第5話 文通スタート
ディフェクト様とイティルラ様がシルバーニュ領に来た、慌ただしい日から早数か月。
最初は頻繁に来ていた手紙も、月日が経つにつれて徐々にその数を減らしていった。
(やはり最初だけよね。どうせすぐに飽きると思っていたわ)
……なんて事にはならず、ひと月に一回のペースで二人それぞれからの手紙が届いている。
「ディフェクト様もイティルラ様も凄いわ。とても分厚い」
届く回数はひと月に一回なのだけれど、その封筒の厚みと言ったら。渡される度にびっくりしてしまうわ。
しかも二人分なので、十数枚×二倍となる為、読むのにも気合いが必要である。
書いてある事一つ一つは他愛のない事ではあるのだけれど、日常の何気ない事や感じた事などが丁寧に書かれているので、その情景が浮かびやすく、とても読みやすい。
そして同じ事柄でもそれぞれの性格が出ている為、視点が変わって面白いわ。
「ディフェクト様はとでも感情的で、表現豊かね。イティルラ様はすっきりとした文章で、わかりやすいわ」
双子とは言え、やはり全然違うのだろう。でもお互いを思い合う仲の良い側面も見て取れて、心が温かくなる。
私には兄弟も姉妹もないから、こんな風に言いたいことを言い合える仲って、とても羨ましいな。
「へぇ、来月にはセラフィム国に行くのね」
隣国のセラフィム国は気候が穏やかで、薬学に長けた人が多いと聞いているわ。
(どんな勉強やお話をしてくるのかしら……)
国はおろか、自分の領からも出たことはないのだけれど、二人がとても楽しそに話すものだから、興味がわいてくる。
「私もいつか行ってみたいです、ぜひおすすめの場所を教えてくださいね」
そのあたりの事を手紙に書いて、お返事とする。
二人はこうして色々な話をしてくれるから、私も書く事には困らないし、話が尽きない。
さすがに二人みたいに十数枚もは書けないけれど。
「あら、イティルラ様から絵葉書も入っていたわ。綺麗なランタンの絵……カリンガ公爵様のところに行った時のお土産なのね。ディフェクト様のお手紙には、セラフィム国でお花の入浴剤を買ってきてくれるって事が書いてあるわ……ありがたいけれど、いつも申し訳ないな」
二人はいつも色々なところに行っているから、どこかに行った際はこうしてお土産を入れてくれる時がある。
私が返せるものといったらほとんどシルバーニュ領の物となる。けれど段々と渡すお土産が思いつかなくなってきたので、今は二人にあてて新作のウールドールを作っていた。
「喜んでもらえるといいな……チェリちゃんのフルーツ盛り合わせ」
前に見せてもらったチェリちゃんをモデルに、果物の籠に入った三毛にゃんのウールドールを制作中だ。
パーツが多いので時間がかかっているけれど、二人の誕生日に間に合えばと頑張っている。
(お誕生日のパーティーにも誘われたけれど、さすがに参加は出来ないからね)
他国の賓客も呼ばれるようなところに行くには、度胸も自信も足りなすぎる。
今回は丁重にお断りして、お祝いの手紙とプレゼントに全力を注ごう。
「まだ人前に出るのは怖いしね……」
部屋の外には出られるようになったけれど、屋敷の外はまだまだ足がすくんでしまう。
でも人と話す事自体はディフェクト様とイティルラ様のお陰で、だいぶ改善されていた。
二人の手紙に書いてある面白い話が多いため、お父様やお母様、侍女と話す事が増えたためである。
(本当にお話上手な二人)
文通は楽しく、いつしか私の手紙も二人と同じくらいの厚さにまで成長していた。
そうして二人との手紙のやり取りも、二年を越すようになっていった。
◇◇◇
「さぁエストレア、受け取ってきたよ」
「ありがとうございます!」
文通を初めて早二年、すっかり二人と打ち解けた私は、毎月の手紙を心待ちにしていた。
お父様が王都から帰って来る時、手紙を直接殿下達から受け取ってくる事も増えている。もはや家族ぐるみの付き合いだわ。
私のウールドールは殿下たちの宣伝のおかげもあり、巷では「ハッピードール」とも呼ばれて人気が出ているそうだ。
持っているものには良いことが訪れる、なんてジンクスも出来たらしくて、その影響もあってにどんどんと売れているみたい。
(ハッピードール、素敵な名前ね。その名の通り、皆を幸せにしてくれますように)
名前負けしないように、私はより一層気合を入れて作るようになった。
また再び部屋にこもるようになった私を心配して、お母様が駆けつけてくる。
「以前みたいに、頑張りすぎないでね」
「気を付けますわ、お母様」
少し前に期待に応えようと無茶をしてしまい、倒れてしまった事がある。
さすがに殿下達に怒られたので、それ以降は無理なノルマは組まないことにした。
「作り始めた四年前よりは早く完成するようになったけれど、それでも無理はよくないわね」
今は体調を考慮しつつ自分のペースで、無理ないように仕上げている。
殿下達へ送るウールドールも無理しないように言われたので、今はチェリちゃんへの洋服を縫って誕生月の時だけ贈る事にした。
去年はワンピースを作ったから、今年はドレスにしましょ。
ウールドール以外もその周辺の小物にも挑戦するようになった。
そう言えば、以前ディフェクト様とイティルラ様にプレゼントしたフルーツ盛り合わせwithチェリちゃんのウールドールは、月替わりで部屋に飾ってくれているらしい。
大切にしてくれているのを聞くと、やる気が出ちゃう。もっと作れるようになれるといいな。
「そう言えば今年の殿下達の誕生日も王都に呼ばれていたわね」
あれから引きこもりは少し落ち着いたけれど、それでも王都は怖い。
今年もお手紙とプレゼントを送ろうとは思っていたのだけれど……
「二人がこちらに会いに来るって?」
まさかの言葉に私は驚いた。
「殿下達の誕生日に行けないと伝えたら、次のエストレアの誕生日には会いに来るとの話が出たんだ」
「そうなのね」
二人に会うのは二年ぶりで、やや緊張する。
ずっと手紙でのやりとりはしていたけれど、会うのはまた気持ちが違う。
「去年もおととしも無理だったけれど、今年は早めにスケジュール調整をしたらいい」
今までは何だかんだと都合がつかず来れなかったけれど、今回は本気らしい。
(二人が私を見て笑わないとは、知ってるけれど、気後れはしちゃうわ)
以前会った殿下達は人形のような美しさであった。二年経った今ならさらに綺麗になっているだろう。
私と言えば……縦に伸びたけれど、横にも成長している。
お父様からのお菓子に加え、ディフェクト様とイティルラ様からもお土産と称して、美味しいものが贈られてくるからだ。
「このままじゃまずいわよね」
ぷよぷよした頬の肉を持ち上げて、私はため息をついた。
(約束の日まで、何とかお菓子を我慢しないと)
そう決意をしたのだけれど、当日に大量のお菓子が届いてしまい、決意全てがうたかたになったことは、ここに記しておこう。
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