第17話 いいヤツ


(交番って確かあっちにあったよな・・・)


俺はデジデジに追いつくために小走りで交番への道のりを進んでいく。


前方に人影が見えた。さっきまで見ていた黒髪と、水色のニットベストを着た高校の制服姿だ。


(あっ、いた!)


「おーいデジデジぃ!!」


小走りで追いかけると、デジデジが足を止めて振り返った。


「燈真君?」


「よかった!追いついた」


「どうしたの?」


「いや、やっぱりお前ひとりだと心配だからよ!追いかけてきたんだ」


「そっか・・・。ありがとう。でもしゃもしゃもは大丈夫そうだったのかな?」


「あいつかぁ?あー全然大丈夫そうだったぞ!さっきお前が出ていってからのちょっとの間に何回も悪口言われたぞ!!あいつ口が悪いんだ!!!」


「あはは・・・!確かにちょっと口が悪めかもしれないね。笑」


「だよな・・・!」


夜の帳が下りた街を二人で歩く。


よく考えたら、今日会ったばかりの男と二人きりだ。


「俺、お前とこうやって二人で話すの初めてだよな...?なんかドキドキしちまう...//」


「あははは。初めての人と話すのは緊張するよね~」


「お前はあんまり緊張してるように見えねぇけどな??」


「僕だって緊張するよ!でも、学校の雑務とかでよく他学年のしらない人と話す機会とかも多かったから少し慣れてるのかも」


デジデジは夜空を見上げながら言った。


「へー!お前なんか場慣れしてそうだもんな!なんでも卒なくこなしそうだ!!」


「そんなことはないけど、全体を見て自分がどう動いた方がいいかを考えてから行動するようにはしてるかなぁ?」


「なんかすげぇな!できる男って感じだ!俺、あんまそういうの考えられないからよ、たまに弟に怒られるんだ」


「そうなんだ?僕は燈真君の勢いで生きてる感じ、すごい好きだけどなぁ」


「ほっホントか!?すっ好きか・・・??」


「うん、好きだよー!」


「そっそうか....ならいいか...!ぐへへ!」


俺は鼻の下をこすった。チョロい自覚はある。


すると、デジデジがふと真面目な表情を見せる。


「・・・」


少しの沈黙。


「・・・アイツがあんなに苦しんでるなんて思わなかった」

俺は今考えていることをそのまま話す。


「・・・そう...だね」


「アイツとは今日初めて会ったばかりだったけど、割といっぱい話したからさ。なんとなくだけどアイツがどんなやつなのかわかったような気になってたんだ」


「でも俺、全然わかってなかった」


俺は拳を握りしめる。


あんな壮絶な過去を聞いた後だと、今まで自分が彼にかけていた言葉が、ひどく薄っぺらいものに思えてくる。


「燈真君・・・」


「さっきアイツから話聞くまでは全然そんな悲しいことがあったなんて思わなかったから、正直どんな風に接してやればいいのかわかんなくて、気の利いたことなんも言ってやれなかった。 これからアイツと話すときも、どんな風に気遣ってやればいいか全然わかんねぇんだ・・・」


「・・・たぶんだけど、しゃもしゃもはあんまり気を遣って欲しくないんじゃないかな?」


「え?」


「さっき、しゃもしゃもが自分の話してくれたときにさ、"僕たちに迷惑かけてるし、何も話さないまま手伝ってもらうのも不誠実なんじゃないか"って言ってたでしょ?」


「・・・あぁ、確かにそんなようなこと言ってたな」


「そう。だから自分から積極的に語りたい話ではなかったと思うんだよね。たぶん僕たちが気になっているだろうから話してくれただけでさ。本当は気を遣われたり同情されたりするのが嫌なんだと思う」


デジデジは街明かりのまぶしさからか、少し目を細めて言った。その顔は、まるで何か嫌なことを思い出しているようにも見えた。


「普段のしゃもしゃもの言動が高圧的だったりけんか腰だったりするのは、もしかしたらそういう"気を遣われる"とか"同情される"とか、自分がかわいそうに見えてしまう部分を隠すためなんじゃないかなって...」


「確かに・・・そうなのかもしれないな」


「たぶんそれが彼なりの処世術なんじゃないかな?悲しい過去を経験して、それでも毎日生きていかなくちゃいけなくて...」


「生き抜くために彼が頑張って今のしゃもしゃもを演じているのだとしたら、僕たちはその思いをくみ取ってあげるのがいいのかなって・・・」


「デジデジ・・・」


「まぁ全部僕の想像の話に過ぎないけど...。本当のことは長い時間の付き合いを重ねて、たくさん話して少しずつわかりあっていくしかないよね」


「・・・そうだな」


俺の方が長くししゃも。といたはずなのに、デジデジの方がししゃも。のことをよくわかっているようだった。俺はただ同意することしかできなくて短い言葉で返した。


「それに、燈真君と言い合ってるときのしゃもしゃも、すごく楽しそうに見えたよ」


「え!?アイツがか!?」


思いがけないセリフに俺の心臓がピクリと跳ねる。


「うん。なんか相性ピッタリって感じで。てっきり二人はずっと昔から友だちなのかなって思ってたから、今日あったばかりって聞いてびっくりしたよ」


「えぇ!?そっそうか!?俺たちそんな仲良さそうに見えた!??」


「うん、見えたよ」


「そっ、そうか・・・。まぁ悪い気はしねぇかな・・・///」

俺はむず痒くなって頭をぽりぽりと掻いた。


「だから燈真君はたぶん今まで通りにしゃもしゃもと接してあげればそれが一番だと思うよ」


「そっ、そうだな!!そうする!!!」

「ありがとな!デジデジ!!なんかすげぇスッキリしたぞ!!!お前、いいやつだなぁ!!!!」


「僕は別に何もしてないけど、何かの役に立てたならよかったよ」


「お前、結構あれだな!話聞くのが上手いんだな!!細かいこともよく覚えててすげぇな!!」


「そうかな?でもまぁ、人とおしゃべりするのは大好きだからね。自分と違う価値観を学べたり、自分の知らない話を聞けたりするのも面白いし」


「そうなんだな!じゃあよぉ・・・俺ともいっぱいおしゃべりしてくれるか??」


俺は恐る恐る自分の気持ちを伝える。デジデジともっと仲良くなりたい!


「もちろんだよ!」


「そうか!!お前、やっぱりいいやつだなぁ~!!」


「・・・・・・」

デジデジはなにか言葉を飲み込んだように静かに目を細めて笑っていた。

俺はデジデジからいい返事をもらえたことに舞い上がって、その表情の少しの変化に気が付いていなかった。



(ししゃも。も、早くデジデジがいいやつだって信じてくれればいいんだけどな・・・)


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【BL男子の日常】出会った男たちが嘘つきすぎて、洗脳事件とヤクザ抗争に巻き込まれて恋愛どころじゃない件 須戸コウ @sudokou

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