転生学園 引きこもりゲーマーは異世界で学園生活を送りたい

夜月 黒人

プロローグ

 リクライニング機能のついた椅子に

深々ともたれかかる。

このご時世、ゲーミングチェアに

ゲーミングモニター、ゲーミングマウス、

ゲーミングキーボード、ゲーミングパソコンと、ゲームがスポーツの一種として

世間に認知されてからというもの、マーケティング戦略なのだろうが、

何でもかんでも名前の頭にゲーミングとつけ、無意味に七色に光らせる商品が市場に溢れている。


しかし、上記のパソコン関係はまだ分かる。

実際にゲームに特化させた性能の商品なのだから、これはゲーム用ですよと消費者にわかりやすく宣伝する為の一種の戦略だからだ。

だからこそ理解できる。

なぜ光らせるのかは謎ではあるが……それも、

インパクトととしての意味を持っているはずなので理解はできる……


だが、昨今の市場に現れる商品は異様な顔ぶればかりなのだ。

ゲーミングマスクにゲーミング水着などなど、頭のおかしい商品まで出てくる始末。

発案者が誰かは知らないが、何を思ってゲームと虹色の発光を紐付けたのか。

そして、もはや様式美のように虹色に光る=ゲーミングという図式は、ゲーマー以外の一般ピープルにも浸透してきているのがたまらなく愉快だ。

テレビでニュースキャスターが、ゲーミングマスクの話題に触れていたのを見かけて

胸の奥がむずがゆくなった。


個人的には虹色発光は、ゲームというよりパチンコの演出だと思うのだが、

大枠にカテゴライズすれば、どちらもゲームであることには変わりないので

納得せざる負えない。


まぁ見ている分には面白いので、開発者達にはゲーミングエナジドリンクで、脳内をレインボーにライティングして、とち狂った製品を量産してもらいたいものだ。

とは言っているが、狭い部屋に敷き詰められたパソコンにその他周辺機器のほとんどが、ゲーミングと付いていつのは仕方がない。

だって性能がいいんだもん、と心の中で無意味に言い訳をする。


「はぁ……」


暗い部屋の中で、無意識に溢したため息がパソコンのファンの音にかき消された。

部屋が暗いままなのは、発光機能をオフにしているからだ。

全て光らせたことがあるが、鬱陶しいことこの上なかった。


目の前には、3つのPCのディスプレイが並んでいてそのどれもが別々の映像を写し出している。

真ん中のディスプレイには、書きかけの原稿があり、左側にはその資料とストーリーが大まかに書かれたプロット、そして右側には今季のアニメが流れている。

ディスプレイの右下に表示されたデジタル時計は、日付が変わったことを

静かに告げていた。


寝て起きたらロフトベッドから降りて風呂を済ませ、パソコンを起動し小説の原稿の続きを書く。

シナリオの仕事を終わらせ、次の案件が来るまでの間に小説を書き進めなければならない。

これまでも、いくつかの作品を書いているが、未だ完結まで書ききったものは少なく、勿論のこと本となったものも無い。


勢いで地元を離れ、都会の高校に進学したが、いろいろあって学校生活を諦めた。

幸い趣味のウェブ小説がきっかけで、ゲームシナリオの案件を貰うことで、何とか一人での生活を維持できている。

本名のツキトと好きな動物で、頭に最初に浮かんだ猫を足した、月猫という名前で

始めた名前にも慣れてきた。

たまに先生と呼ばれることもあり、嬉恥ずかしな体験もある。

貧乏に片足を突っ込んではいるものの、そこそこ満足のいく生活を送れているとは思う。


おぼろげだにが、自分の書いた小説を本として形にしたいという人生の目標もある。

まぁ小説とは言っているが、いわゆるライトノベルと呼ばれる類のものだが。

現状、なんちゃってゲームシナリオライターではあるものの、仕事はしっかりとこなさなければ生活を維持できない。


新しい栄養の塊である、エナジードリンクを開け一気に半分ほど飲みこむ。

炭酸と薬品のような風味、ケミカルな糖分を胃に流し込み作業を続ける。

かれこれ4時間ほど書いているが、話の中盤に差し掛かったところで、プッツリと手が止まってしまった。


「あ〜ダメだ……ぜんっぜん言葉が出てこねぇ」


なかなか良いアイデアが浮かばず、時間だけが過ぎていく。

しばらく画面を睨みつけながら唸ってみるが、

少し書いてはその倍の量の文字を消していくという虚しい動作を繰り返すだけ。

イメージが途中で浮かばなくなることなんて良くあることだが、このまま画面を睨み続けていても仕方がないと考え直し、気分転換にゲームでもすることにした。

サボりではない。

断じてサボりじゃない。


「気分転換でもしますか」


良いアウトプットをするには、良いインプットが必要だ。

そう自分に言い聞かせ、伸びをしてからゲームを立ち上げる。

狙撃銃を手に、戦場の舞台である廃墟を駆け抜けていく。

視界に入った敵兵の頭に標準を合わせては、片っ端から打ち抜いていく。


「も〜らい」


画面に映った敵を片っ端から撃ち抜いていく。

ソロで狙撃銃を使う場合は位置取りや立ち回りが肝心なので一ヶ所に止まらず狙撃ポイントを変える。移動のために今いるビルから次の狙撃ポイントへ移動するために、落ちてもダメージを食らわない二階まで降りて窓から飛び降りる。

それから半壊した二階建ての家に入り、割れている窓から路地裏の方へ出ようとした瞬間に、物陰から足音もなく急に現れた二丁拳銃を持ったプレイヤーと遭遇エカウントしてしまう。


「うお!?」


このルートは敵が集まりやすく激戦地帯の中央から遠く離れており、あまりプレイヤーが通ることがない。ミニマップもしっかりと見ていたが敵の反応や足音などしなかった。しかしこのタイミングで遭遇エカウントしたということと足音がしなかったのを見ると、この敵プレイヤーは俺がこのルートを通ることを僅わずかな時間で予測して先回りをしたのだろう。

ただし、こんな超至近距離ではわざわざスコアのためにヘッドショットを狙わなくても、体の何処でも当てさえすれば銃の中で最も高い攻撃力を持つ狙撃銃の一撃ならば倒すことができる。

スコープを覗いている判定を受ける一瞬だけ入力し、慌てず冷静にエイムを合わせ狙い打つ。

しかし相手の行動は速く、滑り込みによる回避で一瞬で射線上から逃のがれたのだ。


打ち出された弾丸は、敵を撃ち抜くことができずにむなしく地面に着弾した。

撃った後に発生する、次弾を装填する為の致命的なスキが生じる。

その瞬間を相手が逃すはずもない。

二丁拳銃の連射による反撃をまともに食らい俺のHPは消し飛んだ。

二丁拳銃の強みである機動力と発射レートの高さ、そして俺の移動ルートを先読みしたであろうポジショニング、見事としか言いようのないプレイングだ。


リスポーンするまでの数秒間で、一連の戦闘を分析し対策案を模索する。

わずかな息苦しさを感じたことで、自分が息をすることを忘れる程集中していたことに気づいた。


「やってくれるじゃねぇか……!」


それから、お互いに他のプレイヤーをキルしながらも、二丁拳銃を持つプレイヤーと遭遇エカウントする度に互角の勝負を繰り広げていった。

久しぶりに出会った強敵に、心が躍る。


「もっと! もっとだ! 次はどう来る!?」


そうしている内に、五分もかからずにキル数が条件にまで達しゲーム終了となった。

最終スコアを見ると、一位の欄には俺の名前が華々しく記載されている。

二位には、二丁拳銃のあのプレイヤーの名前が載っており、かなりの接戦だったが僅差で勝利することが出来た。

久しぶりに熱い勝負ができて自然と笑みがこぼれる。


しかし、その他のプレイヤーのスコアは悲惨としか言いようがない差が出ていた。

送られてきたメッセージを見ると、

『芋り野郎消えろ』『芋ることしか出来ないゴミ』

等々見るに耐えない誹謗中傷の嵐だった。

ただし二位のプレイヤーだけは、『次は負けない』となんとも嬉しいメッセージを送ってくれている。

普段は絶対にメッセージなんて送らないが、ダンスの招待状を叩きつけられたのならば、返事を送るのが礼儀というものだろう。


『受けてたとう』


数分で次のゲームが始まる。

今俺の手に握られているのは、先ほどの狙撃銃ではなかった。

突撃銃でも、散弾銃でも、拳銃でもない。

それらの武器に比べることすら馬鹿らしくなる獲物。

しかし、俺が実装されている武器の中で最も得意な武器である、ナイフを手に戦場を走る。

ナイフという他の武器と比べて圧倒的なリーチによる不利を持つ、誰にも見向きもされない武器。

しかし、当たればどんな敵でも一撃で倒せる武器中最強の攻撃力と最速のスピードを生かし、キル数を積み上げていく。


FPSというゲームジャンルにおいてナイフとは、移動速度と相手を一撃で倒せる攻撃力が持ち味の武器だ。

しかし突撃銃アサルトライフルや、短機関銃サブマシンガンといった、銃がメインのゲームでは、いくら速く移動できたとしても攻撃しようと近づこうとするだけで、

無数に発射される弾丸の前にはほぼ無力と行っていい。

そんな武器だが、立ち回りや敵の行動の裏を読み待ち伏せ、先回りをすることができればリーチの不利等は些細な問題にすぎないのだ。


これなら文句のメッセージも来るまいと、意気揚々と送られてきたメッセージに目をやる。

『チーター乙』『チートとかやるとかあり得ない』『ヤメロ』『通報しました』

と先程よりも酷くなっていた。


「あーあ……何ですぐチーター扱いするのかねぇ」


着けていたヘッドホンを首に掛け、椅子に深く座り込む。

慣れたとは言え、このようなメッセージを見ると好きな筈のゲームなのに胸の奥がチクリと痛む。あのプレイヤーからは、何もメッセージは送られてこなかったが代わりにフレンド申請が来ていた。

それを承諾した後にゲームを閉じる。


それから原稿の続きを書きだすが、やはりなかなか良いアイディアが浮かばない。

頭の中では大体のストーリーが出来ているのだが、それを上手く文章に起こせないもやもやした感じがして、またもやため息をつく。


「ふぁ~あ……寝るか」


結局は、眠気には勝てずにパソコンの電源を落とし、アラームの設定をして布団に入る。何時ものように代わり映えしない日々を睡眠という数少ない幸せに身を任せ重い瞼まぶたを静かに閉じた。




とある場所。

長いく薄暗い通路を一人の男が歩いている。

通路の終点には両開きの扉があり無骨な見た目のせいか、重厚な印象を受ける。

しかし、男は大した重さを感じてないかのように扉をあけ放つ。


「いや、遅くなってすまないな」

「あなたが遅いのは、いつもの事なので何とも思わなくなりましたよ」


話から察するに、予定の時間よりも遅く到着したであろうもう一人の男は、適当に謝罪しながら話しかける。

話しかけられた男は、手元にある資料を読みながら振り返る事なく

ため息交じりにこたえた。


「前に25人追加して45人に……いや、また20人まで減ってますね。2回目だっていうのに」


言葉とは裏腹に特に残念に思うというよりも、気だるそうなだけのようだ。

二人がいるのは、机は勿論だが椅子すらも無い部屋だがその床には、部屋のほとんどを占める程大きく描かれた精密で複雑な幾何学模様、俗にいう魔方陣があった。


「仕方ない事だろう。こればっかりはどうにもならない」

「そうですね。最近主戦力の子達でも殺られることが増えました。

まったく、一体何が起きようとしているんですか?」

「さぁな……」


先にこの部屋にいた男は、空気を変えようと話を違う話題に切り替える。


「今回も地球の日本ってとこですか?」

「あぁ、あそこの子供は他の次元や場所の子供よりも、適応能力に長けている」

「そうですね……

しかし元の身体能力や特異能力では劣っている事が多いようですが?」

「元の能力の優劣や有無など些細な問題さ。

大事なのは内に秘めた潜在能力と新たな環境、そして目覚めた力との適応能力だ」

「確かに、そうですね。あなたが言うと説得力がありますよ」

「それは皮肉のつもりかい?」

「どうでしょうね、始めますよ」

「あぁ……」


男達は、何気ない会話をしながら地面に描かれた巨大で精密な魔方陣を起動させる。魔方陣に魔力が流し込まれていき暗い部屋に魔方陣が放つ光が満ち、

空間が揺れ始める。

一層光が激しくなると次の瞬間、魔方陣が空間に写し出され光が広がっていく。


「ようこそ、新たな転生者達よ」


この日この瞬間、日本では十人の子供達が同時に人知れず姿を消した。

しかしその事に気づく者は誰もいない。

行方不明者の人数が増えることもないだろう。

なぜなら、人々の記憶からもその10人の存在が消えたのだから。

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