もう泣かない

遠山ラムネ

もう泣かない

新宿発の深夜バスに乗るのは、もうこれが人生最後になるのかもしれない。


遠恋なんて余裕、なんて、たかを括っていたわけではなくて、でも、なんとかなるのではないかと、どこかで思っていた。

なんともならないと気付いたのはわりとすぐで、でもそこから今日まで、結構な時間をかけてしまった。


時間のロス、お金のロス、タイミングのロス……?


遠恋がかくも難しいというのは、真っ当な先人の知恵だ。


でもだからって、じゃあ卒業するから別れよう、なんて、割り切れるわけがないじゃん。

遠恋にならないために志望校を変えてくれとも言えなかったし、私の頭と家庭状況が、急に良くなるわけもなかった。



なるべくしてなった、終わるべくして終わった、と、言ってしまえばそれまでだ。

努力が足りなかった、気遣いができてなかった、と、理由をつけることも簡単。そうだけど。


そうだけどさー……だけど好きだったもん

ちゃんと、好かれてたって実感もあるもん


変わらず好きなままでも恋が終わっていく実感は鮮やかで、いろんな力が足りない私たちは、立て直すことも、これ以上引き伸ばすこともできなかった。

変わらず好きなまま終わった恋を、どう仕舞い込めばいいのか、今はまだ全然、分からないけれど。


定刻が来て、ブザーがなる。

扉が閉まり、バスは滑らかに走り出す。


新宿発の夜行バスに乗ったのは結局何回だっけ、なんて、数えようとして、やめた。


カーテンの隙間から外を見る。


明るい、なぁ。


10時も過ぎるのいうのに、東京の夜はこんなに明るい。

夕方までたくさん泣いたから、私はもう泣かない。



Fin

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もう泣かない 遠山ラムネ @ramune_toyama

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