第3章 年末年始だって甘い、甘衣さん

第15話 甘衣さんをデートに誘うと、甘い

 修学旅行も幕を閉じ、学校も冬休み前のラストスパートたる雰囲気をかもし出している。


 休み時間の話題は、冬休みの遊ぶ予定やら何やらで持ちきりだ。当然、僕だって例に漏れない。


 僕は修学旅行を通して仲を深めた男子三人に囲まれて、授業間のわずかな時間を過ごしていた。場所は、教室前の廊下。話題は『甘衣あまい 凪乃なのの可愛さについて』。


 彼女が僕にばかり構ってくれるもんだから忘れがちだけど、甘衣あまいさんは人気者だ。誰にでも分けへだてなく接するその柔らかい物腰と、何より……



「おい、成瀬なるせっ。お前の隣人甘衣の顔、見てみろよ」



 最近金髪に染めたの早坂がそう言うので、僕は指定された人物が『甘衣あまいさん』であることを認識し、彼女を見てみる。


 教室の最も後方、その左側に甘衣あまいさんはいた。


 いつもと違うのは、甘衣あまいさんがすやすや眠っていることだ。うたた寝をすることこそあれど、彼女は基本的に授業中を居眠りの時間に使ったりすることはない。


 おちゃらけたところもあるけど、そういうところは真面目なのが人気者たる理由なのかもしれない。


 だが、早坂はやさかたちが言いたいのはそんなことではないだろう。


 彼女の隣にある僕の席側を見る形で、机に左頬を預けている甘衣あまいさんは、無防備に眠っているとは思えない可愛らしい顔をしていた。


 ふつう、居眠りってのは変な顔でするものじゃないのだろうか。一分の隙もないその姿に魅了された男子の何人が、その思いを伝えて玉砕ぎょくさいしたのか……僕には知れない。



「ふつう、居眠りってのは変な顔でするもんじゃないのかな……?」



 山田が、メガネをいじりながら言う。奇遇だね、山田。僕もついさっきそう思ったんだ。河北も『うんうん』と同調している。それを見ていた早坂が『あ、そうだ!』と声をあげた。



「年末の話なんだけどな? 俺たち三人と女子三人で、駅前の映画行く予定なんだ。成瀬なるせも行かね? 甘衣も誘ってさ」



 早坂はやさかの提案を聞いた二人も『お! それいいねぇ』『甘衣がいたら、盛り上がるかもな』と口々に言う。


 甘衣あまいさんと映画……


 もう、既にいたずらをされる画しか浮かばねぇ。同じ状況たる修学旅行のバスで、存分にドキドキさせられたのだ。僕は耐えられるのだろうか。


 でも……シンプルに楽しそう。大人数で遊びに行くことなんてなかなか無いし、良い機会だ。



「うん、僕も行きたい。甘衣あまいさんも誘っておくよ」


「お! 了解。楽しみにしとくぜ……ってもうチャイム鳴ってる! 急げっ!」



 僕らは『やべぇ!』『教科書借りに行かなきゃ!』『もう間に合わないだろ!』と、各々好きに喋ってから取り急ぎ教室へ戻った。





***





「よしっ……!」



 教室の後列、その左側。


 それも最も後ろの成瀬なるせ かえでの左隣。


 その特等席で寝たフリして、廊下からの声に耳を澄ませていた甘衣あまい 凪乃なのは、誰にも見えないように『やったぁ』と微笑んだ。


 そこへ近づいてくる一つの影が、彼女を呼ぶ。



甘衣あまいさんっ。授業始まっちゃうよ。起きにゃ……痛っ! 舌噛んだ」



 その声に反応し、突っ伏した顔を机から引き起こすには、甘衣あまいの顔は W reasons でニヤけすぎていた。

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