第11話 僕の作戦の詰めが、甘い

 酔った甘衣さんは何をしでかすか分からないので、とにかく作戦開始だ。



「ね、ねえ三人とも」


「ん? どうした成瀬なるせ


「あのさ、トイレって何処だったっけ」


「トイレ? ああ〜……この旅館、複雑ふくざつだもんな。えーと確か、部屋出て左に真っ直ぐ歩いて、突き当たりを……」


「や、できれば一緒に行かない? ……みんなで」



 僕の考えた作戦はなんともわざとらしく幼稚なものだった。


 連れション作戦である。


 まずは、旅館の内部が複雑であることを口実に、一緒にトイレまで着いてきてもらう。そしてトイレまで案内してもらったら、どうにかして部屋までダッシュ。


 そして甘衣さんを外へ……と、したいのだが肝心な『部屋までダッシュ』の部分の作戦を練ることができていない。


 どうにも行き当たりばったりな戦略だが、仕方ない。僕に考えを巡らせる時間はないのだ。


 もたもたしていると、修学旅行というテンションが上がる環境におかれた彼らは部屋のなかで暴れ回り、僕の布団(甘衣さん)を踏んづけるだろう。



「ぼ、僕さ方向音痴で……だから、一緒に……」



 ……適当すぎたか? やべぇのか? これ。



「おぉ成瀬なるせっ! お前もついに俺たちを連れションに誘ってくれるとはっ……!」


「感激だぜ〜!」


「成瀬君……ようこそ僕たちの世界へ」



 よっしゃ! いけた!



 早坂、河北はいい顔で笑って、山田はメガネをくいっと持ち上げながら、歓迎した。こっちの学校では連れションが仲を深めるキーなのかもしれない。



「あ、ありがとう。恩に着るよ」



 先んじて玄関でスリッパを脱ぎ、靴に履き替える三人。僕は一歩遅れて、彼らから見えない位置に入ったタイミングで自身の布団に話しかけた。



甘衣あまいさんっ。僕が皆を引きつけておくから、その間にロビーまで行ける? 女子の宿泊棟までは外を歩かなきゃいけないから、連れショ……じゃなくて……その、すぐに追いかけるよ」



 甘衣さんは、多分酔ってて何も頭に入っていないのだろう。顔を桃色に染めて、唇を噛み、覗き込む僕を見つめるだけであった。


 さっと掛け布団を被せ『ごめん。今行くよ』と呟いてから、三人に着いていく。


 広い部屋にぽつりと残された布団の膨らみ。その中にいた甘衣 凪乃は、酔いとは別の理由でその頬を染めていた。



(な、なんで……なんでわたし、成瀬の部屋にっ!?)



 甘衣は、たった今酔いから醒めた。


 自分の部屋で、友人が買ってきた美味しそうなお菓子を食べて、それからの記憶がない……



(さっきいたのって……成瀬なるせだけじゃなかったよね)



 甘衣あまい 凪乃なのはようやく自身の置かれた状況に気づく。



(早くここから脱出しないと、わたしは変態だと思われてしまう……)



 未だにほかほかと火照る身体を、もぞもぞ動かして布団から這い出る。微妙にぐらつく視界を、懸命に保って玄関へ向かう。


 意図せずに始まった、二人三脚の脱出作戦が今、開幕。

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