学園の美少女たちは、僕の幼馴染でした。

米太郎

第1話 国民的アイドルが幼馴染でした。

「幼馴染と付き合わないっていう選択肢。それ、君にあるって思う?」


 学園一の美少女、卯月うづき小春こはるが僕に対して問いかけてくる。

 少し威圧的な態度があるのは、彼女の仕事柄だろう。高校二年生にして、国民的アイドルグループの一人なのだ。

 大人社会に交じって意見を言うには、このくらい芯がないといけないのだろう。芸能界を生き抜くっていうのは、それほど大変なことなのだと思う。


 凛とした顔立ちで、僕のことを問い詰めるようにじりじり詰め寄ってくると、屋上のフェンスへと僕のことを追い詰めてくる。



「……で。どうなの? 秋仁あきひと?」

「い、いきなり、下の名前で呼ぶんですか……?」


「幼馴染だから、当たり前じゃない?」

「え、っと……。つまり、話をまとめると……。僕と卯月さんは、ってことだよね……?」



 一人、屋上でお弁当を満喫していたところへ、いきなり卯月心春がやってきたのだ。

 と思ったら、僕のことを幼馴染だと言いだしたという状況。つい最近、この高校に転校してきたばかりだから、卯月心春のことはよくわかっていないけど。僕に、こんな幼馴染がいたなんて記憶はないんだけどな……?


 国民的アイドルが、僕の幼馴染……?



「そうそう。秋仁が転校してきたのを見た時に、すぐ気付いたんだよ。昔と変わってなくてドキドキしちゃったよ……」


 心春は恥ずかしそうに、顔を赤らめる。肩まで伸びるサラサラな髪を左右に揺らして落ち着きがなく動いている。本当に恥ずかしがっているように見える。そんな顔を見せられるなんて、僕の心臓もキューっと、締め付けられる気分だった。


 卯月心春との握手会に行くために大金を払うファンがいるっていうのも納得の可愛さだ。スタイルにだって恵まれている。スリムな体系に、出るところは出ており、しなやかに動く足さばきからは華々しいオーラを放っている。短く履いたスカートがヒラヒラとアイドル感を醸し出している。

 それに加えて、この容姿だ。誰しもが羨むような美少女であることに間違いはない。


 こんな美少女が近くにいるってだけでもおかしくなりそうなのに、告白なんてされた日には、もうどうしようもないだろう。それはもう、万歳と喜んで、手放しで受け入れるのが普通かもしれない。


 けど、引っかかるのは、っていうところだ。



 よくある幼馴染論争。

 恋人として選ぶのは、幼馴染か、そうではない人か。


 僕も、当然幼馴染を選ぶのが良いと思う派だ。

 幼馴染っていうのは、小さいころから一緒にいるっていう間柄だからこそ、芽生える感情があるし、結ばれるのが当然だって思う心理が働くと思う。そんな幼馴染関係の二人がいたとしたら、その二人が付き合うことを大いに応援することだろう。



 それは、あくまで小さいころから、という前提がある時に成り立つものだと思う。

 長い間、仲を深め合ったからこそ、幼馴染以外の人と結ばれるのは違うって思う。


 けれども、たとえば小さい頃に一緒に過ごした幼馴染だったとしても、途中で離ればなれになったのであれば、幼馴染ではなくて、という関係だろう。幼馴染として結ばれることが約束された間柄ではなくなってしまっていると思うのだ。


 だから、僕と心春は幼馴染じゃないのに、それを利用して付き合ってるっていうのは、幼馴染違反だと思う。



「私だって、勇気出して告白してるんだよ……?」


 目の前の国民的アイドルは、少し涙目になりながら上身遣いに僕のことを見てくる。身長は、僕よりもやや低め。抱き合ったら、ちょうどよく頭を抱きかかえるくらいの位置。僕の良心が少し早い夏季休暇に入っていたとしたら、躊躇なく抱きしめていただろう。



「えぇーっと……。けど、今一度考えて欲しくってね……? 僕たちって、本当に幼馴染なのかなって……」

「だって、約束したじゃん! 大きくなったらお嫁さんにしてくれるって!」


「…………!?」


 絶対に破ってはいけない、鉄の掟よりも固い約束。

 それを破ってしまうのは、人にあらず。禁固刑二十年どころじゃ済まないだろう。


 そのくらい厳守すべき約束だと思う。

 けど、そんな約束を僕がしてしまっていたとは……。


「もちろん覚えてるよね?」

「え、う、うん…………」


 本当は覚えてないけど、「うん」と答えるしかない状況だ。

 苦し紛れにした僕の返事を聞いて、心春はパッと顔を明るくした。国民的アイドルのオーラが一気に開放される。


 幼馴染かそうではないか。

 こだわっている僕が悪いのか。


 けど、誰か別の人と勘違いしてしまっているなら、それは訂正してあげないと、本当の幼馴染が可哀想だし……。

 けどけど、本当に僕が心春の幼馴染だったとしたら……。



「じゃあ、オッケーと受け取っていいのかな……?」


 再び不安になったのか、今にも涙を流してしまいそうな潤んだ瞳で、こちらを伺ってくる。僕の身長が数センチ低かったら涙をこぼさせてしまっていたことだろう。それだけは、絶対にダメだと思う。幼馴染とか以前に女子を泣かせちゃいけない。


「う、うん……」


 幼馴染の件は、一旦頭の隅に置いて。

 精一杯な心春に答えるように、僕も精一杯に答える。


 そうすると、返事を聞いた顔が再度花が開くようにパァっと笑顔になった。反則級に可愛い……。



「ふふ……。やっぱり秋仁のこと大好きだよ!」


 誰もいない屋上だからなのか、人目を気にせず抱きついてくる心春。

 柔らかい美少女が僕の腕の中、嬉しそうに僕の胸に顔を埋めてくる。



「大好き、大好きっ!」



 転校してきて数日なのだけれども。

 僕は国民的アイドルの卯月小春と付き合うことになったらしい。



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 あとがき。

 2025年12月1日連載開始です。

 10万文字の長編になる予定で、2026年2月まで毎日更新予定です。


 作者モチベーションに繋がりますので、面白いと思って頂けましたらフォローや☆評価をお願いいたします。

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