資料15:学会誌 『社会福祉学』████掲載論文 - 一般社団法人日本社会福祉学会
(村上晶子、20██、「福祉サービス利用における老障介護家庭の障壁」、p.72)より引用
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事例4. 統合失調症者の子、孫と認知症の親からなる多問題家族
家族構成
父親69歳:4年前より幻視、見当識障害が出現し、レビー小体型認知症の診断を受ける。特筆すべき既往は無い。
母親66歳:4年前より幻視、レム睡眠行動異常症が出現し、レビー小体型認知症の診断を受ける。高血圧症を持つ。
長女38歳:4年前より幻覚、妄想、認知機能障害が出現し、統合失調症の診断を受ける。特筆すべき既往は無い。
次男37歳:4年前より幻覚、妄想、認知機能障害が出現し、統合失調症の診断を受ける。特筆すべき既往は無い。大腸がんの既往があり、7年前に手術を受ける。
孫16歳:4年前より幻覚、妄想、認知機能が出現し、発達障害の診断を受ける。その後、セカンドオピニオンにより統合失調症との診断を受ける。
長男:5年前より宗教に傾倒し、家庭を離れる。音信不通であり、介護者としての機能を持たない。
概要
長男が家庭を離れたのと同時期に、同居する両親、子、孫の3世代が支援を要する状態となる。長男を除く全員が病院受診したため、診断は受けているものの、父親・母親共にレビー小体型認知症の発症時期としては比較的若年であったこと、さらに子および孫も統合失調症との診断が成されており、家族全員が複合的な支援ニーズを抱える家庭となっている。
ケア者の不在により、家族は生活上のさまざまな問題を抱えている。母親は高血圧症により降圧薬の服薬が必要であるものの、自身での服薬管理が困難であった。子、孫においても統合失調症コントロールのために服薬が必要であるものの、自己判断で服薬を中断している。父親に処方されている薬は無いものの、見当識障害により妻、子、孫の服薬管理は困難な状態である。
また家族全員が幻覚を伴う認知・精神症状を呈すため、家庭内での意思疎通や日常生活の自立は著しく制限されている。その結果、食事、入浴、金銭管理、服薬管理など、生活の基本的な自己管理がほぼ不可能な状況となっている。加えて幻視・幻覚による不穏状態が家族内で共有されることにより統合失調症の子、孫の妄想が強化されている。これに起因する問題としてしばしば近隣住民らとトラブルを起こし、警察が出動したこともある。
地域のソーシャルワーカーによるアウトリーチの試みが何度か行われているものの、家族全員の拒否が強く、ラポール形成には至っていない。継続的な訪問を続けているが、福祉を始めとする外部の介入を極端に忌避する傾向があり、福祉サービスの利用には繋がっていない。家庭内でキーパーソンとなり得る長男については音信不通となっており、家族の状況についても伝達できていない状態である。
本事例において、ソーシャルワーカーは家族全員の多重課題に対応するため、個別化をはかった介入アプローチを試みた。家族それぞれの語りを促す場を設定し、各自が抱える日常生活上の困難や心理的負担、幻覚・幻視体験を自由に表出できるよう支援した。
家族全員に「長男が燃やされていて、苦しんでいる」「〇〇という団体が、長男を苦しめている」という共通した幻覚、幻視、妄想、被害妄想のナラティブが聞かれた。この発言に対してソーシャルワーカーは、個別化を図りながら傾聴・共感し、ラポール形成を促した。
激しい拒否は続いているものの、継続的な訪問によって父親、長女、次男、孫それぞれとの幻覚や日常生活上の困難を語る場を設け、ソーシャルワーカーは傾聴と共感的理解を中心に介入を行っている。
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