王都の隠れ家にある知る人ぞ知る仮面オーケストラ楽団〜没落貴族が店を経営していたら、世界を裏から牛耳る団体の長になってしまって優雅なスローライフを送ってる〜
幸運寺大大吉丸@書籍発売中
第1話 没落貴族、店を経営する
-side リュート-
「まっずーーーーい!!」
人が、来ない。
店のカウンターに突っ伏しながら、俺--リュート=ローズウェルは天井を見上げる。
名門伯爵家ローズウェル家の当主。
現在、王立学院に通う苦学生。
肩書きだけ並べればそれっぽいが、現実は厳しい。まず、ローズウェル家は現在進行中で没落している。というか、今いる身内は俺と執事のセバスしかいない。そのセバスが冒険者をして、俺たち2人分稼いでくれている事で成り立っている。
学費、家賃、食費。全部ギリギリ。
亡くなった親が遺産で残してくれたこのボロ屋敷でなんとかなれー!と思い、この店の経営を始めた。
なんやかんやで物珍しさでポツポツと人が来ていたから黒字になっていたものの、潰れたら、普通に詰む。
「おかしい……ここはギリギリ貴族街で、商人の出入りも良い。王立学園や王都の冒険者ギルド、立地は悪くない、内装も最低限、値段も学生向け……」
ぶつぶつと自己分析をしながら、リュートは店内を見渡す。
「椅子は中古、テーブルはガタつき、看板は自作……うん、無理そう」
分析していくうちにだんだんトーンダウンしてくる。
「色々詰んでる……今日もゼロか〜」
夕方。ここの店がある通りは大通りではないが、人通りはある。
あるのに、誰も入らない。
『喫茶ローズウェル』という看板を見て首をかしげ、通り過ぎていく。多分あれ、うちが喫茶店だと思ってないやつだ。
「そりゃ、こんな没落貴族のボロ屋敷誰も入らないよな……」
そのとき、視界の端に古いケースが映った。店の奥、棚の下。
布に包まれた、一本のヴァイオリン。
「……」
天才ヴァイオリンニストだった亡き母の形見だ。
間違いなく、最高級のヴァイオリン。
売ろうと思えば、そこそこの金になる。それこそ、このボロ屋敷もピカピカにできる。
だが、どんな事があってもこれだけは手放したくなかったのだ。
これには沢山の思い出が詰まっている。
「……まあ、暇だし」
誰に言うでもなく、ケースを開ける。
弦は張り替えたばかり。弓もまだ使える。
「どーせ、誰も聞いてないだろうし、たまには思いっきりのびのび弾こう」
そう言って、弓を置いた。
軽く、柔らかく。サラサラとテンポよく弾く。派手さはないが、なぜか耳に残る旋律。
母が好きだった、少し古い曲。
集中する……というより曲にのめり込む。
「--っと、もうこんな時間か」
気づけば、外は暗くなっていた。
ヴァイオリンを弾くといっつもこうだ。
時間を忘れてしまう。
まあ、今日は客も来なかったし良いか。
そう思って店じまいをしようと思っていると--ギィっと店の扉が、開いた。
「……?」
入り口の方を見るとそこには仮面を付けて一人のローブを羽織った怪しすぎる青年が立っていた。青年はズケズケと中へ入ってくる。
「……!?」
お客様ーあーお客様困ります!
閉店ガラガラでーす!
「ふふっ……君うるさいね」
まだ何も言ってませんけど?
「顔には出てるんだよね」
そんなに分かりやすかったですかね?
……というか、困るんですけど!?
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