今日の主役は私!

つばさ

今日の主役は私!


 今日の主役は私。なんてったって今日は結婚式だから。でもちょっと気が重い。なぜなら私は緊張しいで赤面症。はあ、気が重い。それに、久しぶりに会う、親戚。気が重い。そしてそして、結婚式は挙げない予定だった私たちに、結婚式を強要した私の両親。……撤回しよう、ちょっとじゃない、だいぶ気が重い。

 でもまあ、一生に一度の結婚式だし、楽しまなきゃだよね。今日の主役は私なんだから!


「おはよう、大丈夫そう?」

「おはよ、大丈夫だよ。当日まで心配かけちゃってごめんね、一生に一度だし、せっかくだから楽しもうかなみたいな気持ちになってるよ。全然大丈夫だから」

 結婚式当日に、新郎にこんなに心配させる新婦ってどうよ。彼は、結婚式を挙げる挙げないの両親との喧嘩の愚痴を聞いてもらっていたから、申し訳ない。それに、私の友達の少なさに合わせて彼の友達も少なくしてもらったし、本当に申し訳ない。

「ドレスも着れるし、あなたの友達に挨拶するのも楽しみなの。ほんと、楽しみもいっぱいあるから、心配しないで!」

「そっか、今日は無理せずね」

 …….好き! この人と結婚できるなんて、ほんと幸せなんだから、わがまま言わず結婚式やろう。


 ……と思ったのが今から5時間前、現在披露宴中。挙式は幸せだった。経験できてよかったとも思ってる。披露宴、こいつは辛い。

「久しぶりー! どうやってあんなイケメン捕まえたの?」

 一言余計だ。釣り合ってないとは自分でも思うが、人が言うセリフではないことは確かだ。なんとなく苦手だったこのおばさん、苦手な理由明確になったな。

「結婚おめでとう、子供ができても仕事はやめないでよー! ははは」

 なんだこの令和にアップデートできてない昭和上司は。なんでこいつ結婚式来てるんだ。それに、子供ができたらすぐにでもやめてやるよこんなブラック企業! 残念だったな!

「この方は俺の会社の社長だ。お前は小さい頃お世話になったんだぞ。挨拶しなさい」

 誰だお前は。父のステータスのためだけの結婚式か? お前は呼んでねえよマジで。


 …….だるい、本当に疲れた。ただただ主役が笑顔を張り付ける披露宴って、なんだよ。2次会、行かなくていいかな……いいわけねえよな、一応、主役だもんな。彼の友達厳選してもらっちゃったから、2次会ぐらいやらないとと思ったのが間違いだったな。いや、でも2次会は楽しいはず。…….ほんとに?


「大丈夫? ちょっと疲れたよね」

「大丈夫大丈夫、ちょっと疲れたけどね」

 大丈夫じゃない、全然大丈夫じゃないし、ちょっとどころじゃなく疲れた。でも彼にこれ以上心配かけるわけにはいかない。あとちょっと、あとちょっとがんばらないと。


 お色直しもして、ケーキ入刀もして、ようやく終わった。あとは2次会だけだ。

「ねえ、この後おでかけしない?」

「え? 2次会あるけど?」

「俺の友達は勝手に飲むだけだから、大丈夫。君の友達には申し訳ないけど、いいかな?」

 いや、いいのか? 主役なしとか許されるの? 私の友達は気兼ねない子たちだから全然構わないけども。…….いいわけない気がするけど……。

「すみません、2次会なんですが、この後2人で過ごしたいので、僕らは行かないんですけど、行きたい人はいってください! 予約もしてあるし、お金は僕が払うんで!」

 え!? 許されんの!? 私の人生ではそんなノリは許されなかったんですけど。案の定私の両親はびっくりしてる。私もびっくりしてる。

 でも彼の周りの人はいいっぽい。ひゅー、だの、このイチャイチャカップルが! 幸せにな、だの彼の友達は楽しそう。

 私の友達のエリアを見ると、キャー、カッコ良すぎる! とか言いながら盛り上がってた。いいのか? いいのか? いいっぽいぞ。

「じゃあ、いこっか!」

 彼が私の手を掴んで、そのまま外に出る。

 ん? え、ええ、えええ!? 私、今、ドレスですけどー!? この格好そのまま行くのー!?

 私、もしかして大変な人、好きになっちゃったかも。

 

 ほ、本当にドレスで街中歩いてる! ど、どうしよう、色んな人が見てる!

「カフェでも入る?」

 この格好で!? お店の人びっくりですけど!?

「あ、前行きたいって言ってたタルトの店とかどうよ、ドレスコードも完璧だし」

 完璧か!? むしろやりすぎなんですけど? 天然か? 怖いもの知らずなのか? えー!?


 お、おいしかった……。店員さんもお客さんもみんなびっくりしてたけどとりあえずカフェ入れた……。一生忘れないカフェになりそう…….。

 街中ど真ん中の大通りを歩く。わ、だんだん夜になってきた。なんか、なんか変なテンションになってきた。これが、楽しいってやつか? 楽しい、楽しい、楽しい!


「ねえ、私子供の時以来にスキップしたい気分!」

「スキップできるの? 俺できない」

「ええ? かっこわる! スキップは簡単だよ!」

 嘘、最高にかっこいい。


 見知らぬおっさんが私たちに声をかける、「幸せにな!」

「ありがとうございます!」

 ほんとありがとう、おっさんも幸せにな!

 

 見知らぬカメラマンが私たちに声をかける、「写真撮っていいですか?」

「もちろん!」

 ああ、幸せだ、幸せってこういうことなんだ。彼を見つめる。

「2人だけの結婚式、幸せだね!」

「よかった、一生の思い出になりそう?」

 もちろんですとも! という返答の代わりにキスをする。

「おめでとー!」

「お幸せに!」

「いいもの見れたー」

 見知らぬ人たちが私たちを祝ってくれてる。これが私たちの結婚式なんだ。

この人といたから、幸せな時間を過ごせた。これからも、この人と過ごしていくんだ。嫌なことあるかもしれない。喧嘩だってするかもしれない。でも、今日のこの思い出があるから、きっと大丈夫。


「ねえ、次はどこに連れてってくれる?」

「はは、ノリノリじゃん」

 ふふ、だって、だって今日の主役は私なんだから!

「どこへでも行きますよ、お姫様」

「12時過ぎても、逃げ出してあげないからね!」

 さあ、ドレスで駆け出そう!

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