第3話 東京タワー×3
月が出ていない素敵な夜、今日はお友達と遊びに行くんだ☆
初めての都会、緊張しちゃうよぉ~><
「エイ、こっちです。はぐれたら
「ハイ」
緊張……しちゃうよぉ。
上位存在とのお散歩、怖いよぉ……。
俺達は今、眠らない都市東京に来ていた。
15年間もクソ田舎に隔離されていて、ようやく都会の喧騒の中に戻ってこれたのだ。多少は感動するだろうと思っていたが、全然感動しなかった。
隣に腹をすかせたヒグマ以上に危険な奴がいるのだから当然と言えば当然である。
「これが東京……」
俺の知っている東京とは一部違うようで、地名や町の造りが一部変わっていた。
特に、東京タワーみたいなのが三本あるのはどういう事だ?
こんなに塔を建てて何の意味があるのだろうか。
「ここは漫画の品ぞろえが良いのです。夜遅くまでやっているのも高ポイントですね。さ、入りましょう」
そう言ってソラが指さしたのは、大型の本屋であった。
確かに、田舎ではお目に掛かれない程の規模である。
「ここに入るの?」
「はい。大丈夫ですよ、私も何度も来ていますから怖くはありません」
ふんす、とでも聞こえそうな勢いでこぶしを握って鼻息を荒くするソラ。
その姿だけを見ていると背伸びした子供のようであった。
「お金はあるので、安心してください。5年間で色々と学びました。エンタメ経済圏を加速させるためにはお金を落とさなければいけないんですよ?」
「そ、そうなんですか」
5年間姿見せなかったのって、普通にコンテンツ沼に浸かってたからか……?
確かにこいつにとって5年なんて、おつかいついでにちょっと立ち読み程度の感覚でしかないのだろう。
「これだけあれば足りると思います。もし足りなかったら、また持ってくるので」
ソラは笑顔でそう言いながら、革の財布を見せた。
どう見てもお高そうな財布である。
どうやって手に入れたのかは聞かないでおこう。
「わ、わあ、嬉しいなぁ(棒)」
「じゃ、入りましょう!」
ソラに続いて、俺は本屋へと足を踏み入れる。
俺は果たして楽しめるのだろうか……。
■
お、面白そうなモンがたくさんある~!
楽しー!!!!
「楽しそうで何よりです」
ソラは俺を見て笑顔でそう言った。
その手には、如何にも今勢いがありそうな漫画の新刊が握られている。
上位存在も最新刊まで追う事あるんだ。
「エイはどの本にするか決めましたか?」
「どれにしようかなぁ~」
この世界には、かつて俺がいた世界の漫画や小説は存在していない。
故に、全てが新鮮であった。
1000万部以上売り上げている漫画をタイトルすら初見で読める幸せは、中々味わえるものではない。
SNSも断っていたおかげで、完全にまっさらな状態から楽しむことが出来るのだ。
今、俺の前に並ぶ漫画は全てこの世界の住人からすればメジャーどころなのだろう。
実に楽しみである。この後に死ぬことから目を逸らせば、実に良い時間だ。
「ソラのおすすめはある?」
「これと、これと……あとこれです。あ、あとこっちも」
「おすすめがたくさんあるなぁ」
無邪気な子供のようにソラは駆け回りあちこち指をさす。
小さな子供が駆け回っているというのに、客たちはまるで気にする素振りを見せない。
それが余計にソラという存在を際立たせていた。
それと、俺に対する視線が多い気がする。
田舎者臭でもするのだろうか。それとも、この生贄白衣装セットが変なのだろうか。
奇抜なファッションの若者という事でどうか見逃して欲しいところだ。
「こっちも私は好きですよ。ですが賛否両論あるので、最初の一巻で合わなければやめた方が良いです。これは私の私物があるので貸しますよ」
「勧め方に身に覚えがありすぎるな」
まるで普通のオタク幼女と一緒に来ているかのようだ。
そうして俺は興味のある漫画を大量に選びレジへと向かった。
真っ白い巫女服と高そうな革の財布のアンバランスさに店員は訝し気にしていたが、何も聞いてくることはなかった。
流石は日本。事なかれ主義は世界線が変わっても同じで助かった。
「じゃあ、行きましょうか。どこか落ち着いた場所でゆっくり読みましょう!」
「俺より楽しそうだね」
「はい! 私は今日を楽しみにしていました! この胸の昂ぶりを共有できることが出来て嬉しいです!」
そう言ってソラが笑みを浮かべる。
と、その時だった。
「――君、ちょっといいかな?」
「はい?」
振り返れば、そこにはお巡りさんがいた。
へー、この世界でも似た制服なんすね、警察って。
ってそうじゃない。マズイぞ!
「君、随分と若そうだけど、何か身分を証明できるものってある? この辺、夜10時以降は学生は出歩いちゃ駄目なんだけど」
人の良さそうな笑みでそう語りかけながら、お巡りさんは俺の手に持っているレジ袋を見た。
それから俺を見て、眉を顰める。
「少し、おじさんとお話しないかな?」
ま、マズイ……。
「大丈夫だよ、そんなに警戒しないで。おじさん、君とおんなじくらいの娘がいてね――」
お巡りさんが近づいてくる。
非常にマズイ。
何がマズイって、隣の上位存在がマズイのだ。
「何ですかこの人間。邪魔なので空っぽにしちゃいましょうか」
遠くから聞こえてくる蝉の声に、異常に穏やかな風と何かに見下ろされている感覚。
次第に音が遠くなっていき、無音になりかけている世界の中で俺は思わず声を上げた。
「待て待て待て!」
「え、どうかしたのかなお嬢さん」
「あっ、いや俺はお嬢さんではないです。男です」
「えっ」
お巡りさんの思考が停止した隙をついて、俺はソラへと耳打ちをした。
「殺すの駄目! 人間の命もっと大事にして!」
「え? 心を空っぽにするだけですよ?」
「それも駄目! 心って普通空にならないから! とにかく駄目! あれ使って、夏のあぜ道!」
「エイがそう言うならわかりました」
ソラは仕方なさそうにそう言って、俺に触れる。
瞬間、俺の姿は世界から消えた。
目の前に広がるのは見慣れた田舎の風景である。
「さて、それじゃあゆっくり漫画を読めそうな場所に行きましょうか。それともここで読みますか?」
「暑いから嫌だ。人の絶対に来ない場所で、都心から離れてて、身を隠すことが出来そうな場所に行こう」
「こだわりますね。でも、私もせっかくなら良い環境で読んで欲しいので協力しますよ! じゃあ、こっちです。こっちに適した場所があるので」
真夏の道をソラに続いて歩いていく。
きっと今頃お巡りさんは驚いているだろう。
ごめんなさい、そしてお仕事お疲れ様です。
■
ソラに連れられ歩いて数分。
俺達は真夏のあぜ道から抜け出して、ある建物の前にいた。
「……ここは?」
「絶対に人の来ない場所で、都心から離れてて、身を隠すことが出来る場所です!」
「そっかぁ……」
どう見ても、もう使われていない映画館だ。
それもここ数年の話ではない。
取り壊されてないのが不思議なくらいにその映画館はボロボロであった。
さび付いた看板には、街灯の光でかろうじて読めるシネマの文字。
壁は蔦が覆い、辺りはうっそうとした木々が茂っている。
B級ホラーで殺人ピエロによる殺戮ショーが開かれそうな雰囲気だ。
少なくとも、漫画を読むために入る場所ではない。
「では行きましょうか」
「えっ、本当に? 明かりとかどうするの?」
「ランタンを買っています! この下で漫画を読むのも中々乙なんです!」
「そっすか」
この上位存在、思ったよりオタクコンテンツに沼ってるな。
「もう、何を迷っているんですか。大丈夫です。アレは私よりもずっと格下ですから」
「え、何かいる感じ?」
「袋、一つ持ってあげますよ」
「ねえ何かいるんでしょ? ねえ、答えてよねえ――」
ソラの小さなおててに掴まれて、俺は映画館の中へとズルズルと引き摺りこまれていく。
上位存在にプラスして何かいる場所で、俺はこれから漫画を読まなければならないようだ。
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