第25話 当然の成功と違和感
幼体アバドンは、森の奥の窪地に潜んでいた。
黒紫の胎膜のような外皮が脈打ち、まだ成熟しきらぬ爪をカチリと鳴らす。
しかし、その巨体を前にしてもパーティに動揺はなかった。
「レオルさん、いきましょっ!」
リィナの声は、鼓膜を撫でるほど柔らかい。
レオルは剣を構える。
「ガルド、左から。リオナ、拘束の準備を」
「おう!」
「任せて!」
アバドン幼体が咆哮するより早く、光が走った。
レオルの踏み込みは鋭く、リオナの魔術が足元を縫い止める。
ガルドの矢が視界を揺さぶり、リィナの祈りが急所を外すよう敵の動きを鈍らせる。
「レオルさん、すご〜いっ!」
戦闘は――**あっけなかった**。
幼体とはいえ、アバドンは狡猾で攻撃的な魔物のはずだ。
にもかかわらず、今回は抵抗らしい抵抗もなく、ただ崩れ落ちた。
レオルは胸の奥に微かな違和感を覚えながら、剣を引き抜く。
息を整えつつ、仲間を確認する。
「みんな、怪我は?」
「問題なし!」
ガルドが手を振る。
「余裕ね、このくらいなら」
リオナが杖をしまう。
リィナは両手を胸の前で握り、ほっとしたように微笑む。
「怪我してない? よかったぁ……やっぱり、みんな強いです〜」
その笑顔は、善意しか持たない者のそれだった。
誰が見てもそう思った。
レオルでさえ――このときまでは。
死体処理は勇者隊の義務だ。
腐敗すれば瘴気を撒き、別の魔物を呼び寄せる。
レオルはアバドン幼体の体表を押し分け、中を確認していく。
(……軽いな。幼体にしても、これは……)
粘ついた膜を指で裂いた瞬間、視界が止まった。
そこにあったのは――
**布の切れ端。
小さな人間用の装飾品。
人の血の混じった痕跡。**
レオル「……なんで、アバドン幼体から人の……?」
ぞくり、と背中が冷える。
飲み込んだ息が喉に張りつく。
(まさか……喰われた人の遺留品……? いや、それにしては……)
装飾品を摘み上げた瞬間、レオルの心臓が強く跳ねた。
(……これ……)
(リィナがいつも腰に下げてる……祈り飾りの……同じ型だ……)
同型。
ただの偶然では片づけられない“揺らぎ”が、指先を震わせる。
レオル「……あれ……これ……もしかして──」
その思考を遮るように、背後から足音が柔らかく近づいた。
「レオルさーん? そろそろ帰りま──」
リィナだった。
いつもの、ゆるふわ笑顔の声。
レオル「あっ……」
振り返ることすらできなかった。
その一音が喉から漏れたところで
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