【BL男子の日常】出会った男たちが嘘つきすぎて、洗脳事件とヤクザ抗争に巻き込まれて恋愛どころじゃない件

須戸コウ

第1話 このハゲーーー!!!

死んだはずの両親が当たり前のようにそこにいた。


イケメンの恋人。フレンドリーに接してくれるクラスメイトたち。友だちが抱えていたはずの悩みも、すべて解決されていた。

すべてが完璧で、幸せに思える世界。


けれど、唯一『須戸コウ』だけが消息を絶っていた。

ずっとひとりぼっちだった俺に、友だちを作るきっかけをくれた大事なやつなんだ!


こんな完璧すぎる世界で、どうしてコウだけがいない?


ほかのやつに聞いても、コウのことは知らないという。どうやら存在ごと忘れられているようだった。

俺は必死になって探したが、手掛かりが得られないまま時間だけが過ぎていく。


そんなある日、俺はコウの夢を見た。

夢の中の彼は、俺にこう告げたのだ。


『僕のことは忘れて、いまの世界で幸せになって』


そんなこと言われたって、俺は大切な友だちを見捨てたくない。絶対に俺が探し出してやる!

でももし、すべてが元通りの世界になったら死んだはずの俺の両親は・・・。


自分の身の振り方に葛藤する日々。

俺は気晴らしのために、あてもなく街を歩いていた。


ちょっとした気分転換のはずだったのに、まさかあんな事件に巻き込まれるなんて...。


これは、嵐のような出会いをきっかけに始まる事件、そして恋と友情の物語。


***


(今日はあんまり行かねぇ方に行ってみるか……)


商業施設や大きなゲームセンターを尻目に、栄えている駅周辺から離れるように歩を進める。


喧噪が遠のき、人通りがまばらになっていく。


(ちょっと駅から離れただけで、この辺なんもなくなるんだな……)


ぼんやりと考えていた、その時だった。


「……いてーー……!」


「ん? なんだ??」


「……どいてーーーーーーーーっ!!」


背後から、少年なのかおっさんなのか判別がつかない叫び声が、猛スピードで近づいてくるのがわかった。


(なんかめっちゃ走ってきてる……!?)


振り返ると、その叫び声の主は俺より幾分か若く見える少年のようだった。

彼は必死の形相で、一直線に俺に向かってきている。


「どけっつってんだろうっ!! このハゲーーーーーーーーーっ!!!!」

「はぁ!?」


突然の暴言。俺は不服な表情を隠さず、ただ少年とぶつからないように道の隅に体を寄せる。


だが、少年はなぜか俺の動きに合わせて方向転換し、そのまま突っ込んでくる。


「急に避けるなーーーーっ!!!!」


ドガッ!


鈍い音が響き、二人の体が交錯した。俺は軽くよろけた程度で済んだが、少年の方は大きく吹き飛ばされ、地面に無様に転がった。


「痛ーーーーいっ!!! もう最悪!!! なんでいつもししゃも。ばっかり・・・・っ!」

「お、おい、大丈夫か??」


派手な転び方だったため、俺は慌てて声をかけた。だが少年は涙目で食って掛かってきた。


「大丈夫なワケねぇだろうがぁ!!!! ししゃも。が避けようとしたのにぽ前が急に動くからぁ!!!」


「んがぁ!?」

一人称 ”ししゃも。” !?

人を ”ぽ前” 呼び!?随分キャラが濃いやつだな...。


「お前どう考えても俺が避けた後に方向変えやがったじゃねぇか!」


「だからししゃも。が避けようとしたのにぽ前が動いたんだろうが!!! だいたい道の真ん……」


「いたぞ! こっちだ!!」


少年の喚き声を遮るように、野太い怒声が響いた。


見ると、黒服を着た男たちが5、6人、血相を変えて走ってくる。

男たちの顔は怒り心頭っといった具合で、キリっとしたスーツには似つかない形相をしている。


「待てクソガキっ!!」

「ぶっ殺してやるっ!」


「あああああああああああっ!!!! ぽ前のせいでぇ!!!!!!!!!!!!!!」

少年は悲鳴を上げると、一目散に走り出した。その後ろを黒服の男たちが怒涛の勢いで追いかけていく。


嵐のような集団はすぐに路地を回り込み、あっという間に見えなくなった。


「……なんだったんだ……??」


取り残された俺は、呆然とその場に立ち尽くしていた。

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