第3話 現実

三か月ほど過ぎた朝。


母の大きな叫び声で目を覚ました。 急いでドアを開けると――

兄の部屋の前で、母が床に崩れ落ちていた。


「な、何かあったの?」


天を仰ぐ父の手には、ぐしゃぐしゃに握りつぶされた一枚の紙。


「……何でもないよ。陸斗が寝坊するのは珍しいか 

 らさ。

 海斗は準備して学校へ行きな。」


その声は震えていた。


――そして、その日から兄は部屋に籠もった。


すぐに噂が広がった。


≪あの天才がプレッシャーに負けた≫


≪負け犬≫


≪期待に潰された天才の末路≫


数日後


僕は兄のドアをノックした。


「お兄ちゃん……どうしたの?

 皆、勝手なことばっかり言ってるよ。

 お兄ちゃんはそんな人じゃないよね?

 早く出てきて、また野球教えてよ……」


しばらくして、ドアの隙間から一枚の紙が差し出された。


≪誰が何を言おうが、これが現実だ。

 お前は現実を受け止めて野球をしろ。≫


その文字を見た瞬間、僕は声を上げて泣いた。


――何が起きているの?

――お兄ちゃんは何処にいるの?

――あの日の“ヒビ”は、ここから広がり始めた。



第4話へ続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る