第50話 期末テストと勉強会。コタツの魔力と、権田の裏技

学生にとって、避けては通れない壁。  それが『期末テスト』である。


 放課後の九条家・リビング。  俺、リュミエ、陽葵、そして権田の四人は、参考書とノートを広げていた。


「……無理だ。眠い」


 開始5分。  リュミエが早々にペンを置き、コタツの中にズリズリと沈んでいった。


「おいリュミエ! 寝るな! 赤点取ったらエクレア先生の補習地獄だぞ!」 「うるさいぞ湊……。このコタツという魔道具が、私に『休め』と囁くのだ……」


 リュミエの隣では、すでにコタツと同化している銀河皇帝が、煎餅をかじりながら漫画(少女マンガ)を読んでいた。


「諦めろ、リュミエ。……この熱源(ヒーター)が発する赤外線には、精神を弛緩させる波動が含まれている。余の精神力でも抗えん」 「お義父さん、あんたは受験生じゃないからいいけどさ! 俺たちの邪魔しないでくれよ!」


 俺が嘆くと、皇帝はページをめくりながら鼻で笑った。


「ふん。たかが紙切れの試練に何を怯える。……分からぬ問題があれば、答えの方を『改竄(かいざん)』すればよかろう」 「ダメです。それができるのはアンタだけです」


 権力で物理法則ごと正解を変えるのはやめていただきたい。


   ◇


「まあまあ、湊。……今回は俺に秘策があるから安心しろ」


 眼鏡をクイッと押し上げ、権田が不敵に笑った。  彼がノートパソコンを開くと、画面に複雑なグラフと数式が表示された。


「ジャーン! 特製アプリ『先生の思考盗聴(マインド・ハック)』だ!」 「名前が物騒すぎるだろ! 何それ?」 「過去10年分の期末テストの傾向と、今学期の先生の雑談、板書の癖、さらにはSNSの投稿内容まで全てAIに学習させたんだ」


 権田がエンターキーを叩く。


「これにより、今回のテストに出る問題を98.7%の確率で予測した! ……これを見よ!」


 画面に『予想問題リスト』が弾き出された。  陽葵が目を輝かせる。


「すごーい! 権田くん、天才!」 「へへっ、それほどでも。……物理の第三問は『ドップラー効果』、歴史は『フランシスコ・ザビエル』の髪型について出るはずだ!」 「ザビエルの髪型は出ないだろ絶対!」


 権田の予想は胡散臭いが、藁にもすがる思いだ。  俺たちはそのリストを頼りに勉強を再開した。  ……しかし。


 ポカポカ……。


 コタツの温もりが、足元から脳天へと這い上がってくる。  みかんの甘い香り。  テレビから流れるニュースの心地よい雑音。


「……うぅ。ダメだ……意識が……」 「権田……AIに……『眠気覚まし』の機能は……?」


 俺と権田の頭が、ガクンと揺れる。  陽葵も「ふあぁ……」と目をこすっている。  九条家のリビングは、居心地が良すぎるのだ。最強の要塞は、最強の睡眠施設でもあった。


「……ふん。軟弱者どもめ」


 その時。  コタツから皇帝の手が伸びてきた。


「余が直々に『喝』を入れてやろう」


 皇帝の指先に、パチパチと黒い雷(魔力)が帯電する。


「な、何をする気だお義父さん!?」 「精神刺激(ショック)療法だ。……微弱な電流で脳を活性化させてやる」


 バチィィッ!!


「「「あべしっ!?」」」


 俺と権田、リュミエのお尻に電撃が走った。  飛び上がる三人。  一瞬で目が覚めた。というか、命の危険を感じた。


「貴様ら、学生の本分を忘れるな。……知識は力だ。余が銀河を統べることができたのも、誰よりも学び、誰よりも考えたからだぞ」


 皇帝が珍しく真面目な顔で説教を垂れる。  漫画を片手に持ったままだが、妙に説得力があった。


「……分かりましたよ! やればいいんでしょ、やれば!」 「やってやろうじゃないか! AI予想と根性論のハイブリッドだ!」


   ◇


 数日後。  テスト返却の時間。


「……お、おい。嘘だろ」


 俺は震える手で答案用紙を持っていた。  【 92点 】。  自己ベスト更新だ。


「すげぇ! 権田の予想、マジで当たってた!」 「ふふん! 俺の情報戦に死角はないぜ!(なおザビエルの髪型は出なかったが)」


 リュミエも涼しい顔で高得点を叩き出している。  元々頭がいい上に、皇帝の電撃スパルタ教育が効いたらしい。


「ふん。地球のテストなど、赤子のパズル遊びだな」 「よく言うよ。……お義父さんに感謝しなきゃな」


 俺たちは顔を見合わせて笑った。    その日の夕飯。  皇帝は俺たちの答案用紙を見て、「悪くない」と短く褒め、ご褒美にコンビニの『プレミアムロールケーキ』を全員に奢ってくれた。  ……もちろん、西園寺先輩のブラックカードではなく、母さんからのお小遣い(お手伝い報酬)で。

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