疲れ切った心に、言葉ではなく「香り」で触れてくる物語でした。不思議な店「香り屋」で差し出されるのは、救いの言葉でも奇跡でもなく、忘れていた記憶を呼び覚ます、たった一つの匂い。線香の香りとともに蘇る母との記憶が、主人公を過去に縛るのではなく、前に進ませる力になっているのが印象的でした。派手さはありませんが、読後に静かな温かさが残る話です。