さよなら、君と生きた証を。

中対知瀬

第1話:もしかしたら

風が冷たい朝。

今日も私は紅弓院の訓練場に立つ。

そうしていないと、心が崩れそうになるから。


__________あの日、学園襲撃事件。


私と琉が最後に並んで戦った夜。

炎に照らされた剣の煌めき、焦げた風の匂い、そして…琉が私を突き飛ばした瞬間の体温。


「俺が行く。姫叶は逃げろ。」


そう…言い残して、彼は姿を消した。

その後、先生から彼が死んだと告げられた。

でも私は一度も信じなかった。自分の目で見たことしか信じたくない。

彼が…琉が死ぬはずないって……信じてるから。





_______________2年後、高校三年生の夏。



その時は突然やってくる。


「警報!!北門側に侵入者!!!!」


緊急ベルの音が鳴り響いた。

訓練場がざわつく。

私は反射的に弓を取り、北門へ走った。


「翔琉、援護お願い。」


「わかってるよ。」


姫叶がクラスメイトの翔琉と共に北門にたどり着くと、黒い衣装を纏った集団が門を破っていた。

そのうち、将と話しているのは仮面をつけた男だった。

姫叶は狙いを定め、弓を引く。

風を裂く音。


一人の男の足を貫くと思った瞬間____


矢を弾き返す、金属の高い音が響く。

その音に私は手が止まった。

私は、この音を知っている。


姫叶は目を見開き、手に力が入らず弓を落としてしまう。

仮面の男はルインブレードという大剣を持っていた。



大剣………?



琉の持ち武器も大剣だった…

そしてあの音……もしかして…

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