第24話 棚橋の夢(後半)
棚橋修也
携帯を投げ捨て、目的もなく走り出した。
頬を切る風の音の奥で、優愛の声がかすかに響く。
その優しさが胸に触れるほど、心の奥が痛んだ。
公園のベンチに腰を下ろし、見上げた夜空は何処までも深かった。
遠い宇宙の光を見つめながら、陸斗の思い出に辿り着く。
どうしても謝りたくて、事件の数日後、病室の前まで行った。
扉に手を掛けた瞬間、ドアの隙間から陸斗の声が聞こえてきた。
「だから、修也は悪くないんだよ。
ちょっとふざけてたら、俺が足を滑らせただけな
んだ。
ホントだって、本人が言ってるんだから。
変な噂信じないでよ。」
その言葉が、心の奥に響いた。
陸斗は、あの状況でも俺の味方でいてくれた。
でも、SNSという現実は、容赦なく俺を切り刻んだ
「お前も辛いだろうけど、俺だって辛いんだよ。
あの時、本間の言葉を聞いてなかったら、こんな
ことになってなかったはずなのに。
お前だけを見ていた本間のせいだ。」
掌で顔を覆ったまま呟く言葉は、夜空に消えていく。
気が付けばけば夜も更け、公園の向こうに
優愛が立っていた。
僕は逃げるように走り、気が付くと交番の前
に立っていた。
「画面の向こうのお前等の望む通りにしてやるよ…
俺を見捨てたクズ親、本間、お前等も道ずれにし
てやる…」
カバンから護身用の催涙スプレーを取り出し
衝動のままに扉を開いた。
頭の中が真っ白になり、自分が何をしているのか分からなかった。
気づいた時には、手の中に金属の冷たさがあった。
目の前では、警察官が痛みに顔を歪めながら、それでも――
「僕」を人として見ていた。
その目に、一瞬だけ心が揺れた…
でも……、 もう戻れない。
頭の中で、SNSの叫びが渦巻く。
こいつも一緒だ…
最後まで見方でいてくれた二人の顔が浮かぶ
「陸斗…。 優愛…。
ごめんな…。 もう限界だ…。」
その時――交番のドアが開いた。
「修也!」
息を切らした優愛が、必死に僕へ駆け寄る。
「修也! やめて! 何してるの?!」
その声が、現実を突きつける。
だが、その現実こそが俺を追い詰める。
優愛は一歩、僕に近づき、強い眼差しで
「一緒に考えようよ。まだ間に合うよ…… ね?」
「……。 もう、無理だ……。」
その時、彼女が僕の腕にしがみつき、手を下ろそうとした。
僕は抵抗せず、そのまま後ろの壁に押し付けられた
≪パァンッ≫
視界を白が遮り、衝撃音が耳を殴るようにすり抜けた。
優愛の身体が、ふっと揺れ、僕の腕から離れた…
彼女の視点が、僕の瞳から逃げ去った。
まるで花びらのように、彼女の長い髪が宙を舞った。
声が出ない…
息もできない…
僕は完全に壊れた…
立ち上がろうとする警察官の姿が視界に映り
恐怖が全身を支配した。
「ごめんなさい…」
無意識のうちに指が動いた…
≪パァンッ≫
白い閃光が視界を塗りつぶし、
空気が震え、交番の空気が裂けた。
身体は優愛を求め、足が動き彼女の前で座り込んだ。
僕は紅い優愛を抱きしめた。
彼女の体温が、少しずつ、消えていく。
「しゅうや… はやく…… かえろ……」
細い声が耳に触れる
「優愛……。 ごめん……。」
涙が頬をつたい、彼女の冷たくなっていく顔に落ちる。
もう、涙を拭ってあげることもできない。
「もう、終わりにしよう」
金属を額に当てる。
冷たさが、妙に心地よかった。
「陸斗……。 本当に…ごめん……。
優愛……。 今、行くよ……。」
視界が歪み、音が遠ざかって行く。
最後に聞こえたのは、自分の鼓動ーー
悲劇の連鎖の幕開けの音。
≪パァンッ≫
月光に照らされた雲の隙間で、白い制服を着た優愛が、笑顔でユニフォーム姿の僕に手を伸ばす。
「修也!早く手をつないでよ!」
「わかってるよ。」
その手に触れた瞬間、全ての痛みが消えていった。
荒れた交番の机の上で、スマートフォンが震える。
着信と同時に画面が明るくなり――
画面には手を繋いだ、修也と優愛がいた…
第25話へ続く
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