戦国ライフはいかが?
月夜
1 戦国ライフはいかが?
私は武将が大好きなのだが、アニメやゲームでのキャラに恋をするだけであり歴史は無知だった。
そんな私が戦国時代に突然放り込まれたとしたら、生きていけるはずがない。
「何で私こんなことになってんのよ! 早く元の時代に帰りたいよ……」
「何を一人でお話になっておられるのですか? これから姫様を尋ねに信長様がお城に来られるのですから、もっと身なりをしっかりと――」
「信長!? あの織田 信長!?」
突然戦国時代に放り込まれた私は、どうやらその国の姫とそっくりらしく、間違って連れてこられたがために今の現状となっていた。
何を説明しても信じてもらえないどころか、外にすら出られない毎日にうんざりしていたのだが、知っている武将、織田 信長の名が出され一気にテンションは上がる。
「姫様、いくら親しいからといっても、様をお付けにならないのはいけません。織田 信長様とお呼びくださいませ。って、聞いておられるのですか姫様!」
世話係の言葉など一切聞かず、信長の事で頭を膨らませる。
武将のゲームでは、髭を生やしたおじさん。
乙女ゲーなら、イケメン武将の一人である信長だが、一体どちらが現れるのだろうかと期待に胸を膨らませていると、外が騒がしい事に気づく。
「姫様、信長様がお着きになられましたよ」
「信長!」
「っ、姫様!?」
私は部屋を飛び出すと信長の元へ向かう。
動きづらい着物はこの数日だけでは慣れず、自然と歩く幅が狭くなる。
「もう! 早く信長を見たいのに、ッうわ!?」
無理矢理走ろうとしたせいで、着物に足を取られ体が傾く。
倒れると思ったその時、横から現れた人物に体を抱き止められなんとか転ばずにすんだ。
謝罪を口にし、顔を上げた私の瞳に映ったのは、とても綺麗でいて少し冷たさを感じさせる男性の姿。
男の人を綺麗なんて思ったのは初めてで、私の瞳はその人から目が逸らせなくなる。
「大丈夫か?」
「は、はい。お陰様で」
私は慌てて男性から離れると、頭を下げお礼を伝える。
「何をそんなに急いでいたんだ?」
「あっ、すみません。私、ある方を探している最中なので、これで失礼致します」
信長のことを思い出した私は、転ばないように注意して早足で城の入り口へと向かったが、すでに信長の姿はなく、溜息をつき肩を落としていると「姫様」と呼ぶ声が聞こえ、世話係が追いかけてきたのだろうかと恐る恐る振り返る。
そこにいたのは見慣れない男性であり、先程会った男と同じくらいに綺麗な人物。
「お久しゅうございます、姫様」
「えーっと……」
姫様と呼ぶこの人が何者なのかわからず困っていると「忘れてしまわれたのですか?」と悲しそうな表情を浮かべている。
「無理もないですね。こうして会うのはいつぶりかもわかりませんし」
姫とこの男は親しい間柄のようだが、一体何者なのだろうか。
気になった私は男に尋ねる。
「僕は森 蘭丸です。姫様とは3回ほどしかお会いしたことはありませんから、覚えていないのも無理はないです」
「蘭丸って、あの森 蘭丸!?」
声を上げ驚く私に、蘭丸の方が驚きクスリと笑みを溢す。
「そんなに僕、変わりましたか?」
「いや、変わったというより初対面だし……」
初対面という私の言葉に首を傾げる蘭丸。
兎に角私が姫でないことや、別の世界から来たことを話すが、姫と瓜二つの私が何を言ったところで信じてはもらえず蘭丸は笑うだけ。
必死に説明するも虚しく、二人広間へと向かう。
「姫様、何処へ行っておられたのですか。信長様はすでにお待ちですよ。蘭丸様もご一緒でしたか。ささ、どうぞお入りください」
世話係に広間へ通されると、そこにいたのは、先程転びそうになったのを助けてくれた人物の姿。
男性の視線が私へと向けられ、慌てて畳の上に座る。
「信長様、遅れてしまい申し訳ございません」
頭を下げる蘭丸に「構わん」と一言言い放つこの男こそ、私が探していた信長。
まさかさっきの人が信長だとは思わなかったが、こうして蘭丸と信長が並ぶと、綺麗すぎて直視できず顔を俯かせてしまう。
「先程から俯いているようだが、どうかしたのか」
「美夜様は緊張しておられるのでしょう。未来の夫となられる信長様を前にしておられるのですから」
「そうなんです。未来の夫となる信長様……お、夫!?」
まさかの言葉に一瞬思考がフリーズしてしまう。
夫というのは夫婦になることであり、その私の夫となる人が信長ということになる。
だが、私は今姫と間違えられているだけ、信長の夫婦になるのは本当の姫。
折角頭の中が整理されたというのに、いつの間にか目の前まで近づいていた信長が私の顎を掴むと持ち上げた。
近い距離に顔には熱が宿り混乱状態になってしまうと、私の耳元で信長は囁くように言う。
「お前、本当にあの姫か?」
真っ直ぐに私を見つめる瞳には、さっき見た時のような冷たさはなく、まるで興味津々といった子供のように瞳の奥を輝かせている。
この人なら、私の話を信じてくれるかもしれないと思い声を発そうとしたとき、蘭丸の声が私の言葉を遮る。
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