ケーキを切れない田中のアドベントカレンダー2025

山下達郎

12月2日

 親にも学校の先生にも、あまつさえロールプレイングゲームの「主人公の名前を入力してください」というお願いにまで反発していた15歳の冬休み。尾崎豊になりたかった。でもデフォルトの名前のまんまでゲームを始めるようになると、尾崎にも勇者にもなれなくなっていた。つまらなくなって、ごりっと何かが欠けて落ちる音が聞こえて、地面が震えて、空はどんよりと曇り、動物たちは盗んだバイクで走り出して森からいなくなった。おではひとりで立ちすくんでいた。欠けた部分、脇腹がやたらとむず痒かったのでぽりぽりと掻きむしってたら、どんどんと欠けていった。しばらくすると痒くなくなって、何も感じなくなった。おにんにんを触っているとき以外は何も感じなくなった。でもそれでよかった。就職して社員証というものを貰ったので、勇者の証はもう必要ではなかった。わざわざ仲間を集めて旅に出なくても、誰かが毎月決まった日に、おでの口座にお金を振り込んでくれるようになった。がんばろうが、がんばろうまいが、振り込まれる金額にたいした違いはなかったし、モンスターの代わりにひたすら自分を殺し続けるだけでよかった。ペンは剣よりも強くて、ペンよりも強い武器は愛想笑いだった。だいたいの場合はなんとかなったし、なんとかならない場合は謝った。「キョーチョーセー」という謎の呪文を唱えると、そこいらのNARUTOよりはうまいこと気配を消すことができた。仕事中に会社を抜け出してパチスロを打っててもばれなかったけど、さすがにそれはびっくりした。しかも5万負けって。ああ、山羊座大賞のために今年を振り返るはずが、振り返りすぎた。しかも会議中だろ。ひたすら無言で何やってんの。俯いているのに上の空って死んだらいい。と思ったら、目の前に中島美嘉さんがいた。あ、違った。ピカチョウだった。あんまりにも険しい目つきでにらんでるからそういうメイクに見えただけだった。よく見たら頭禿げ散らかしてるし全然似てねー。というわけで前置きが長くなりましたが、そろそろ山羊座大賞をはじめましょうか。合言葉は「SMクラブで一番安いコース選んだらセルフだった!」です。今決めました。

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