新聞記者と魔王
煌堂 潤
第1話 魔王と生贄
分厚い眼鏡をかけて頭がボサボサ。女同僚には「折角の銀髪が勿体ない」と言われるが特に改善しようと思いません。
身嗜みに時間を掛けるぐらいならば、ニュースを追いかける方が自分に合っていると考えます。
こんにちは。私は結構何処にでも居る新聞記者です。
まあ、性別は女で、ゴシップを追わない記者だと言えば少しは特徴出ますかね?
現在私は、最近この国に現れた魔王さんのお城に滞在しています。
経緯を説明しますと、
1,魔王さんが現れて
2,廃城となっていたお城に住み始めて
3,生贄として若い女性を欲して
4,結構な被害になってきたので
5,突撃取材をしにきた
まあ、こんな所です。
同僚には全力で止められましたが、
「スクープじゃん!!」
「そりゃ誰も行きたがらないからそうだろうけど!!」
というやり取りをして突撃取材したんです。
いやー突撃をしたは良いですが、敷地内に入り込んで城まであとちょっと……という所で魔王さんとご対面しました。
個人的な第一印象としては、黒っ目付き悪っでした。
黒髪紅眼黒服ですよ。いかにも魔王ですね。
「此処に何をしに来たかは聞かない」
そう発言して、魔王さんはニタァと悪役故に悪役さながらの満点の笑みを浮かべて、私をあっという間に転がして、魔力の籠もった球を手に出現させて、肩を踏みつけてこられました。
革靴なのでかなり痛かったです。
まあ、端的に言えば殺されかかっていたんです。その時点まで。
「最後に言い残す事はあるか?」
気まぐれだったか、魔王さんが私にそう言って来たので、私は押さえつけられていない肩の方の手を使ってマイクを向けたんです。
「一言何かコメントください」
その瞬間、「は?」と魔王さんが魔力の球をぷしゅ~という音を立てて消しました。
消したというより消えたという方が正しいんでしょうか?
「それじゃあ一文字ですので、もうちょっとコメントください」
そう私が言うと、少しだけ私から離れて、脱力して屈みこんで「……貴様な……」と呻かれたので、ちょっとだけ心外でした。
屈みこんだ状態で、魔王さんが転がったままの私に問いかけました。
「……貴様は本当に何をしに来たんだ……」
私はいそいそと転がった状態から座って、自己紹介を開始しました。
「遅ればせながら、私そこの下町で構えてますフリーク新聞社の記者をしているものです」
「で?」
「魔王さんのネタを取材しに来ました」
「帰れ」
いいテンポで言われてしまいました。流れるような早さでした。
ですが、結構な頻度でウザがれる新聞記者です。この程度ではめげません。
「早速質問ですが、何故生贄は美女ばかりなんです?」
「聞く耳を持たないのか」
「コメントを聞く耳ならば全力で持ち合わせています」
今度は頭を抱えられてしまいました。小さく「面倒な……!」とか聞こえてません。
「アレですか。面食いなんですか? そして、その文字通り面食っているんですか?」
その言葉に、魔王さんは物凄く溜息を吐かれていましたが、小さく「面は食っていない」というコメントを頂きました。早速メモさせて頂きました。
「ちなみに、証拠は有りますか?」
「……今回の生贄がまだ其処に居る……」
という訳で、今回の被害者……そうですね、プライバシー保護のため、名前はリリアさんとしましょう。そのリリアさんがいらっしゃいました。
結構な押し問答をさせて頂き(内容はお宅訪問していいですか? 断るの応酬でした)、城の中に入れていただくと、リリアさんはキョトンとされていました。服は普通の村娘が着ているような服ですが、赤髪赤眼の美人さんです。美人は何をしても何を着てもお綺麗です。
「……あなた、よく魔王に殺されなかったわね」
どうやら、窓から先ほどの緊迫したやり取りをご覧になっていたようです。
「はい。自分の職業魂により助かったようです」
「なにそれ」
先ほどのやり取りをリリアさんにご説明させて頂きますと、凄い乾いた笑いを頂戴しました。
「魔王が可哀想に思えるとは思わなかったわ……」
「珍しい体験ですね」
「本当にな」
リリアさんとの会話の途中で魔王さんがやって来ました。すごく疲れた顔ですが、見目がいいと得ですね。絵になります。
「女。興醒めした。お前は此処で使用人として働いてもらう」
「え?」
リリアさんが凄くビックリした顔になってます。そりゃ生贄から使用人へランクアップしていますもんね。私も思わずメモを書いて二人に呆れられましたが。
「……貴様は帰れ。今回は見逃してやる」
「そうですね。ボチボチネタを頂きましたので一旦帰ります」
「二度と来るな」
凄く嫌そうに言われました。まあ、リリアさんのご実家は情報として持っているので、まずは娘さんが無事だったことを報告しないとですね。
そして、二度と来るなと言われて怖じけずに行けるのがお前の凄いところだと同僚に遠い目で言われた能力を発揮して、次の日もその次の日も魔王さんのお城に取材しに行きました。
流石に夜中とかご近所迷惑とかに成りそうな時間帯はよけてます。無理やり城に入るということもしていません。プライバシーが魔王さんにもあると思いますし。
リリアさんとも何度か顔を合わせて仲良くなれました。敷地内からは出られない魔法をかけられているそうですが、それ以外は結構自由に使用人されているらしいです。
「これで家に帰れれば万々歳なんだけど……ま、今は掃除を楽しませてもらってるわ」
「この城、廃棄されていたお城だけあって、きったないですもんね」
もう、リリアさんが掃除された場所がビフォーアフターで分かるぐらいの汚さでしたもんね。
まあ、結構な張り込みを続けて敷地内の木とかで野宿させてもらっていたら、たまたま通りかかった魔王さんにギョッとされて、来るなと言ってるだろうが! と放り出されること数度を繰り返して……何故か部屋を頂いてしまいました。
魔王さん曰く根気負けで、野良猫を迎え入れている気分だったそうです。
野良猫が寄ってきたら確かに猫嫌いじゃない限り心配しますよね。木から落ちないかとか、風邪引かないのかとか。
それにしても、根気負けとは言え、部屋を用意してくれるなんて、魔王さん良い人ですね。これ記事にしたら株が上がりますよ。とか言ったら、ジト目で私を睨まれました。補足としては、慣れた目付きです。
「……貴様はどうしたら黙るのだ」
「死んだら流石に黙りますけど、殺す前には一言くださいね。そしてそれを会社に私のメモごと送ってください」
「もう本気で黙れ」
魔王さんが疲れた声で恐らく魔力で作られただろう金ダライを私の頭上に落としました。流石に衝撃が強く、音もビックリしたので思わず頭を抑えてしまったのですが、スタスタと歩み去る魔王さんを見つつ、私はメモをとりました。
「ふむ。魔王さんはコントもイケるんですね。美形さんが面白いと結構モテるらしいですし、株が上がりますよ」
その私の独り言が聞こえたのか、魔王さんは壁にガンッ!と頭をぶつけていらっしゃいました。
以上のような理由で私は魔王さんの居城に滞在しています。
魔王さんが何故現れて、生贄を欲したのか。それが記事にすることが現在の私の目標です。
今日は私の一日を主題にしてみましょう。
というか、社長から「一日何やってるのか報告頂戴」と言われてしまったので、報告義務です。ほうれんそうです。
まず朝ですが、日の出と共に起床します。偶に家に帰っているので家で起床することも有りますが、最近はもっぱらお城で過ごしているというかネタ探ししているのでお城にある私に貸していただいている部屋で起床します。
洗濯物などは自分の部屋で行い、部屋干しをさせて頂きます。リリアさんのお手数をお掛けするわけには行きませんからね。これでも家事は一通り出来ますから。
終わると朝の散歩と言うなのネタ探しです。お城は広いのでまだまだ探す所が沢山ですね!今日は魔法石置き場にでも行ってみましょうか。
ある程度散歩をすると、町の方から鶏の鳴き声が微かに聞こえてくる時間があります。アレはキースさんの所の鶏ですね。どんだけでかい声を上げているのか気になりますが、町では時刻係として定着しています。私もキースさんの所の鶏の声で一度散歩を切り上げます。
何故ならリリアさんが「ついでよ」と言われて朝ごはんを用意して私の部屋に置いていてくれるからです。有難いですね。
今日の朝ごはんのメニューはフングス芋のバター炒めに目玉焼きとベーコンのようです。フングス芋はホクホクと湯気を上げていました。この芋が2メートルも土の中で大きくなるとか今でもあんまり信じられませんね。大変美味ですが。一つ収穫出来れば100人分の芋が取れるとかいいますもんね、この芋。ただ、一番おいしいフングス芋の核と呼ばれる本当に中心にある普通の芋サイズ分しかない部分は超高級品で庶民には手が届かないのが残念です。社長、いつか奢ってください。
朝ごはんをパクリと食べて、インスタントコーヒーで食後のまったりタイムです。
まあ、まったりしながら今まで調べたネタを纏めたりしているんですけどもね。
ただ、この時間は案外あっさり終わります。何せあんまりネタが入らないからですね。仕方がないのでこの城の見取り図というか地図を作成していってます。
隠し部屋とか見つけられたらいいな! という思考です。不自然に間取り図に空白があったりしたら何か隠れてそうですからね!まあ、今までで見つけられたのは掃除機具が置いてある部屋だけでしたが。
「あら、こんな所にあったのね。探してたから助かったわ。まずこの部屋から掃除しなきゃだけども」
まあ、お役に立てたようで良かったです。確かに掃除機具が置いている所がホコリだらけとか本末転倒な事になってますが。その日は流石に掃除機具庫のお掃除を手伝わせて頂きました。
なかなか見つからない隠し部屋ですが、腐ってもお城ですから見つからないようにしているからこそ隠し部屋ですよね。新聞記者としての探究心が疼きます。
まあ、本当はスクープだとかネタだとかで探究心を動かしたいですけどね。どっちも見つからないとか悲しい状況ですね。どっちも諦めませんが。
結局正午を告げる町の鐘が響くまで探しましたが、新しい普通の部屋の間取りを調べ終えるだけで終わってしまいました。
結構汚れてしまったので、手を洗ってからまたもや「ついでよ」とリリアさんが作ってくださった昼食を頂きに自分の部屋に戻ります。
ん?廃城になったお城なのに、そう言えばライフラインがちゃんと残っていますね……?
ちょっと疑問が出てきたのでいつかお聞きしたいですね。今はきっと「知るか」と言われそうですが。とりあえずそう言われるだろうなと思う程度には色々質問してみましたし。
ちなみに昼食にはボレロトマトが出ました。ボレロを聞かせてたら美味しくなったからボレロトマトというまんまな名前ですが、形が三日月形になっているのが一番の特徴でしょうねコレ。トマト嫌いもボレロトマトを食べればトマト好きになる!という謳い文句が出る野菜です。
もっとも、これは自分で育てるか買うかしないと手に入らない野菜……というか買うとなるとフングス芋の核程では無いですがお値段が良い感じのものだったと記憶していますが……
私は取材した農家さんが「食うか?」と言われて頂いたことが有るので味を知っていましたが……
ちょっと気になったので、リリアさんにどうやって食材を買っているのかお伺いしました。
「あら?食料は魔王の使い魔が人間に化けて買ってきているらしいわよ?喋らせる事はしんどいから適当に買わせて帰ってきているらしいけど……」
「使い魔まで使えるんですか、魔王さん」
というか、リリアさんにはちょこちょこ教えてらっしゃるんですね。まあ、自分の身の回りの世話をさせているから買い物は必要な物なんでしょうが……!
「ちなみに、使い魔はあの子よ。私の監視をしているの」
リリアさんの指さされた方向の窓にカラスが一羽鎮座していました。
この使い魔が買い物に出かけている時は、別の使い魔が着ているそうですが……
「私のところには居ませんねぇ」
と、思わず呟くとリリアさんがおかしそうに笑いました。美人さんの笑顔は綺麗ですね。
「ふふ、魔王曰く「奴と関わりを極力無くしたい」からだそうよ?凄いわね記者さん」
……流石にちょっとだけ傷つきました。
いや、うん。うざいだろうなとは思いますけども……監視すら嫌とか凄いなとか思わず自分に思っちゃう程でしたよ。
まあ、取材の手は止めませんけどもね!こうなったらもう意地でも何かでっかいネタというかスクープを頂いて帰るまで頑張る所存です!
昼からは魔王さんに突撃して放り出されるというルーチンワークなので省略します。
……とか社長に提出したら「よく生きてるわね」と言われました解せぬ。
つづく
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