拉致召喚ループ × 錬金術師 × 復讐
@ARkn3Jnnb1TVm9
第1話 白光の牢獄で目覚める
申し訳ございません。
全部、やり直しします。
目が覚めた時、世界は白かった。
何もない。
天井も、地面も、壁も存在しない。
ただ、乳白色の光が無限に延びる空間に、俺は裸足で立っていた。
(……ここは……どこだ?)
足裏に触れるはずの床が、まるで雲のようで実感が薄い。
だというのに、身体の重さや呼吸だけは妙にリアルだ。
心臓がどきり、と跳ねた。
(夢……じゃないな。これは現実だ)
こんな場所、現実にあるはずがないのに。
だが、長年の人生経験で、夢と現実の境はもう嗅ぎ分けられる。
還暦を迎えたばかりの、疲れ切った身体――の、はずだった。
(……身体が……軽い?)
自分の手を見て、息をのむ。
皺がない。
節くれだった関節も、老人特有の痺れもない。
皮膚は滑らかで、十五の頃のような張りがある。
そして――
「……銀、髪……?」
肩までの髪が揺れる。
色素が抜け落ちたような銀色。だが、光が反射してやけに艶がある。
(俺の髪は黒のはずだ……)
目の色も変わっていた。
光の中に映るわずかな影が、はっきり“赤”だと伝えてくる。
(まさか……)
その瞬間、
空間に亀裂が走った。
白い光が割れ、そこから“人影”が落ちてくる。
四人の若者。
制服のようなものを着ていて、年齢は十五から十八ほどだろう。
全員が美形で、光の中でもくっきり映えるほど存在感がある。
(……勇者、賢者、剣聖……そういうやつらか)
俺は昔のファンタジーを思い出した。
地球に生きていた長い年月が、瞬時にそういう答えを導く。
だが彼らは俺を見ると、一様に困惑した表情になった。
「え……あの、おじさ……いえ、その……」
「なんで、銀髪の……え、その……人、ですか……?」
(おじさんと言われるのは、まあ分かる。だが)
その時、空間の上段――視界のどこにも属さない“高さ”に、影が生まれた。
影は人型ではない。
人の形を模しているだけの、歪なもの。
そして――声が降りてきた。
◇
『よく来たな、召喚者たちよ。今日からお前たちは“勇者”だ』
◇
神聖さも慈悲もない、
ただ“命令”だけの声音。
若者四人は戸惑いながらも従うように頷いた。
だが――俺には、その声はまるで違う意味で響いた。
(勇者……? 俺が……?)
影の視線が俺を射抜いた。
◇
『貴様は……錬金術師だな』
◇
(錬金術師? 俺が?)
だがその瞬間、膨大な知識が脳へ流れ込んできた。
長い人生でも経験しなかった種類の“情報注入”。
錬金術の基礎。素材。魔力の流れ。変換式。
全部が一瞬で理解できた。
(……これが“召喚特典”ってやつか)
影は四人の若者へ向けて、冷徹に言う。
◇
『勇者・聖女・賢者・剣聖。
お前たちは大陸を救うために戦え。拒否は認めぬ』
◇
若者たちは驚きながらも従おうとした。
だが次の言葉が、すべてを凍らせた。
◇
『契約の代償として“魂の拘束”を刻む』
◇
四人の身体が硬直する。
(……これは……)
俺の背筋が凍りついた。
彼らの魂に、黒い鎖が巻きついていく。
拒否権は存在しない。
逃げ道もない。
そして――影は俺を見下ろした。
◇
『錬金術師よ。お前はいらぬ。
“余剰魂”として処理する』
◇
(処理……?)
影が指を鳴らす。
「――ッ!」
俺の身体が光に包まれた。
他の四人とは違う、完全な“破棄”のための光。
(殺される……!)
影が冷たく告げる。
◇
『ダンジョン最深層へ送る。
せいぜい足掻くといい』
◇
重力が反転した。
足元が崩れ、縦でも横でもない“落下”が始まる。
光も音も消えていく。
俺は初めて口から声が漏れた。
「ふざけるな……!」
還暦を迎えたばかりだった人生。
身体は若返ったが、魂はそんなに軽くない。
(生きてやる……!)
光に呑まれる直前、
俺は目を見開いた。
(この世界……絶対に許さねぇ)
白い空間は完全に闇へ沈んだ。
そして――
ダンジョン最深層の地獄が、俺を呑み込んだ。
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