第2話 緊張と席順

 「ゆーくん!」

 「んー?どーだった?」

 「なんとね…。また、一緒だったよ〜!」

 「…ま、そうだろうな。」

 俺たちは今、高校2年の新しいクラス分け発表の結果を確認していた。俺は人混みが苦手であるため、毎回こうしてハルに先に見に行ってもらうのだ。そして、毎回ものすごい笑顔で帰ってくる。良くも悪くも、ハルの表情を見れば、聞かずとも結果がわかるというわけだ。

 「えー。ゆーくんちょっとは喜んでよ〜泣」

 「はいはい。嬉しいですよー」

 「うぅ〜…。心がこもってない!もう少し心込めて!」

 「うるせー。さっさといくぞ。」

 俺は、さっさと人混みの中から抜け出したくて、わざとらしく泣き真似をしているハルをおいて、歩き出した。

 「あっ!待ってよ〜!」

 「はぁ…。なら早く来い」

 「…そんで?俺らは結局、何組だったんだ?」

 「えっとね〜、確か2年D組だったと思う!」

 「お前なぁ。確かって、ちゃんと確認したんじゃないのか?」

 「え〜っと…。確認はちゃんとした!だけど、ゆーくんと同じってわかって、嬉しくて…」

 「そんで、記憶が曖昧と。」

 「う、うん。ごめん…」

 「…はぁ。ま、どうせ行けばわかるし。違ったなら教師に聞けばいい話だからな。とりあえず、行こうぜ」

 「…。ゆ〜くん!泣 そういうとこ大好きだぞー!泣」

 「ちょっ、おま!そういうことを人前で、しかも大声で言うなって!変な勘違いされて困るのはお前だぞ!」

 「え〜?別に大丈夫だよ!俺らがめちゃくちゃ仲良しなのは、みんなもう周知の事実なんだし!」

 「お前なぁ…」

 ハルの恐ろしいとこの一つがこれだ。こいつは周りに人がいようと、他のやつと話していようと関係なく、俺に対して好きだと叫んだり、抱きついてきたりを平気で行う。

 【こいつのせいで俺の精神的疲労度が増すんだよな…】

 ズキズキと痛む頭を抑え、ハルの後ろをついていくと、教室に到着した。

 「とうちゃーく!」

 「まあ、Dが正解でよかったよ。歩き回る手間が省ける。」

 「うん!よかった〜!」

 俺たちはそんな会話をしながら、黒板に張り出されている座席表を確認した。

 「げっ…。またお前と前後かよ」

 「そんなあからさまな反応しないでよー!傷ついちゃう!」

 「うるせー」

 俺とハルは名字が長谷川と日髙なため、背言っ石番号順の席順だと、大体前後の席になる。俺たちが最後に前後の席じゃなかった時は、小学校6年の時で、その時は間に氷川という名前の奴がいた。

 「また前後で嬉しいなあ〜」

 「はぁ…。どーせお前は授業で当てられた時に、俺に答え聞くのが目的だろ」

 「そ、そんなことない!全然そんなつもりじゃないって!」

 「じゃあなんだ?授業中居眠りしてて、話聞き逃した時の確認役か?」

 「もうっ!ゆーくんは俺をどんな奴だと思ってんの!!」

 「そうか?おかしいな。お前の近くの席だと、俺は毎回そんなことをさせられている気がするが…?」

 「な!?で、でも、それが目的じゃないよ!?俺は"ゆーくん"が俺の前の席でいてくれるから、嬉しいの!ほんとだからね!?」

 「はいはい。わかってるよ。ほら、席いくぞ」

 後ろから「ほんとだからね!?」と何度も何度も発言を強調してくるうるさいハルを連れて、俺たちは自分の席についた。後ろがずっと幼馴染であっても、やはり周りの席は見慣れないやつばかりで、緊張するものだ。

 【俺は一応教師だったが、席替えの重要さをやっと最近気づいたな…。周りの席の奴らに、ここまで学校生活を左右されるとは全く考えていなかった…。】

 前世で席替えをあまり積極的にしてやれなかったことを後悔しつつ、俺は隣の席のやつが来るのを待った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

キーンコーンカーンコーン♪キーンコーンカーンコーン♪

 始業のチャイムが響く。隣の席は未だ空席で、俺はその状況に動揺を隠せなかった。教師をやっていた身だ、新学年の初日に遅刻してくるやつは"やばい"と俺の勘が警鐘を鳴らした。

 「ゆーくんゆーくん」

 後ろからハルが肩を叩きながら、話しかけてきた。

 「ん?なんだ?」

 「あのさ、ゆーくんの隣の人、きてないよね?」

 「あー…そうだな。というか、担任もまだ来てないけどな。」

 「それはそうだけどさ…、隣の人、もしかして、ヤンキーだったりして…?」

 「…まあ、そうかもしれないな。」

 「えぇっ!?だ、だとしても、俺がゆーくん守るからね!」

 「はいはい。ありがとなー」

 ハルとの本当に中身のない話に飽きて、俺が手元の参考書を開き始めたころ、ドアが勢いよく開く音がした。

 「ご、ごめんなさ〜い!遅れちゃいました〜!」

 大声を上げて入ってきたのは、担任の教師ではなく、生徒だった。その生徒は、明らかにサイズの合ってないカーディガンをシャツの上に羽織っていて、どちらかというと女子に寄っているような雰囲気を醸し出していた。

 【あれが俗に言う”かわいい”男子高校生ってやつか…。確かに、かわいい顔をしている。というか、童顔だな。】

 俺はそいつがきっとまだ来ていないクラスメイトだと思い、そいつがどこに座るのか確認した。そして、クラス全体を見渡して気がついた。そう、オレの隣の席以外、空席は1つもなかった。

 【ふざけるなよ!なんで隣なんだよ!俺は前世の時からそうだったけど、全く面識がない人間と関わるのがとてつもなく苦手なんだ!周りは知らない顔ばかりだけど、こいつほど雰囲気がよくわからないやつは一人としていなかった!のに、なんでよりによってこいつが隣なんだ…!】

 その最悪な事実に気がつくと同時に、その生徒は俺の隣の席へと着席した。そいつは周りを不安そうにキョロキョロと見渡すと、俺の方をじっと見てきた。と同時に、タイミングよく担任の教師が入ってきた。

 【た、たすかった…。話しかけられたら、なんて答えればわからないし、それが原因で相手に気を悪くされても困る。とりあえず、今回は教師に感謝だな。】

 俺は、その場を乗り切った安心感と、緊張が一気に解けたことで体が一気に脱力してしまい、いつも通りの冷静を取り戻そうと窓の向こうの景色を眺めた。

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