老(OIL)

なかむら恵美

第1話

この町に引っ越して来て、早や1ヶ月。

落ち着いて来たので、近所を散歩。どんな姓字(みよじ)の人々が暮らしているのか、確かめてみる。半ば仕事だ。

「姓字研究所」に、わたしは勤めている。

文字通り姓字様々な情報の調査と提供を旨とする会社だ。社員わずか30人だが、結構、忙しい。

「師走(しわす)」

ヘンテコなわたしの姓字が奇縁となって、前の会社から引っこ抜かれた。


それにしても、穏やかだ。

吹く風が心地良く、青い空が包み込む。皆々、出掛けているのだろうか?しんとしている。

平均年齢が若くないとくれば、或いは病院。或いは葬儀。親戚縁者の誰それさんが、といった話も考えられなくもない。


「田中」に「鈴木」、「小野寺」「中村」。

表札に書かれた姓字は平凡だ。

姓字のみ。主(ぬし)の名前だけ。家族全員と並ぶ公(おおやけ)も色々だ。


唯一、新築っぽい家の前を通る。自然、表札に目がゆく。

縦書きで「老」。

はっ?おいる?「おいる」さん?油じゃあるまいし。横にOILとローマ字表記がなされている。やはり「おいる」で、合っている。正解なのだ。

老 若人

  和歌子


多分「わかひと」&「わかこ」さん。

じゃあ子供。子供の名前は何なんだ?少しドキドキしながら、確認を取る。

と、文彦

案外、平凡路線である。


(老いる、か。老いる、ねぇ)

はぁ~っ、不惑の我が身を思いつつも、是が非でも会いたい。出来れば取材をお願いしたいと思った。



                              <了>

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老(OIL) なかむら恵美 @003025

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