中編 正二舌見
扉をスライドさせて、
鍵のかかる音が中からした。
「ハトハトちゃんの儀式の手順を確認してもいい」
「手順もなにも、わたしがカエデにこれまでの
「その恋愛遍歴を正直に語れるの?」
「だからこそカエデを選んだんじゃん。わたしの裏の顔を知っていても同じように友達をやってくれているという証明もあるし」
「悪そうな顔……次の彼氏くんにも見せてあげたらいいのに」
「カエデって見た目以上のドSだよねー。そそる」
どこかブラックな会話が終わると、音をさせないように移動をした彼姫サクラと及染カエデが向かい合わせになるように立つ。
「告白だし、ひざまずいたほうがよさそうか」
茶髪のセミロングの彼女が
「おっ……そうだ。神さまを信じている系の不思議ちゃんはまだやったことがなかったな」
「死にたいの?」
「あの世のイケメンに会えるのならよろこんで」
まぶたを閉じ、ひざまずいている彼姫サクラから顔をそらしつつ及染カエデが大きく息を吐く。
「今ので失敗すればよかったのに」
「わたしが死んだら気分が悪くなるのでは?」
「サクラは例外ってことよ」
「まじでドSじゃん!」
彼姫サクラが左のまぶただけを開けて及染カエデを見上げる動作をした。茶髪のセミロングの彼女が
「頭とか踏んでほしい気分になった」
「こっちはさっさとしてほしいんだけど」
「カエデが男の子だったらよかったのに」
ふたたび彼姫サクラはまぶたを閉じた。
ハトハトちゃんの儀式にのっとって、茶髪のセミロングの彼女はこれまでの恋愛遍歴を正直に伝えていく。
「小学生の頃はそんなことはなかったのですが……中学に入ってからわたしはゆがんでいきました」
「どうゆがんだの?」
儀式の
「他人の彼氏をほしがるようになりました」
「どうして他人の彼氏をほしがるようになったか、自分でわかりますか?」
「もともと他人のものをほしがるところがわたしにはあり……その気持ちの強さが年齢とともに増していったからだと思います」
ひややかな目で及染カエデが彼姫サクラを見下ろしている。
「そこまでわかっていて、自分でなおそうとは思わなかったのですか?」
及染カエデの質問をきき、まぶたを閉じたままの彼姫サクラが小首をかしげた。
「他人のものをほしがるのはそこまで悪いことではないかと。だれでも大なり小なりわたしと同じような気持ちを
「あなたが他人のものをほしがった結果として不幸な出来事があったことにかんしてはどう思っているんですか」
「運が悪かったとしか言いようがないのでは」
「死んでいたとしても?」
「人間はいつか死にます。それがはやいか、もしくはその方の寿命がそれまでだっただけでしょう」
彼姫サクラは少しも動揺した様子もなく……声もふるえていなかった。
それから、とどこおりなくハトハトちゃんの儀式はすすんでいき終了。
「カエデちゃんカエデちゃん。儀式とはいえさすがにドSすぎない? アドリブの質問あったよね」
立ち上がった彼姫サクラが不満そうに唇をとがらせる。
「人としての道徳を教えてあげようとしただけよ」
あっけらかんと及染カエデは茶髪のセミロングの彼女の追及をかわす。
「もう手遅れじゃないかな」
「そんなことを言う時点でなおそうってつもりすらないように思うけど」
「これも個性のひとつなんだから……なおすことはできないような」
「サクラは本当にそう思っているからタチが悪い」
「ごめんね」
舌をぺろりと見せ、彼姫サクラは両手でそれぞれ横ピースをしながら謝罪の言葉を口にした。
「わたしの
「即効性のまじないだったっけ?」
赤縁のメガネが落ちないように触りながら、及染カエデが首をかたむける。
「そうじゃないとやらないわよ。せっかちだもん」
「空き教室に入ってくる理由なんて、なかなかなさそうだし。廊下を歩いていたらばったり出会えるんじゃない」
「ロマンチックなやつがいいのにな」
「ハトハトちゃんに注文しておけばよかったのに」
なんて会話をしつつ及染カエデが空き教室の扉をスライドさせようとしてか右手を前にのばしながら歩く。
「ちなみにだけど、カエデはどんな恋愛だとロマンチックだと感じるの」
及染カエデの動きがとまる。
くるりと彼姫サクラのほうに黒のショートカットの彼女がふりむいた。
「なんで?」
「
「正直に……こたえないとダメなのよね?」
「ごめんね、タイミングが悪かったわね。空き教室を出てから質問すればよかったわね」
しらじらしく、にやついた表情をした彼姫サクラが手を合わせている。
「ルールの確認をしておくと、恋愛にかんする質問をされた人間は正直に……少しも動揺することなくこたえなければいけない」
「さっきのいじわるの
「興味本位だってば。カエデなら正直に少しも動揺することもなく
及染カエデの眉毛がかすかにぴくつく。
「カエデは彼氏がほしいわけじゃないんだから今のわたしの質問にこたえるだけで、ハトハトちゃんのペナルティはなくなるはずよ」
「そもそもハトハトちゃんの儀式自体に、
「信じてないのなら質問にこたえないままここから出たらいい気がするんだけど、それをわたしに言うということはカエデも」
「死ぬ可能性がまったくないとは」
「解決方法は簡単じゃん。カエデならできるよ」
彼姫サクラの純粋な応援であろう言葉に対してか及染カエデの目つきが鋭くなった。
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