第5話「夫婦デート大作戦」


珍獣観察日記がXでバズって以来、

僕は“夫婦の交流デー”以外でも、

ちゃんとひよりと向き合うべきなのかもしれない……と思い始めていた。


(いや、向き合わないと確実に絶滅する)


そこで僕は提案した。


僕「ひより。たまには二人でデートでもしない?」

妻「えっ? 触るデート?」

僕「違う!!」


まずは“ふつうの夫婦”を目指そう。

そんな気持ちで、僕はデートプランを立てた。


●映画デート編


土曜日。

久しぶりに映画館へ行くことにした。


妻は席に着くなり、暗い館内をゆっくり見渡し――


妻「暗いねぇ……触るには最高じゃん♡」

夫「目的が違う!!」


映画が始まると、

妻はスクリーンより前の座席を見て呟いた。


妻「あの人、背高いね……攻め顔」

夫「映画に集中してくれ!!!」


●カフェ編


映画後のカフェで、

僕はようやく穏やかな時間が来たと思った。


しかし妻は、

レジで偶然横に並んだ男性店員ふたりを見て目を輝かせた。


妻「ねぇよーくん、見て!

  店員さん同士、距離近くない?

  あれ……完全に攻め×攻めじゃない?」

夫「カップリングにするな!!」


妻はうっとりしながら続ける。


妻「しかもメガネとピアスの組み合わせ……最高の相性……」

夫「相性って何の!?」


僕はアイスコーヒーをすすりながら、

自分が普通の会話に戻れる日は来るのかと不安になった。


●ショッピングモール編


その後、ショッピングモールを歩いていると、

妻のBLレーダーが再び作動した。


妻「あっ、見てよーくん。

  あの店員さんとあのお客さん、身長差15センチ!!

  尊っ……!!」


夫「買い物するだけなのになんで尊死しそうなの!?」


妻「あの距離感、絶対仲良いよ……あぁ……ネタが潤う……♡」


夫(潤うな)


●デートの終盤


僕はなんとか妻と手を繋ごうとした。


よし、今日は心の距離を縮めるんだ……。


すると妻は僕の手を取って、ニヤッと笑った。


妻「よーくんの手……あっ、こういうカップリングあるよね。

  “体格差カプ”ってやつ。

  手の大きさ差……萌え〜♡」


夫「やめろーーーー!!」


今日という今日こそ、

僕は理解した。


ひよりの創作欲と妄想は、

家の外でも容赦なく発動する ということを。


●帰り道


妻は満足げに言った。


妻「今日は最高だったよ〜♡

  映画もご飯もデートも、

  ネタいっぱいになった!!」


夫「僕とのデートじゃなくて……ネタが最高だったの?」


妻「ん? よーくんとデートするのも、

  BLネタの収集も、どっちも好きだよ♡」


……いや、それ同列でいいやつ?


僕は心の中でそっとため息をついた。


でも、嬉しそうな妻を見て思った。


――この珍獣と生きていくには、

“妄想という名の嵐”に慣れるしかない。


絶滅危惧夫の僕は、

今日もこの世界でなんとか生き延びている。

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