じいじと孫娘(仮)の珍道中

霞千人(かすみ せんと)

第1話 出合い

 銀青色のローブを纏い、如何にも魔術師と言った感じの杖を持った白髪白髭の老人が街道を歩いている。その男の名はコラン。よわい65歳で錬金術師であり、仙術、杖術の達人だと自負している。


仙術とは魔術とほぼ同じだが、それに加えて時空間を自由に操作出来る、重力、摩擦などの物理現象も扱えるので空を飛んだり、所謂超能力をも扱える強力な技を使える術なのである。


気ままにホクト王国の各地を巡っては自作のポーションを薬師ギルドに卸売りして生活費を稼いでいる。だが一方で高ランク冒険者でもあり、素材を売っての収入と依頼を受けての報酬も有るので懐は豊かなので自由気ままな人生を送っている。

今日は北方のツゲラ領から王都に向かう途中だった。

(ンッ、ドラゴンか?珍しいな)

巨大な影が自分の上空をよぎって、大街道の方へ飛んで行った。

(いかんな王都が大騒動になるぞ)

コランは走り出した。老人の走りではない。土煙を上げて猛スピードで走る。

大街道との交差点でドラゴンが幌馬車の馬2頭を貪り食っている。千里眼で確認すると御者は息絶えているようだ。護衛の5人の冒険者の死体も見える。

コランは30mの距離を転移してドラゴンの上に立った。すかさずドラゴンの首目掛けて杖を叩きつける。杖が良く切れそうな剣に変形してドラゴンの首を断ち切った。


馬は内臓を食い散らかされている。人間はみんな死んでいる。生き残った者はいないかと探すと子供の鳴く声が聞こえる。女の子か?

横倒しになった幌馬車の幌の中の荷台にその子がいた。頭から血が流れている。馬車が倒れた時に荷物の木箱に頭を打ち付けてしまったようだ。

コランは腰に付けた革製のマジックバッグから中級ポーションを取り出して少女の傷口に振りかけた。治癒出来た。血の汚れを消すための清掃魔術を掛けると金髪の5~6歳のとても可愛らしい顔立ちの美少女だったのが判った。首に奴隷の首輪を付けられている。

「奴隷だったのか」

「怪我を治して下さってありがとうございます」

少女が礼を言う。まるで貴族のような品の有る所作だった。


馬の死体をそのままにしておくと他の魔物が寄ってくるので道の横の地面に仙術で穴を掘ってそこへ馬の死体を移して焼却処分した。人間の死体は杖の先を受けて亜空間に収納した。更に幌馬車を荷物ごと収納した。衛兵の詰め所か冒険者ギルドで出すことにする。マジックバッグに死体を収納したくない。

生き居残った奴隷の少女はミチルと名乗った。


コランは召喚獣の白い一角馬ユニコーンを呼び出してミチルを背に載せた。ここから王都迄は100㎞有るので歩かせるには、しのびなかったからである。コラン自身は横に並び歩く。脚力、体力には自信が有るからだ。


王都の入り口の検問所に着いた。頑丈な塀に囲まれた王都の入り口は分厚い木材をミスリル板で補強した扉で守られている。他国の軍を入れないことと大型魔物の侵入を防ぐことが目的である。

門番は顔見知りの青年だった。

「おお、コランさん、今年も王都に戻って来てくれたんですね」

「街道で商人の幌馬車がドラゴンに襲われていたんじゃ。

生き残ったのはこの子だけだった。死体と馬車は荷物ごと、収納空間に入れて来たので報告したいんじゃが」

「王国軍詰め所に連絡しますのでこのまま詰め所に向かってください。ところでドラゴンはどうなりましたか?」

「安心せい、すでに倒して居る。首を見るか?」

「ハイ是非詰所の裏庭で見せて下さい」

「うむ、承知」

門番の青年は部下に持ち場を変わって貰って、魔道通話機で詰め所に報告した後コランを案内した。

「おお、コラン殿ではないか。何でもドラゴンに商人の馬車が襲われていたそうだが見せてくれるかな」

小隊長のグレンザが対応してくれた。

「ふむ、これじゃよ」

コランはドラゴンの首を出して見せた。

「おおこれはまた灰色ドラゴンじゃないか!凶悪な顔をしているなあ」

「「「それにしても見事な切り口だなあ」」」」

集まった隊員たちが感心している。

「そりゃそうさコラン殿はこの国に1人しかいないSSクラスの冒険者でもあるからなあ」


「商人と護衛の冒険者の死体と積み荷の入った荷馬車はここで出しても良いかな?」


「いや、冒険者がらみなら冒険者ギルドで確認して貰った方が良いだろう。商人の身元は商業ギルドに確認させた方が良いだろう」


「了解じゃ。そうするよ」

コランは街中の冒険者ギルドに向かった。



「コラン様5年ぶりですわね」

冒険者ギルドの看板受付嬢のサユミーヌ嬢が言った。

「おお、サユミーヌさん相変わらず若々しく美しいのう」

「相変わらずお口がお上手ですのね。こんなお婆ちゃんをつかまえて、うふふ」

彼女はエルフ美女なのだ。50年前からの知り合いだが、実年齢は謎である。

「今日はギルマスのガレン殿に報告したい事が有ってのう。取り次いでくれないか?」

「はい、少々お待ちください」


ギルマスルームに通されると、王国軍門前詰所から魔道通話機で連絡が有ったらしく商人の馬車がドラゴンに襲われた事を知っていた。そして任務を遂行中に逝ってしまった、勇気有る冒険者たちの遺体を取り出して身元確認して貰う。

全員Aランクの猛者達だった。身元引受人に連絡が行く。


一方で商業ギルドから人員が派遣されてきて商人の身元が判明する。


「この男は我々が目を付けていたザックと言う悪徳商人です。奴が運んでいた荷を確認した所、密輸品が多数確認されました。王国によって幌馬車毎押収することになります」


コランは別に荷が欲しい訳では無かったので簡単に了承した。

それよりも奴隷にされていた、ミチルという少女の事だった。

あの場からここ王都まで來る間に寝食を共にして別れがたい心情が生まれていた。

「ところでこの子の今後の事なのだが儂が引き取るということは出来んのだろうか?」

その一言でミチルの顔がパアッと花が咲いたように輝いた。彼女自身もコランの事を本当の祖父のように慕っていたのである。

「そうですねえ、主人であるザックが死亡したことで彼女は奴隷から解放されておりますから我々が保証人になればコランさんとミチル嬢の養子縁組は可能でしょう」

との商業ギルド長の言葉がコランとミチルの運命を決めてくれたのである。


討伐したドラゴンを売却したので、懐具合は暖かい。コランはミチルが奴隷になった海の向こうの故郷の町へ送り届ける旅に出ることにした。





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