第3話 こうなった経緯

 一目惚れだった。

 運命があるかどうかなんて、僕には分からない。


 だけど初めて見た時、この人だと思った。

 僕の意思とか、どうしたいとかは無関係に、勝手にそう思ってしまった。


 背景が全て後ろに流れていくような。

 半年前の衝撃は今でも覚えている。


 綺麗だと思う人は今までにもいたけど、それとは違う。

 ただ容姿が良いってだけじゃない。

 簡単には言い表せない、特別な何かを感じたんだ。


 まあ、僕だけじゃないだろうけど。

 そう思わせるくらいには綺麗な人だから。



 大変なことになった。

 

 伏見亜里沙ふしみありさ、三年生。

 僕も例にもれず、校内全ての男子の憧れ。

 よく校内一美人って表現があるけど、順位をつけることすらおこがましい。


 明るい性格に加えて優等生な雰囲気もある。

 良いところだけを切り取った人みたいだ。

 少し気が強そうだけど。

 

 学年なんか関係ない。

 そんな勢いで告白する男子が後を絶たない。

 

 一度断られても、諦めきれない人も多くて。

 そのせいかは知らないけど、他校と比べてカップルが少ないそうだ。


 僕なんか相手にされないって諦めていた。

 ただ遠くから眺めるだけの、雲の上の存在。

 誰とも付き合っていないことが唯一の救いだった。


 彼氏になりたいとは思わない。

 ただ知り合いに、出来ればこの高校生活で一度は話してみたい。

 それくらいだったのに。

 

 その伏見先輩と……


 危ない。

 偽装だった。

 頭にちゃんと言い聞かせないと。

 偽装、偽装、僕は偽装。


 お昼休み。

 いつものように教室で食べていたんだ。

 そこを急に、伏見先輩から呼び出しを受けた。

 教室のドア付近から、親指でちょっと来いって。

 

 移動教室でぶつかった件かと思った。

 わざわざ謝りに来るなんて、外見だけじゃなく心まで綺麗なのか。

 

 そんなワケがない。

 空気のような存在の僕が、先輩にぶつかってしまった。

 パニックになって逃げたのがまずかったか。

 すぐに土下座するべきだった。


 道中ずっと険しい顔で無言だった。

 きっとお怒りだ。

 不届き者としてどんな刑に処されるんだろう。


 怯えながらついて行ったんだけど……

 

 あとは知っての通り。

 今この状況にいたる。

 

 お昼までは想像もつかなかった。 

 偽装だけど、まさか付き合うことになるなんて。

 

 消しゴムに名前、効果がありすぎだ。

 ぶつかったこともそうだけど、できればもう少し抑えてほしかった。

 流石にアレはやりすぎだと思う。


 だけど、手を握られた。

 あの伏見先輩に。

 

 ……うん。

 

 先輩との偽装カップル。

 さっきはつい承諾してしまったけど、改めて考えるとすごい事だ。

 

 望んだ事とはいえ、こんな形で先輩と関わるなんて想像もできなかった。

 会話したことが今だに信じられない。


 先輩が、綺麗な顔が間近に迫ってきた。

 僕を追い詰めて目を見ようとしてきた。

 思い返すだけでドキドキして、心臓が飛び出しそうになる。


 嬉しいのか不安なのか。

 衝撃すぎてパニックになっているのか。

 気持ちの整理はまだつかない。


 分かっていることは、あくまで偽装。

 先輩はただ利用しているだけで、僕の事なんかどうにも思っていない。


 本当に付き合うワケじゃない。 

 分かってはいるんだけど、


「はあ……」

 

 これからどうなるんだろう。


 この音は。


 終わりのチャイムだ。

 今日も長かった。



 早く帰ろう。

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