第19話 制度崩壊の波動

黒箱が砕け散った瞬間、

 中枢世界そのものが“悲鳴”を上げた。


 光柱が赤く染まり、

 地面の光板が次々と亀裂を走らせる。


ドォォォォン――!!


(来たな……中枢世界の崩壊が……)


 黒フードが駆け寄ってくる。


「急げ! この世界はもう長くない!

 黒箱を壊した瞬間に“制御アルゴリズム”が全部飛んだ!」


「逃げ道は?」


「どこも開いていない!

 中枢世界が自分の境界を閉じている!」


(中枢世界が……俺たちを閉じ込めている?)


 理由はわかっていた。


(俺を“回収”しようとしている……黒箱が壊れた今、

 創設者の残りかすは俺の魂しか残っていないからか)


 胸奥が脈打つ。


 第二の名の封印が、ひどく痛い。


(触れようとしている……創設者の影が)



 その時、中枢世界の空間全体が“灰色”に染まった。


――■■■■――


(……まただ……あの“名もなき声”……)


 黒フードが叫ぶ。


「外層から侵食が来るぞ!!

 この世界、丸ごと引きずり込む気だ!!」


(外層が……中枢世界を丸ごと飲む!?)


 灰色の霧が空間の裂け目から滲み出し、

 光柱を「溶かす」ように侵食していく。


 世界の形が崩れ始める。

 地面がぐらつき、空間そのものが上下に引き千切られる。


(……これはやばい)


 外層は虚無。

 あらゆる概念が存在できない“無の海”。


(飲み込まれたら……魂ごと消える)


 黒フードが光の結界を張りながら叫ぶ。


「お前を守るためじゃない!!

 “この世界が持たないから”守ってるんだ!!

 外層値はここじゃ毒だ!!」


「わかってる……でも逃げ道がない」


「ある!!」


 黒フードが指差した先、

 黒箱の残骸の中心で 灰色の光 が渦巻いていた。


「黒箱の“裏口”だ!!

 創設者が最後に残した回路が、崩壊の反動で開いたんだ!」


(黒箱の……裏口……

 つまり創設者の記憶層へつながる道……)


 その瞬間。


 灰色の光が“手”の形を持ち、

 俺の魂に触れようと伸びてきた。


(……創設者の影……!)


――もどれ……鍵よ……

 われらの……座へ……


(ふざけるな!!

 俺はお前じゃない!!)


 破壊者の値が暴れる。


 黒フードが必死に結界を支えながら叫んだ。


「触れるな!!

 そいつは“創設者の魂核の残骸”だ!!

 触れた瞬間、お前は“創設者そのもの”になる!!」


(それじゃ意味がない!!

 俺の復讐も、俺の存在も、全部意味がなくなる!!)


 外層の影も、創設者の残響も、

 どちらも俺を“別の誰か”にしようとしている。


(なら――俺が選ぶしかない)



 その時、空間中に 無数の声 が響いた。


 中枢世界の光塔から、

 割れた鏡のように“世界の映像”が現れる。


 炎に沈む世界。

 魔王に支配された世界。

 魂が蒸発する世界。

 人口が崩壊していく世界。


 そして――

 誰かの叫び。


……聞こえるか……異界の魂……

 助けて……制度が崩れた……

 召喚が逆流して……魂が……魂が砕け……!!!


……お願い……助けて……

 もう……誰でもいい……!


……破壊者よ……

 お前を……待つ世界が……ある……


(……世界群からの“救難信号”……)


 黒箱破壊の瞬間、

 召喚制度全体が崩壊し始めた。


(俺が壊した……だから責任は……俺にあるのか?)


 胸奥が震える。


 創設者の影が再び囁く。


――帰れ……

 われの中へ……

 すべて解決できる……


(そんなの……俺の選択じゃない)


 外層の影が誘う。


――■■■■……

 魂を……戻せ……


(それも違う)


 黒フードが絶叫する。


「選べ!!

 創設者の道か!!

 外層へ堕ちるか!!

 あるいは――“お前自身の道”か!!」


(俺自身の……道……)


 俺は拳を握った。


(決めた)


 銀髪が揺れ、赤い瞳が燃える。


俺は、創設者にも外層の影にも戻らない。

 召喚制度を壊し――

 世界群を作り直す“第三の存在”になる。


「――俺は、“超越者”になる!!」


 破壊者の値が燃え上がる。

 封印が軋む。


 黒フードが目を見開いた。


「……やっぱり、お前は……!」


「行くぞ!」


 俺は黒箱の裏口へ飛び込んだ。


 灰色の光が弾け――

 外層の影が叫び――

 創設者の残響が手を伸ばし――


 すべてが混ざりながら、

 俺は闇の中へ落ちていった。


超越の道が、今、始まる。

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