第3話 フォルトゥナとの出会い
闇そのものが体現したと思うほどの漆黒の体躯。
開かれた口から舞うのは火の粉。
この中層エリアからさらに奥、下層エリアの中でも下の方…言うなれば深層エリアへと至る手前でないと出現しないはずの下層エリア『最終ボス』。
それが今北斗の目の前にいる黒炎龍という存在だった。
圧倒的絶望というべきそれから少し離れた場所には、おそらく悲鳴の主であろう少女を含めた男女4人組が顔を青ざめさせて黒炎龍を見上げている。
カパ、と黒炎龍が口を大きく開き、4人組へと狙いを定めた。
「…させると思ってるのかねぇ」
白刃が煌めくのと同時に黒炎龍の腕が斬り飛ばされる。
ガァァァァァ!!!!!
攻撃を妨げられたからか、黒炎龍は咆哮を上げぐるりと北斗へ顔を向ける。
四肢を斬り落としてから倒してもいいけれど…みた限り全員怪我人、中傷程度の怪我をしている。ここであまり時間をかけるのは得策じゃないな。
黒炎龍が再び口を開きブレス攻撃のモーションをとる。それを確認した北斗が一歩、踏み込んだ瞬間姿が消えた。
「図体ばかり大きいだけの愚鈍に負けるわけないだろう」
黒炎龍が口にためていたエネルギーが徐々に霧散していく。
そして数秒ののち、胴体から首が離れダンジョンの床へと轟音と共に落ちたのだった。
太刀についた黒炎龍の血を払い鞘に収めると怪我をしている4人組へと駆け寄ってアイテムボックスからハイポーションを取り出し差し出した。
「大丈夫ですか?よかったらこれを使ってくださいな。その怪我だと地上に戻るのもしんどいでしょう?」
「あ、ありがとうございます…」
「まさか、あの黒炎龍をこんなにあっさりと…」
「…お兄さん、何者?」
「み、みんな、お兄さんを睨んじゃダメよ。助けてくれたんだから」
あーこりゃ、かなり警戒されているなぁ。まあ仮面で顔隠しているから仕方がないか。でも黒炎龍を倒しただけでこんなに警戒心上がるかぁ?
北斗は4人組から少し距離をとり、害するつもりはないと太刀を左手に持ち替えてから口を開いた。
「安心してもらえるかわからないけれど、俺はさっきの悲鳴を聞いてこちらにきたにすぎない。坊ちゃんやお嬢ちゃん方を害するつもりはないよ。そのハイポーションも本物。俺のことは疑ったままでいいけど、早いとこ怪我は治しな?」
北斗に促されようやくポーションを使い怪我を治していく4人組。
よかった…ハイポーションなら大体の怪我は治るから大丈夫だと思っていたけど、見た限り全快したみたいだ。全員まだ10代後半ぐらいの年齢だろうし傷なんて残らない方がいいからね。
「あの、本当にありがとうございました。僕たちはクラン『ユーフォリア』に所属している『フォルトゥナ』というパーティーです。僕はリーダーを任せてもらっているハルトと言います。彼女たちはメンバーで、黒髪の子がセイナ、茶髪の子がアカネ、金髪の子がリオです」
「ユーフォリア……これはご親切にどうも。俺は雨月紫雲、今日から探索系NewTuberとしてデビューしたばかりの新人だよ。NewTuberとしては坊ちゃんたちの後輩に当たるから、どうぞよろしくなあ、先輩方。特にクランとかには所属していない個人勢だよ」
「せ、先輩だなんて!!僕たちは雨月さんのように強くありませんし…今日も本当は中層エリアの上の部分を探索しながら配信していたのですが、ダンジョン内のトラップに引っかかってしまってここまで飛ばされて…もしも雨月さんがきてくださらなかったら、どうなっていたか…」
それはまた不運な。確かにダンジョンにはトラップが数多く存在している。モンスターハウスだったり、落とし穴、果ては坊ちゃん達が引っかかったような階層移動型のもの。今回はもしかしたら階層移動に加えてモンスター召喚トラップとかも併発してたのかもなぁ。
今日は俺が近くにいたからなんとか出来たけど…これまでに同じようなトラップに引っかかっての死亡例は少なくないから。
死の恐怖を思い出したがゆえか体を震わせているハルトに、北斗はそっと頭を撫でてやる。フォルトゥナといえば北斗も知っている人気配信探索者だが基本的な活動層は申告の通りの中層上部か上層エリア。それがこんなところに飛ばされた挙句にさらに下のエリアでしか現れないような化け物が目の前にいたのだから怯えるのも無理はない。
「え…」
「もう大丈夫だよ。黒炎龍は俺が倒したし、近くに他のモンスターの気配もないから安心していい。怖かったよなぁ…でも、偉いよ。坊ちゃん、お嬢ちゃん方を守ろうと先頭に立って剣を構えていただろう?それは誰にでも出来ることじゃないよ。頑張ったね」
北斗の安心させるような優しい声音に、労りの色を見せる金色の瞳に、ハルトはつい見惚れてしまっていた。薄らと頬を紅色に染めて固まっているハルトを見て、もしや勝手に触られて怒っているのではと北斗は少し距離を置く。
「ごめんね、知らない奴に勝手に触られたら嫌だったよなあ。とりあえず入り口まで送っていくから、もう少し我慢してくれや」
「あ、あの、いえ、そんな、嫌ってわけじゃ」
「気を使わんでいいよ。…ああ、そうそう。この黒炎龍のドロップ品は全部渡しておく。装備もずいぶんダメージを喰らっているように見受けるし、これを売れば全員新調できるくらいのお金は確保できるだろう?」
黒炎龍って下層エリアの最終ボスだから滅多に素材が上がってこないから高額で買取してもらえるんだよなあ。…俺だとちょっと気不味いし、あれやこれやと問題が起きそうだけど、ダンジョン協会の渋谷支部を統括しているユーフォリア所属のこの子達なら適正価格で買い取ってもらえるだろうさ。
黒炎龍のドロップ品を惜しげもなくフォルトゥナの面々の前に差し出し、自分は帰還用の帰還石を用意するためにアイテムボックスを探る北斗。他意はなく、純粋に彼らのためを思ってのことだったが、素直に受け取っては貰えなかったらしい。
「何が目的なの??高価なポーションに素材まで…後で無茶を請求するつもりなんじゃないの!?」
「ちょ、ちょっとアカネ!」
「アカネ、言い過ぎだよ。…私も、ちょっと疑ってはいるけど…」
「セイナ、君まで…本当にすみません、雨月さん。折角ご厚意でおっしゃっていただいているのに…」
「いや、気にしなくていい。俺がそちらの立場だったら相手を疑うと思うよ。でも、申し訳ないが俺は帰還石を一個しか持ってきていない。坊ちゃん達が黒炎龍から逃げるために使ってなかったのを見るに多分持っていないか、転送トラップのせいで無くしたんだろう?なら、一緒に帰った方がいいと思っての提案なんだよ。黒炎龍のドロップ品に関しては俺は必要ないから譲ると言ったまで。…これでも信じられないなら、ドロップ品と帰還石だけ譲って4人で帰ってもらってもいい。どうする?」
正直ここから徒歩で帰っても俺は問題ないし、むしろ坊ちゃん達には早く家に帰って体を休めて欲しいんだけどなあ…。
ハルト以外はこちらを警戒するばかりで受け取ってくれないために困り果てた北斗はハルトに帰還石、そして黒炎龍のドロップ品を渡すと帰還石の範囲内に全員いることを確認し口を開いた。
「帰還石発動」
まばゆい光が全員を包み、次に光が収まったときには渋谷ダンジョンの入り口に戻っていた。
ハルト達が目を白黒とさせているうちに自分は撤退しようと踵を返した北斗だったが、一人の女性の声に引き留められてしまった。
「あなたは…」
「…今は配信者として雨月紫雲と名乗っているから、本名を言ってくれるなよ?それにしても…なんでここに貴女が?」
「了解しました。何故と言われると、まぁ事情がありまして」
北斗に声をかけてきた女性の名は来栖葵。
ダンジョン協会渋谷支部の受付にして、北斗は知らないがフォルトゥナのマネージャーも兼任している人間だった。
「事情?まあいいけど。…あ、おたくのクランマスターにいい加減言っといてくれるかい?あの時のことは俺はもう気にしてないから、素材やドロップ品を適正価格以上で買おうとしないでくれって」
「この子達のマネージャーも兼任しているんです。そしてその件については承服しかねます。貴方にどれだけ迷惑をかけたか…その償いもこめているとマスターは仰っていました」
「だからあれは俺も無知だったしそちらさんには情報がなかったから起きた事故だって。一ミリも気にしちゃいないことでいつまでも気を揉まれちゃ俺もやりづらいんだが…」
「いえ、探索者を支援する協会の受付として、何よりクランに所属する者として!!知識不足で探索者を糾弾するようなことがあってはいけないのです!なのでマスターに直談判されても対応は変わらないかと。一番気に病まれているのはマスターなので」
「だから当事者の俺が気にしてないんだからやめてくれって言ってるんだがねぇ…当時はまぁ確かに腹は立てたけれども今となっちゃただの笑い話だろうに。俺がソロで潜ってることとクランに属してなかったからこその疑いだろう?」
レベルの提示をしてなかったから下層エリアに行ったことが嘘扱い、ドロップ品や素材は他人から盗んできた盗人扱い、捕縛されかけたことなんて、言ってなかった俺が悪いし本当に気にしてないんだがねぇ。
北斗は心の中で思ったつもりだったのだが…思い切り口に出ていた。
その内容に葵は顔を青ざめさせ、その様子と、否定の言葉が出てこないことから北斗の言葉が本当なのだとハルト達も顔色を悪くする。自分たちにとっては頼りになるクランなのに、自分たちの命の恩人をまさか盗人扱いしていた過去があるとは。
しまったな、会話の流れに任せてここで言うべきことじゃなかった。
「ま、まあ、今日は配信のためにこのダンジョンに来ただけだからそちらさんに用はないし。俺はこれで失礼するよ。…坊ちゃんらは、今日は早く帰って休みな。いくらポーションで回復したとしても疲れは取れてないし、失った血も戻ってないんだからな」
ハルト達が何かを言いかけたのを気づかないふりをしてカメラを確認するために踵を返した。そのときに、とんでもないことに気づいてしまったが。
…あ、れ??待て、俺って配信切ってないような…あ。
目に飛び込んできたのは同時接続数100万を超えた配信画面に、今北斗が言い放った言葉に凄まじい速度で流れていくコメント欄。
そう、北斗はハルト達を助けるために駆けていった際に配信のことが頭からすっぽ抜けており、配信を垂れ流していることに今の今まで気づかなかったのだ。
“いやいやいや黒炎龍をソロ討伐できる人が下層エリアに潜っていることが嘘な訳ないじゃん、ユーフォリアは節穴揃いなんか??”
“確かに合成映像疑惑出てたけど有識者のおかげであれが本当の黒炎龍だと判明してたし、何よりフォルトゥナの方の配信画面でも角度違いの映像流れてたんだから間違いないよね”
“というか証拠ないのに捕縛しかけたの??やばくね?“”
“鑑定眼持ちの俺氏、雨月さんが倒したモンスターのドロップ品が本物の黒炎龍のものだと確認済み。これ、ユーフォリアの見る目がなかったと言うことでFA?”
“紫雲くんかわいそう…”
“ユーフォリアって所属している探索配信者にはすっごく優しくてホワイトだって聞いたけど、いくらソロ相手でもいきなり嘘つき&盗人呼ばわりはやばくね?”
“やば、どんどん視聴者増えてるじゃんw”
“と言うか雨月の持ってる太刀って素材ヒヒイロカネじゃない??あれって入手するにしても下層エリアだって話だし、買うにしても大金必要だから実力は疑う余地ないでしょ”
「………あー……その、今日の配信はここまで、ってことで。次回の配信をゆるりとお待ちくださいな。雨月紫雲でしたー」
手早く配信を切った北斗は、少し気まずそうに葵やハルト達を振り返ったが、言葉は何も発さずにハルトに幾つかのレアメタルや宝石類を渡してから素早くその場を去っていった。
「…帰って、酒飲んで、寝るかあ…か」
あとがき
じつはこの話、下書きの時点ではもっとギスギスしてたんですけれど、いつのまにかこんな感じに。
応援、フォローありがとうございます!
書く励みになります!
これからも頑張りますのでのんびり楽しんでいただければ幸いです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます