未知の惑星でコロニー復興計画!!

あたかわ

第1話

3XXX年――。

人類は宇宙へ広がり、各惑星圏に多数のコロニーを形成していた。

そのひとつ。

火星圏外縁軌道に存在していた 地球連邦第24コロニー は、ある日、巨大彗星ヘパイストス彗星の直撃を受けた。

防衛シールドは一瞬で飽和し、外殻は大破、内殻すら崩壊した。

通信途絶。

生存反応なし。

公式記録にはこう刻まれた。

――第24コロニー、壊滅。生存者ゼロ。

誰もが廃棄と思っていた。

宮村 咲耶(22)

地球連邦 火星第3惑星圏 第12コロニー副管理者

事故発生から二ヶ月後。

咲耶は連邦本部から突然の通知を受け取った。

<第24コロニー再建任務を命ず>

「……俺が、“再建”を?」

上官は淡々と答えた。

「君は第12コロニーで副管理者として実績を残している。

完全に無人化されたコロニーを再起動できる人材は限られている。」

再建条件は過酷だった。

残存構造物は半壊状態

内部は真空、生命反応なし

自立思考型AI AIA-04(アルメリア)は停止

補給は最低限のみ

単独赴任

つまり――

死んだコロニーを、生身の人間ひとりとAIのみで蘇らせる任務。

咲耶は深く息を吐いた。

「……やるしか、ないか。」

こうして、彼は半壊した第24コロニーへ単身赴いた。

到着した第24コロニーは、想像以上に荒れていた。

外殻は溶けて歪み、通路は真空化し、照明は落ち、内部には破片と焦げ跡だけが残されている。

「……本当に、誰もいないんだな。」

生き残りは1人もいない。

遺体すら残っていない区画も多かった。

だが――

アルメリアのAIコアだけは、奇跡的に原型を留めていた。

これを復旧できれば、制御系の大半が回復する。

咲耶は最低限の空気を循環させ、AIコア区画に向かった。

透き通る球体の中心で、眠るように青光が消えている。

「……起こすぞ、アルメリア。」

咲耶は起動キーを差し込み、再起動プログラムを展開した。

同時に、核融合炉へ最低限の出力を送り込む。

ゴォォォォ……ッ

深部で何かが回り始め、コロニー全体がうめくような振動を発した。

冗談のような確率で、AIコアと核融合炉は復帰し始めた。

だが――その瞬間だった。

――光。

白い、巨大な、全てを呑み込む光。

咲耶は思わず目を覆った。

「な、なんだ……!? フレアか? 炉の暴走か……っ!?」

重力が揺れ、視界が歪む。

圧力計が狂い、床が波打ち、空間そのものが震えている。

《――ィ……ア……》

耳鳴りの奥で、かすかにアルメリアの声が聞こえた。

《……座標……再構成……転移……》

「転移……?

そんな機能、ついて……」

言い切る前に、世界が白に染まった。

目覚めた先 ― “未知の惑星”

――金属の床。

――人工重力。

――微かな空調音。

咲耶は医療区画で目を開けた。

気絶していた間に、自動医療システムが作動していたらしい。

起き上がり、窓の外を見た瞬間――息を呑んだ。

そこには、巨大な青白い惑星 が、コロニーの真下に広がっていた。

渦巻く雲海。

巨大な大気層。

地球でも、火星でも、木星でもない。

「……どこだ、ここ……?」

足元のホログラムが点灯する。

『宮村咲耶、起床を確認。

状況報告を開始します。』

アルメリアだ。

ただし声には微かにノイズが混じっている。

『現在位置――不明。

連邦宇宙座標系と一致しません。

眼下に広がる惑星――連邦登録情報にはありません。』

「つまり…?」

『第24コロニーは“未知の惑星上”に転移しました。』

咲耶は固まった。

「転移……?

コロニーごと……丸ごと……?」

『はい。

ただし、転移を引き起こした原因は不明です。

しかしながらハイパースペースに酷似しています。』

おかしい。

このコロニーにはハイパースペースなど搭載されていないはず。

もし搭載されていたとしても、大型核融合炉1機では動かせないはずだ。

無人のコロニーと見知らぬ惑星。

「アルメリア、現状を確認だ。」

『了解しました、管理者代理。第24コロニーシステム全体の稼働状況を解析中です。』

咲耶は腰のパネルを操作し、AIが送ってくるデータを眺める。

『コロニー各区画の生命維持装置――一部稼働、ほとんど停止。

人工重力は概ね安定。電力供給は核融合炉の最低出力のみ。

外殻ダメージにより気密保持が不安定です。

酸素供給量は50%以下。補給なしでは長時間維持困難。』

「やっぱりか……完全に壊滅状態だな。」

『また、外部環境をスキャンしました。』

窓の外、アルメリアが提示するホログラムに、衛星軌道上のコロニーと眼下の惑星の情報が表示される。

コロニーは軌道上に留まっているものの、惑星の大気圏や重力場は不明、地表には微かな放射線と磁場の変動が観測される。

『大気成分は窒素・酸素が存在しますが、未知の成分も検出されました。

放射線レベルは地球平均と同等、局地的に強くなる箇所があります。』

「……なるほどな。

つまり、ここで長期間生活するには、まずコロニー内部の補修と安定化が最優先か。」

咲耶は深く息をつき、コロニー内部のマップを頭に描いた。

外殻の損傷区画は多く、通路の真空化が至る所にある。

電力網も分断され、生命維持装置の復旧には優先順位が必要だ。

「アルメリア、優先順位を出せ。

まず酸素供給と生活区の気密補修だ。」

『了解しました。管理者代理。

補修作業用のロボット群を起動し、必要資材を搬送開始します。

ただし、外殻修復には補給が不足しています。資材は最小限での仮修復となります。』

「わかってる。

まずは最低限、生存可能な状態を作る。完全復旧はそのあとだ。」

咲耶はパネルの操作を続けながら、コロニー内部へ移動する準備を進める。

外殻の破損区画を確認すると、そこから微量の宇宙線と冷たい真空が漏れ出している。

「……やることは多い。けど、やるしかない。」

彼の声は低く、しかし決意がこもっていた。

コロニーの中心部――核融合炉とアルメリアがある制御区画までの通路を、咲耶は慎重に進む。

彼の背後で、アルメリアの青い光がわずかに明滅する。

コロニーはまだ死んでいない――そして、咲耶の戦いは始まったばかりだった 

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