つい甘やかしてしまうポンコツっ娘達からの愛が重い

うるちまたむ

第1話 ポンコツ妹が今日もかわいい

「これでよしっ!」

 完成した二人分の朝食をテーブルに並べ終わり、エプロンを外す。


 チラと壁かけ時計を確認すると、時刻は7:00。

 いつも通りだ。


「そして、董花とうかが起きてこないのもいつも通りか……」


 つい恨み節が口から溢れる。


 董花とうか───唐島 董花からしまとうか

 2つ年の離れた、僕の妹だ。


 綺麗な長い黒髪に、スラリとしたモデル体型。美人というよりは、小動物のような可愛らしい顔。

 本人曰く、チャームポイントは丸く大きな瞳だそうだ。


 その整いすぎた容姿のせいで、本当に兄妹なのかと確認されたことは数知れず。

 そのせいで昔は劣等感をよく覚えたものだが、今は自慢の妹だ。


 そんな完璧すぎる妹だけど、実は弱点が多い。

 まずは、朝が弱い。時間通りに起きてきたことは、一度もないと言っても良いだろう。


 それに勉強もあまり得意ではないみたいだし、忘れ物もしょっちゅう。

 他にもあれができない、これできないと数えたら枚挙に暇がない。


 ───そう。結構、ポンコツなのである。


 それが可愛かったりするんだけどね。

 こうやって甘やかすのがいけないのかもしれないけど。

 でも、可愛いからね。うん、そこ大事。



 それから少し待ってみたものの、一向に董花が起きて来る気配はなく……僕はハァと一つため息を吐いた。


 渋々二階への階段を上がると、一番奥の部屋にある董花の部屋を目指す。


「入るよー?」

 返事はない。それでも一応、コンコンと2度ノックをしてから扉を開けた。


「董花? ご飯できたから、起き…………」


 そう言いかけて黙ってしまったのは、ベッドの上でグースカ寝ている董花があられも無い格好をしていたからだ。


 綺麗な白くて長い脚どころか、穿いている横縞のパンツは見えているし、柔らかそうなかわいいお腹もこんにちはしている。


 うーん、今日はいつも以上に寝相がひどい。

 悪夢でも見たのだろうか?


 よく見たら、ブランケットも床に放り出されてるし……。


 それを手に取り董花に掛け直すと、もう一度声をかける。


「朝だからもう起きないとだぞー?」

「…………んー、もう……食べられないよぅ」


 おぉ、夢見てる人のテンプレみたいなことを言っておられる……。

 謎に感動してしまったが、せっかく用意した朝食は食べてもらわないと困る。


 幸せそうに寝ているところを起こすのは偲びないが、俺は董花の身体を優しく揺する。


「起きないと遅刻しちゃ──」


 突然、目の前が真っ暗になった。

 それと同時にぷにゅりと顔全体を覆う柔らかい感触。

 

 これはもしかして……。

 どうやら、急に寝返りを打った董花に抱きしめられてしまったらしい。


「む!? むううううううう!」


 助けを求めるように声を出そうとしたのだが、董花の抱きしめる力が思ったよりも強すぎて、全然声が出ない。


 ヤバい……。

 このままじゃ冗談じゃなく窒息死するって……!


 既に酸欠気味で若干意識が遠くなりながらも、バタバタと身体を動かし続ける。

 すると、抱きつかれる力が段々と弱くなっていって───ようやく、解放された。


「んう? おにーちゃん?」


 まだ夢見心地らしいトロンとした瞳で、こちらを見つめてくる董花。


「ハァハァ……お、お兄ちゃん……だぞ」

「どうして呼吸が荒いの?……もしかして夜這いっ!?」

「そんなわけあるかっ!」


 きゃーっ!なんて言いながら顔を抑える董花に、僕はチョップを入れる。


「ひどいですっ! いたいですっ! でぃーぶいですっ!」

「こんなものでDVにはなりませんっ」


 ピシャリと言いながら、僕はカーテンを開ける。

 差し込む陽光。

 少し眩しい……でも、いい暖かさだ。


「今日はいい天気だなぁー、雲ひとつないぞ!」


 僕が気分をよくしながらクルリと振り返ると、董花は掛け直したはずのブランケットに身を包んで小さくなっていた。


「こーら!いい加減起きなさい!」

「いやですっ!溶けちゃいますっ!」


 ウチの妹が朝に弱すぎる件。

 溶けちゃうって、塩かけられたナメクジじゃないんだから。

 心の中でツッコミを入れながらブランケットを引っ張るも、ビクともしない。どこにそんな力があるんだか……。


 呆れながら部屋の時計を見ると、時刻はもう7:15になっていた。


 よし、仕方ない。

 こうなったらいつもの手を使うか……。


 僕は少し董花から距離を離してから、口を開く。


「じゃあ、お兄ちゃん……先に一人でご飯食べるからな」


 その言葉にモソリとブランケットが動く。

 


「今日は、董花が大好きなハンバーグだったから、一緒に食べたかったんだけどなぁ……」

「にゃにゃっ!?」


 ブランケットから顔を出した董花は、目をキラキラとさせてこちらを見てくる。

 プレーリードッグみたいだな……。


「起きないみたいだし、全部一人で食べちゃうかなぁ……」

「にゃううう!? 起きますっ、すぐに起きますからっ!」


 董花は慌ててブランケットをバサリと脱ぎ捨てると、トトトとこちらに駆け寄ってくる。


「おはようございます、おにーちゃんっ♡」

「ん、おはようっ」


 返事を聞いた董花は、僕の腕を取ると恋人繋ぎしてくる。


「今日のハンバーグは何味ですかっ?」

「董花が食べたいって言ってたから、デミグラスハンバーグだよ」

「きゃーっ♡ 早くっ!早く食べましょうっ♡」

「こ、こらっ、あんまり急ぐと危ないよ?」


 僕の手をグイグイと引っ張るので、慌てて董花の後に続く。


 うーん、今日も朝から振り回されっぱなしだ。


 それでもどこか心地良さを感じていると、董花がクルリと振り返り、こちらを見つめる。


「おにーちゃんのおかげで今日も幸せですっ♡」


 あまりにもかわいい笑顔。


 少し恥ずかしく思いながら、俺もニコリと笑顔を返すと董花は満足そうにまた笑った。


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