《鬼の祠》
いきなり巻き起こった突風に葉治と桃葉は呆気に取られてしまった。しかも本尊である鬼道丸の祠がいとも簡単に崩壊してしまったのだ。
「なっっ!???」
「なにがあったんだっ!??」
驚いて見張っている葉治と桃葉に対し、無事であった鬼治丸の祠にどうしてか幼い子供が居た。見た目が小学一年生ぐらいの子供の姿がそこにあった。しかしその子供は痩せいて、しかも女の子のように長い黒髪をしている。そしてその子供はなぜか白いウサギを携えて大きな真紅の瞳で葉治を見上げたのだ。
「お前が封印を解いたのか?」
「……えっ?」
どういうことなのかさっぱりわからずに居た葉治と顔面蒼白の桃葉がただ佇んでいた。しかし桃葉はすぐさま女の子のように長い髪をした子供へ敬うように身を乗り出した。「あなた様は、もしや……鬼治丸様でございましょうか?」
鬼治丸と呼ばれた子供は首を傾げたかと思えば納得がいくような顔を見せた。
「あぁ、そんな名前で呼ばれていたのか。おら、名付けられる前に死んじまったからなぁ」
どうやら自分の名前をわかっていないかのようであった。というよりも葉治は祖父がどうして鬼治丸だとわかったのかを知りたかった。
「なんでじいちゃん、この子が鬼治丸だってわかったんだよ?」
すると祖父である桃葉は「お前にもあとで教えてやる」そう言ってどこかへ走ってしまった。その軽快な走りは本当に還暦へ届いてしまった者の走りかとさえ葉治は思った。
「え、え……と……」
唖然呆然としている葉治に幼い少年の姿である鬼治丸はうさぎを抱えて葉治に駆け寄った。それから駆け寄ったかと思えばどこか懐かしげな顔を見せるのだ。その表情は子供ながらにして憂いさを帯びたような、でもどこか嬉しそうな複雑な表情だ。
そんな鬼治丸に葉治は少し首を傾げていた。「えっと……、なにか俺に付いています、か?」葉治が尋ねると鬼治丸はふふっと笑ったのだ。
「お前は兄者にどこか似ている。おらがまだ生きていた頃、自分の中に潜む鬼に食われず生きていたあの兄者の姿にそっくりだ」
どこか悲壮めいた言葉を紡ぐ鬼治丸に葉治は頬を掻いた。「えっと……。兄者って、あの……、鬼道丸様のことですか?」
「そういう堅苦しいのは良いよ。おらの方が外見はガキだし、すぐに亡くなっちまってる。しかも兄ちゃんの方がおらよりもうんと背がでけぇしな」
「は、はぁ……。じゃあ遠慮なく」
「それに、……おらはわかっているんだ」
なにをわかっているのだろうと葉治が首を傾げていると鬼治丸はにひっと笑うのだ。「おらにも兄者にもご縁がありますよにって五円をくれた。しかもおらの方にはもう少し、金を入れてくれた。こんなの生まれて初めてだ。……おらはみんなに嫌われているというのに」
確かに弟の鬼治丸には百円多く入れたような気がした。どうしてかと言われるとなんとなくだった。
参拝客の多くは本尊である鬼道丸の方に賽銭を入れる。弟には見向きもしない。それが少し切なかったのかもしれないな、なんて葉治は思った。「こらっ、
そんな弥生は葉治の前に躍り出たかと思えば、葉治の手に自分の身体を押し付けた。何事かと思った葉治であったが、白兎である弥生は姿かたちを変化させ、――白い短刀となったのだ。
白兎だった弥生が白く輝く小刀となった姿に葉治も鬼治丸も目を見張る。しかし鬼治丸はどこか得心を持った表情を浮かべていた。「そうか……。兄ちゃんが本当の兄者の化身を穿てる、末裔なのか」
「末裔って。確かに俺はこの神社の末裔ではあるけれど、それとなにが関係あるんだ?」
「関係あるさ。兄者は今、かなり暴走しているんだ。
「……どういうこと?」
そんな二人に祖父の桃葉が手に何かをぶら下げて戻ってきた。「お茶にしましょうっ、鬼治丸様っ!」
「いいのかっ。それじゃあ遠慮なく!」
還暦であるからか白髪交じりの頭髪の桃葉へ元気よく走って駆け寄る鬼治丸を葉治はわからずにいたのだ。鬼と化している鬼道丸のことについてよくわかっていない。
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