天運による選択

『ザシュッザシュッザシュッ』

田植えの準備の為に、田起こしの作業を行っている人達の様子を眺めていますと。

『貴女が監視をしていると奴隷達は仕事に手を抜かずに、熱心に働きますね♪』

背後から声を掛けて下さいました女魔法使（マーギエリン）い様に対しまして、私は心底よりの敬意と感謝の気持ちを込めながら、恭しく深々と御辞儀を行いまして。

『有難う御座います。女師匠（レーレリン）』

『ザシュッザシュッザシュッ』

私の大恩人でもあります女魔法使（マーギエリン）い様の女師匠（レーレリン）は、農作業に従事している人達に楽し気な眼差しを向けられますと。

『貴女があの奴隷達の中から抜け出してもう三年となりますけれど。非常に教え甲斐のある弟子を得られました♪』

『身に余る勿体ない御言葉に御座います。女師匠（レーレリン）』

私が生まれました死の王国は、頂点に君臨されます偉大なる死霊術師であらせられます王の下に弟子の死霊術士が居られますが。女師匠（レーレリン）は死の王の弟子の死霊術士の中でも、序列が上位の女魔法使（マーギエリン）い様となります。

『ザシュッザシュッザシュッ』

『老いにより衰えた奴隷は、貴女は血を分けた家族（ファミーリエ）でした祖父や祖母でありましても、私から学んだ死霊術により意思を持たない亡者に変えましたから。貴女が監視をしていますと、奴隷達は死してなお意思を持たない亡者として使役される恐怖心から、非常に熱心に働きますね♪』

『ザシュッザシュッザシュッ』

私は奴隷時代には家族（ファミーリエ）でした人達の様子を眺めながら。

『私は死霊術を扱う素質を天から授かったと、女師匠（レーレリン）に見出して頂けました。他の人達は天から選ばれなかったですから、老いて衰えるまでは人間として働き、その後は死霊術により未来永劫意思を持たない亡者として、死の王に御仕えするのが彼等に与えられた天命となります。女師匠（レーレリン）』

女師匠（レーレリン）は元奴隷の弟子であります私が、教えに忠実な事に満足気な表情を見せられまして。

『貴女の献身は死の王もきっと高く評価なされる事でしょう。もしかしたら師弟揃って死霊術の奥義を伝授して頂き、死の恐怖から永久（とわ）に解放されるかも知れませんね♪』

人間の根源的な恐怖は、いつかは必ず死ぬという点にありますけれど。数百年の長きに渡り若く美しいままの死の王に忠実に御仕えさえすれば、死の恐怖から永久（とわ）に解放される死霊術の奥義を伝授して頂けるかも知れません。

『はい。女師匠（レーレリン）。死の恐怖から永久（とわ）に解放される日が待ち遠しいです』