愛染ヒドロ

 俺は雨が好きだ。

 雨は、こびりついた泥も、全部全部洗い流して、消してくれる。




 雨が降るなか、外に立つ。

 雨に打たれる。


 そのまま、この身体を、打ち抜いてくれればいいのに。


 雨が、身体をつたう。


 それは非常に不愉快で。

 でも、なぜか少し心地よくて。


 雨に濡れた服はぐっしょりと重く、まるで、僕の罪の罰のよう。


 雨は、綺麗なものなんかじゃない。




 動かず、雨に濡れたまま立っている。


 このままずうっと立っていたら、広がる光景と一緒に、身体も心も、消し去ってしまうのではないかと思う。


 それは、いいことかもしれない。


 泥に塗れたこの命を、全て洗い流してほしい。


 間違いを犯した俺を。

 間違いを冒した僕を。


 消し去ってほしい。


 もういらないよ。


 楽になりたい。




 そう嘆いたって、誰にも届かなくて。

 僕は変わらずここにあって。


 なんで、こんなことをするんだ。




 もう、手遅れだ。

 全て洗い流された。


 証拠も、何も、残っていないから。


 雨が、全て洗い流したから。


 あぁ、もう、なかったことにしないでくれ。

 消さないでくれ。


 もう嫌だ。


 助けて。


 雨なんて、大っ嫌いだ。




 ……でも。


「は、ははっ」


 全て消えたんだ。


 身体に纏わりつく雨は、僕に寄り添い、守ってくれるようにも感じる。


 なんで、雨はこうも、僕を守るんだ。


 なんでこうも、チャンスなんか訪れるんだ。


 嫌なのに。

 でも、そうするしかないから。




 もうここは。

 大切にしてきたものも。


 全て消えた。




 そう、何もなかったんだ。


 だって、何も残っていないんだから。




「ふふっ」


 なんか、簡単だなぁ……。

 最初から、こうすれば良かったんだ。


 雨は、綺麗なものなんかじゃない。


 だけど。だから。


「あはははっ」


 やっぱり。


 僕は雨が好きだ。

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愛染ヒドロ @hidoro

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