンス。君を愛する事は、もう、ない」

 

 男は相対する女へ告げた。

 男の黄金の髪が烟るような青い瞳にかかる。

 

「ディルクルム陛下、理由を伺っても?」

 

 軽く真紅の瞳を見開いた後、女は白銀の髪を揺らし表情を無にし問うた。

 

「⋯⋯」

 

 男は俯き応えはない。

 

「その人形のせいですか?」

 

 男の後ろに瞼を伏せ音もなく控えるモノに目をやる。

 

「⋯⋯そうだ」 

 

「左様でございますか。承知致しました」

 

 絞り出されすように紡がれた声に、これ以上無い程優雅に膝を折った。

 男は逃げるように退室し、残ったのは風にそよぐ木々の音のみであった。

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 【 王国マグノリア縁起】

 

 黒き海を渡り聖なる乙女が指し示すは

 雪降るごとく波打つ花の大地

 

『我等此の地にて栄えん』

 

 初代国王オルトゥス宣誓す

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 王国マグノリアは国を失い船で海を渡って来た流浪の民が、聖女ソフィアに神託が降りたこの地を王都とした事で興した国だ。

 聖女は後に初代国王オルトゥスに娶られ王妃となり、王と手を携え国民と共に開闢したという。

 この国に住まう者ならば貴族、平民問わず子供なら必ず教えられる話。

 

 それから千年。ひと月後に開かれる建国祭は千年という事もあり、通年よりはるかに大きな催しが予定されている。

 昨年先代国王クレプスクルム陛下が崩御し、新国王ディルクルム陛下の戴冠の儀を合わせて執り行う事となった。

 それ故王都はいつもより気忙しい。

 

 マグノリア自体温暖で冬の厳しさはさほどでもないが、それでも緑が一斉に芽吹くこの時期は唯でさえ心を浮き立たせる。

 祭りの開催とも相まって人々の興奮は渦を巻き上昇するかのようだ。

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