異次元スピリッツ!
34フルフル
第1話 異能は日常、戦闘は非日常
古来よりある不可思議な
「ったく……異能持ちってだけで差別してきやがって……朝からめんどいのに絡まれた」
「こらぁ甘草!また喧嘩か!」
教室に戻ると、腕を組み待ち構えていた担任が、怒鳴る。
「違うよくみちゃん。喧嘩なんて呼べるほど争ってない。一方的にボコしただけ」
「……お前なぁ、ちょっとは加減してやれよ。異能使って無能力者に勝つのが楽しいか?加えて言えば、お前はもっと女らしくしろ!"俺"なんて言葉使うなんて、ほんと男みたいなやつだな。あとくみちゃん言うな」
くみちゃん―――
「しょうがないでしょ。俺は異能無しのただの肉体戦は強く無いんだから」
「そうだな。確かに甘草は異能が無ければ弱い。だがアタシが言いたいのはそこじゃないぞ。しょうがない、なんて言葉を使うのは弱いやつが使う言葉だ。つまり……アタシの言いたいことがわかるか?」
「……異能無しで喧嘩できるようになるなれってこと?」
少し考え、くみちゃんの問いに答える。すると、くみちゃんは笑って俺の頭をくしゃくしゃと撫でてくる。
「簡潔に言えばそうだ。お前も知ってるだろうが異能を使うには駆動と精動が必要だ。今のお前は、駆動8:精動2の状態なんだよ」
駆動と精動。異能を使うために必要なエネルギーの総称。体を動かすのに必要な身体的エネルギー、駆動。異能を使うという意思表示の現れである精神エネルギー、精動。異能を発現した者が通う講習所で最初に習うものだ。
「ただでさえお前の能力は人よりも制御が難しいんだ。考えなしに使っていてもただ体力を減らすだけだぞ?もっと効率よく、使え」
「……5:5にしろと?俺そういうの苦手なんですけど」
「あぁ、知っている。だから無理にとは言わない。できるだけ頑張れ。ほら、もう下校の時間だ。帰った帰った」
くみちゃんはニカッと笑うと、すぐに煩わしそうにシッシッと手を振る。
「異能を使わずに喧嘩しろ……か」
帰り道、俺はくみちゃんに言われたことを思い出していた。言わんとすることは、まぁわかる。俺の異能は使うだけで消耗が激しい。そのことをわかって言っているのだろう。あと、女らしいってなんだ、失礼な。確かに男勝りなとこはあるし、体型も男っぽいけどさ。って違う違う、そっちじゃない、今考えるのは異能の方だ。
「そんなこと言われてもなぁ。武術なんてやったことないし……どうすっかなぁ」
普段ならば絶対にこんなことは考えない。なのに今は考えてしまう。それは、このままではいけないと自分でも思っているからなのか、それとも恩人の言葉だからなのか、わからなかった。
「っ!なんだぁ!?」
道を歩いていると、大きな爆発が突然起こる。煙の中から、3人の男が小さな子どもを抱えながら出てくる。子どもを抱えている男の手にはナイフがあり、子どもの頬には切り傷があり、血が出ている。
「……異能犯罪者、か」
このご時世、異能を使った犯罪が多々ある。毎日ニュースで取り上げられるほどだ。異能を危険視する理由の大きな原因の一つでもある。
「ほらほらほら、どけどけ!このガキがどうなってもいいのか!?」
子どもを盾に、男たちが近くにあった車に近づく。が、当然鍵がかかっていてドアが開かない。子どもを持っている男がら近くにいる男に合図をすると、男はドアに手をかける。すると、カチッという音とともにドアが開く。おそらく、そういう異能なのだろう。
「……あ?おいガキ。てめぇ何こっち 見てんだよ」
男の一人と目が合う。
「なんだ、喧嘩売ってんのか」
「いえ、別に」
犯罪者相手に喧嘩を売るほど俺もバカではない。が、この受け答えが悪かった。男は別の男にアイコンタクトをすると、後ろにいた二人が俺に近づいてくる。
「はぁ……今日はこういうのばっかだな」
目つきが悪いせいで、また面倒ごとに絡まれた。俺の前に立つ男の一人が、手から火球を出し、もう一人は指を鳴らしている。俺は溜息を吐くと。
「……異能力―――月と十六夜」
特に変わった様子は無い。が、当然それは周りから見た場合だ。全身にエネルギーが駆け巡る。軽く跳ぶと、ふわりとゆっくり着地する。
「あんまし時間はかけらんねぇから……さっさと終わらせてもらうぞ」
脚に力を入れ、勢いよく駆け出す。一瞬で男の前に立つと、下から首を掴み、そのまま地面に叩きつける。相手が動かなくなるのも確認せずもう一人の男に近寄り、軽く跳び頭を蹴りとばす。
「……で、あんたはどうする?」
子どもを持つ男に聞くと、男は子どもをドアに放り込む。男は俺を見ると、軽く指を振り、挑発してくる。
軽く跳び、一気に男との距離を詰める。そのまま跳び膝蹴りをしようとしたが、背筋に悪寒が走り、すぐに距離を取る。
「ほぉ、随分と勘のいいガキだな」
そういうと、男は手にしているナイフを近くにあった電柱に向けて振る。刃は届いていないが、電柱が切れる。
「俺の異能はなぁ、ナイフを振った直線距離5メートルにあるものを両断する異能だ。遠距離でくる奴らには意味ねぇがお前みたいなガキにはよく効くぜ」
俺は軽く舌打ちした後、また距離を詰める。さっきよりも速く動き、男が俺を捉える前に仕留めにかかる。
「だからぁ!意味ねぇって!」
男はナイフを四方八方に振る。そのうちの幾つかが掠り、血が出る。
「無駄無駄ぁ。俺がお前を見える前に倒すつもりなんだろうがそれならそれで対策できんだよ!」
男は俺を煽るように笑う。また仕掛けようと脚に力を入れるが、上手く力が入らない。掠ったところが悪かったのだろう。
「くっ」
「それじゃあガキ、さよならだ」
男はゆっくりとした足取りで俺に近づいてくる。目の前まで来ると、ナイフを高く上げ、そのまま振り下ろす。
「わざわざ近づいてきてくれてありがとう」
振り下ろされたナイフは俺には当たらなかった。ゆっくりとだが、俺は一歩前に出ていた。そのまま男を押し倒し、ナイフを持っている方の腕を抑える。
「近接系の能力者に近づくとか、あんたバカか?」
男を落とそうともう片方の腕で首を絞める。が、傷のせいで力が入らない。男が抵抗し、投げ飛ばされる。
「っ!」
「あぁくそ!このガキ……許さねぇ!」
壁にぶつかったせいか、上手く呼吸できない。男が5メートル離れたところからナイフを振り上げる。すぐにもうひとつの能力を使おうとするが、全身に力が入らず、動けない。そして、ナイフが振り下ろされる。
「だから言っただろ?お前の能力は制御が難しいから効率よく使えって」
閉じていた目を開けると、そこにはくみちゃんがいた。
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